ゾンビ対峙!
ゾンビ防衛団に属する主人公。
その日はゾンビの湧き出る森にゾンビ狩りに団員総出で来ていた。
ガサガサッ!
草が揺れたかと思うとさっと人影が飛び回り、
影の通ったところのゾンビが倒され溶けていく。
その影の正体は他でもない、勇者ミクルだ。
彼のゾンビ殺戮能力はすごい。
1秒に10体のゾンビを倒すと言われているくらいだ。
「きりがないな!」
そう言ってまた森の中を飛び回る。
その姿に見とれていると突然、後ろからゾンビの唸り声が聞こえた。
「うわぁぁ!」
びっくりして情けない声を出してしまう。
すると影からあの勇者が現れそのゾンビをぶった切る。
「ぼーっとするな!」
そう言うと勇者はまた森の中へ消えてしまった。
彼に見とれていて忘れていたが
私にはゾンビを誘導し、一箇所に集めて罠に掛け、
一度にたくさん倒すという任務がある。
仕掛けた罠は残り2個。
まあ、誘導する前に勇者が全て殺戮してしまうのだが。
なぜこんなことになったか?
それは三年前のこと。
私の住む街、”モーサムリブ”の近くの森の中にある遺跡で
遺跡調査団が一つのミイラが発見したことがきっかけだった。
そのミイラは体に大量のゾンビウイルスを蓄えており、
それが街持ち込まれた結果、街中に広まってしまったのだ。
遺跡調査団員は特殊なマスクを付けていたので無事だったが、
一般人にとってそれは驚異的なものである。
不幸中の幸いとも言おうか
どうやらゾンビウイルスの空気による感染力は弱いらしく。
もうだめだと判断された地域は人ごと壁で完全隔離することで
被害を抑えることはできた。
さらにそれ以来、
森では原因不明なゾンビの大量発生が起こるようになってしまう。
元からゾンビの目撃情報はあったが、
それはUMAのような都市伝説だと考えられていた。
私達ゾンビ防衛団は事件後に結成され、
今こうして森のゾンビを徹底的に倒している。
しかし、一向に数が減らない。
何なら増えているまである。
遺跡調査団はゾンビ調査団に改名し、
ゾンビウイルス克服の研究を進めている。
しかし、ゾンビ調査団の信頼性は低い。
研究結果がデマであることが多いからだ。
例えば、
「友好なゾンビを作ることに成功した!これからは共生の時代!」
ということを広めたことがあったが、
実際には一時的に沈静化されたゾンビを友好と判断しただけだった。
その他にもゾンビ語の解明や無感染型ゾンビなど、色々なデマを流す。
唯一正しい情報といえば、ゾンビが6ヶ月で自然消滅すること。
そのくらいだ。
実は調査団を信じる人は少なくない。
私達は調査団を含め、その人達を”アンプロ団”と呼び
共通の敵として認識している。
アンプロ団には謎が多い。
例えば、団員数が不明なところだ。
調査団が巨大な地下室を持っていて、そこに10万の人が暮らしている
という噂を聞いたことがあるが、それも多分嘘だ。
私はというと防衛団D級、いわゆる使い捨て部隊に所属している。
しかし、私はなんだかんだ生きながらえた。
上の人達は私のことを”再生可能使い捨て部員”と呼んでいる。
私はいつ昇格できるのだろうか。
ところで、この三年も続いた対ゾンビ戦争でいろんなものがなくなった。
人もそうだが、資源がもっと大きい。
議会がすぐに臨時避難所を何箇所にも作ったので、
大体は無事だったが、
隔離された地域は本当に手が付けられないくらいひどい。
食料である小麦までもゾンビウイルスに侵されてしまっている。
臨時避難所での待遇もひどいものだ。
配給される食料は少なく、
寝るときも硬い地面で寝ることを余儀なくされる。
その上病気にかかると追い出され、二度と避難所に戻れなくなった。
そんな生活が3年も続いている。
市民の不満も限界に達していた。
そんなある日、ゾンビ調査団はこんなことを公表する。
「ゾンビが倒された時にでる体液は3年後に三体のゾンビを生み出す!」
というものだった。
そしてそれに続いて防衛団や
勇者ミクルを批判する内容が書かれている。
市民はブチギレ。
怒りのあまり避難所を飛び出し、
調査所に殴り込みに行く人も居るほどだった。
そして、調査所に行った全ての人たちは二度と帰ってくることはない。
それに続いて驚くべき動画が投稿される。
内容はゾンビの体液から大量のゾンビが生まれてくるものだった。
予想通り「フェイクだ!」と思う市民が多い。
しかし、我々防衛団や、勇者ミクルは薄々気づいていただろう。
それが事実で認めざるを得ないことだということに。
私もそうだろうと思っていた。
しかし、苦しむみんなを見ていると
私たちはゾンビを倒さずには居られなかった。
市民も守ってくれる存在である防衛団や勇者を攻めることはなかった。
「おい!撤収するぞ!」
団長の声が聞こえる。
あぁ、また考え事をしすぎてしまった。
「了解です!」
大きく返事をした後、罠を回収して歩いて街へと戻る。
いつになったらゾンビは根絶できるんだろう。
そう考えながら、だだっ広い草原をみんなで歩いていた。
すると突然。
どこからか火炎瓶を投げられた。
あたりに炎が広がり煙が立ち込める。
一瞬混乱が生じるが、一人一人はもう戦闘態勢に入っていた。
「この火炎瓶、よくできている。これはきっと調査団の仕業だ。」
ミクルは言う。
私達がゾンビを倒そうとするのをやめないからついに強行手段に出たのだろう。
団長は叫ぶ。
「隠れてないで出てこい!不満があるなら直接言いに来るんだ!」
当たり前だが、返事はない。
煙が消えてもまだ、周囲は不気味な静寂で包みこまれている。
どのくらい続いただろう、
その緊張が一気にほどけるような銃声が響き渡った。
バタリ...
人が倒れた音がする。
「ミクル!?」
団長が駆け寄る。
「おい!しっかりしろ!ミクル!」
返事はない。
「調査団のやろうめ...」
やるせない気持ちが私にも湧き上がってくる。
ゾンビを、いや、調査団もろとも破壊してやる。
私達の思いはその一つだった。
しかし、もう暗くなっていて
帰ろうにも街の門が閉まっているようだったので
私達は野宿をすることになる。
長い間森で戦っていたせいだろうか、疲れていたのですぐ眠りについた。
強い日差しがまぶたを通じて目に入ってくる。
朝だ。
体はベッドに横たわっている。
「ほら!起きないと学校に遅刻するわよ!」
母が私を起こす。
この状況に私は混乱しそうだったがそんなことはなく
いつものルーティーンかのように体動いた。
逆にこれが当たり前で何が疑問かすらわからない。
とりあえず顔を洗ってご飯を食べ、学校へ行く。
やっぱり何か違和感を覚えたが、何もわからない。
忘れ物をした気がするけど何を忘れたかは分からない。
そんな時と似ている。
学校にはお友達がたくさんいる。
そして数人体が変な色をしたやつもいる。
気にしたらいじめに繋がりそうなので誰も何か言ったことはない。
まあこれも常識ってやつだ。
今日は"道徳"の授業がある。
テーマは最近問題になっている「連続失踪事件」についてだ。
なぜ人がいなくなるのか。
周りの環境が悪いのか、友達とも関係がうまく行っていないのか。
うまくいかなかったらどうすればいいのか。
真面目に受けてもテンプレートのような回答しかない。
そんなつまらない授業を受けたあとに友達と面白い話をする。
都市伝説の話だ。
「ねえ、この世界に外があるって知ってる?」
友達が興奮した目でこっちを見ながら言った。
私はその言葉を理解できない。
空を見ても外があるようには到底思えない。
「そんなの嘘に決まってる。証拠はあるの??」
と、厳しく返した。彼は動揺もせずに。
「それがあるんだよ!この前地上につながる扉を見つけたんだ!」
「そうなの!?どこにあったか教えてよ!」
私も興奮気味に返す。
「いいよ!ついてきな!」
彼はそう言い走りだした。
私達は早く見ようと息を荒くして必死に走る。
突然、友達が立ち止まって。
「ここだ!」
という。しかし、そこには壁もないし地面もただの土だ。
疑った私は。
「ないじゃん、嘘つき」
と、また厳しく言った。彼は。
「えぇ〜この前はここに謎の空間が空いてたのになぁ〜」
と謎のことを言っている。
変な嘘に騙された。
そう思って後ろを振り返るとそこには薄暗い円形の穴が空いている。
「あぁ!それだよそれ!」
そう聞こえた頃には私はその穴に入っていた。
その穴をくぐると視界が歪んだ。
忘れていたものが次々と脳内に生成される。
私は悪だったのか?
敵だけを見つめる悪...
「おい!」
団長の声で目が覚める。
私は草原で眠っていた。
あぁ、夢だったのか。しかし、今のは一体...
少し考えた後、私は考えるのをやめた。
悪になりたくなかったからだ。
こんなに必死になってゾンビを倒し、
犠牲を払いながら市民を守ったという称号を失いたくなかったのだ。
周りの人に話を聞くと、何人か同じ夢を見たという。
私達は調査団が猛烈に憎かった。
そしてついに、私達は行動を起こす。
ゾンビ調査所を防衛団の全勢力を使って滅ぼしにかかったのだ。
自分がおかしいことをしていることはわかっていた。
しかし、止めることはできない。
自分を全否定する彼らが許せない。
自分たちが原因でゾンビ増えて街がより危機的な状況になる。
そんなのありえない!
私達は必死になって戦った。
また火炎瓶のようなものが投げ込まれ、煙が舞う。
人影だけが仲間の様子を伝えた。
一人、また一人と倒されていく。
煙が消えると私一人だけになっていた。
調査団に取り囲まれていてもう逃げ場はない。
その時、勇者ミクルが死角から姿を現した。
「ミクル!?どうして...!?」
返事はしてくれない。右手に銃を構えている。
そして。
「俺らは悪だ。もう、おしまいにしなければならない」
そう言ってミクルは銃を自分の口に突っ込み
そのまま自分をうった。
しかし、私は後には続かなかった。
この街には少しの間だけ平和が訪れた。
しかし数年後、人口を遥かに上回る数のゾンビが街を襲う。
ゾンビたちはすべてを破壊した。
6ヶ月後、地上には何も残っていなかった。