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第14話 桜田さんの攻撃! つんつん!



 午後の授業は眠くなりがちだ。

 ご飯を食べて空腹感が満たされてしまったのもあるだろうし、そもそも僕の生活リズムがあまりよろしくないのも大いに関係しているだろう。でも、授業中についうとうとしてしまうのは、誰だって経験したことがあると僕は信じたい。


 「皆、略奪愛に憧れはある?」


 なんか午後の授業は国語の先生のぶっ飛んだ問いかけから始まった。

 すると、まずは柊真が手を挙げて言う。


 「つまり吾野っちは今、妻子持ちの人と付き合ってるってことですかいな?」

 「待つんだ、加治。教育者たる人間が、そんな不貞な行為に走るわけがないだろう。学生の時はあったけど」

 「前科あるんかーい」

 「そう、あれは私がとある人との別れをきっかけに、しとしとと雨が降る中、隅田川の河川敷で雨空を見上げて悲しみに打ちひしがれていた、大学三年の秋の頃……」

 「語るな語るな」


 彼らの話が耳に入ってくるはずなのに、全然理解が追いつかない。睡魔に襲われているからか、僕の脳みそがもう働こうとしてくれていないのだ。ウトウトする頭を頬杖で支えると、余計に眠りそうになってくる。


 「私は色んな経験をしてきたけれど、皆には私の教え子としてちゃんとした恋愛をしてもらいたいね。そう、エミリー・ブロンテの『嵐が丘』のような」

 「吾野っちー、それってちゃんとした恋愛が書かれてる話?」

 「勿論そうだとも。というわけで今日は、この『嵐が丘』について……」


 ヤバい、眠い。教科書を開いたけれど、味気ない活字が並んだものを見ると余計に眠くなってくる。何かしら実技のある授業ならまだしも、こういう授業中に一度睡魔に襲われると、中々それを止められない。


 そしてとうとう、先生の声も耳に入らなくなってくるほど、僕の意識は朦朧としていた。僕の席の後ろは桜田さんがいるけれど、今はそんなことも忘れてしまっていた。


 「す、砂川君っ、砂川君っ」


 ただ幸運なことに、僕の席は教室の端っこ、先生の注意が行きにくい場所で全然存在感がない。だから多少寝ていてもバレないはずだ。いや、それでもちゃんと睡魔には抗いたいけどね、僕は一応真面目に授業は受けるタイプなんだから。


 「砂川くーん?」


 いやダメだ、もう目が開かない。

 そしてとうとう、僕の目が完全に閉じてしまった時──。




 「え、えいっ」

 「はぁっ!?」




 僕は体に何らかの刺激を感じて、つい声を出して飛び起きた。


 そのまま僕は慌てて周りをキョロキョロと見回す。近くの席の人は少し驚いた様子で僕の方を見ていたし、遠くにいる星歌もクスクス笑っていたけれど、幸運なことに先生にはバレていないようだ。

 

 何だろう、僕は眠りかけていたけれど、何か体にビビッと感じて飛び起きてしまった。何か悪夢でも見たのだろうか。


 「吾野っちー。これって本当にちゃんとした恋愛かなー?」

 「勿論そうだとも。そんなに気になるなら、まずはちゃんとした恋愛について語ろうか」

 「吾野っち、それだと現国じゃなくて倫理の授業になっちゃいそうだよ」


 しかし、一度は飛び起きた僕は、やはり再び睡魔に襲われてうとうとし始めていた。


 「まず、恋愛というのは……って、おい柳沢! 何寝とるんだ!」

 「ぐほぉっ!?」

 「柳沢。罰として、後で先生の家まで来るように」

 「え? 俺は一体何されんの?」


 前の方の席でがっつり寝ようとしていたクラスメイトが教科書で頭を叩かれて先生に起こされているのが見えたけれど、それでも僕は睡魔に抗えそうにない。何度も机に突っ伏しそうになる頭を頬杖で支えようとしたけれど、それが枕になって余計に眠くなってくる。


 「す、砂川君っ」


 そして、僕の目が再び完全に閉じられた時──。




 「えいっ」

 「ひぃあっ!?」




 僕は再び背中に何らかの刺激を感じて飛び起きた後、慌てて自分の口を塞いだ。二回目だからか近くの席に座るクラスメイト達はクスクス笑っていたし、遠くにいるはずの星歌や柊真でさえ僕の方を見てニヤニヤしていた。


 しかし幸運なことに、先生にはまだバレていない。


 それにしても、今、背中に感じた刺激は……気になった僕は、チラッと後ろの席を見た。



 すると桜田さんが僕に向かって手を合わせて、少し笑いながらペコペコと頭を下げていた。どうやら桜田さんは、うとうとしていた僕の背中をツンツンと小突いて起こしてくれていたらしい。

 

 僕は桜田さんに感謝して軽く会釈して黒板の方を向いた。この一部始終を桜田さんに観察されていたことが少し恥ずかしいけれど、かといって僕の睡魔が今も襲いかかってきていることに変わりはない。


 不思議だね、なんで寝ちゃいけないと思えば思うほど、人は眠く感じてしまうのだろう。


 「す、砂川君?」


 後ろから桜田さんが小さな声で僕の名前を呼んでいるのが聞こえる。

 ごめん桜田さん、僕はもうダメみたいだ。僕が寝ているのに気づいたら、また起こして欲しい──。




 「え、えーいっ!」

 「ひょおおおおおおおおっ!?」




 桜田さんは何を思ったのか、僕の背中ではなく脇を小突いた、というかくすぐってきたのだ。



 僕は飛び起きて、慌てて口を塞いだけれど、もう遅かった。

 僕の情けない叫び声を聞いたクラスメイト全員が僕の方を向いていたし──。


 「砂川……」


 今まで僕が睡魔に襲われていたことに気づいていなかった先生に、とうとうバレてしまった。


 「砂川」

 「は、はい、なんですか吾野先生」

 「今日の夜、私の家に来るように」

 「なんでですか?」

 「明日の朝まで帰さないからな」

 「なんでですか?」


 どうやらこういう冗談を言ってくれるぐらいには、先生は怒っていないらしい……え、これ冗談だよね? すぐに教え子を自分の家に連れ込もうとする教育者、絶対良くないよね?



 僕はすっかり皆の注目の的になってしまって、とても恥ずかしくなっていた。

 しかし、僕の後ろの席に座る桜田さんは、善意で僕を起こそうとしてくれていたのだ。さっきまでは僕の背中をツンツンと小突いていただけだったけれど、それでも僕が寝ようとするから僕の脇をこちょこちょしようとしたのだろう。


 そして、一応お礼を言おうと思って僕が後ろの桜田さんの方に顔を向けると、桜田さんは机に突っ伏して眠っていた。

 え、寝てるの?と僕は思ったけれど、桜田さんの体は小刻みに震えていた。


 「ふ、ふふっ、ふふふっ、変な声……ふふふふっ」


 どうやら桜田さんは笑いをこらえているようだ。

 僕は結構恥ずかしい思いをしたけれど、桜田さんのツボにはまったのなら、僕は満足だ。





 授業が終わって先生が教室から出ていった後、僕は桜田さんに改めてお礼を言おうと思って後ろを振り返ったけれど、桜田さんは僕の顔を見た途端笑いだしてしまった。


 「あの、砂川君っ、こっちを見ないでくださいよっ。思い出し笑いしてしまいますから!」

 

 そんなに面白かったの?


 「ありがとね、桜田さん。何度も起こしてくれて」

 「これからも砂川君をツンツンしても良いですか?」

 「僕が眠ろうとしてる時だけにしてね」


 桜田さんの席が隣じゃないのが少し残念だけれど、桜田さんの前の席というポジションは、案外悪くないかもしれない。

 


 お読みくださってありがとうございますm(_ _)m

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