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秘境

天見透真は、見知らぬ山林に立っていた。辺りの静けさは彼を不安にさせ、この森が千年の眠りにつき、今にも彼を呑み込もうとしているかのように感じられた。ここは彼が今まで見たことのない場所で、木々は空高くそびえ、枝葉が交錯し、ほとんど日光を遮っていた。わずかに射し込む光が、かろうじて地面に降り注いでいる。


透真は無字天書をしっかりと握りしめていた。この古書からは神秘的な気配が漂っている。モニカが彼にこの書物を渡したとき、その眼差しには言葉では言い表せない感情が込められていたかのようで、この本が彼と何らかの縁で結ばれているかのように思えた。


透真は、この世界に来る前に、ある古書で似たような符号を見た記憶を思い出した。その符号は、まるで鍵となるようなものが隠されており、彼の記憶の奥深くに沈んでいる。何かのきっかけがあれば、それが解き放たれるような気がした。


耳元には、小川のせせらぎが聞こえ、わずかながら安心感をもたらしていたが、それでも孤独と無力さが心に染み込んでいた。「ここが無字天書に示された場所なのか?」透真は自問自答し、その声は森の中でこだまし、異様なほどの静けさを感じさせた。


「この無字天書は、俺の運命に関わるものなのだろうか?」透真の胸中に疑念と不安が渦巻き、彼は知らず知らずのうちに、未知の運命の渦に引き込まれているような気がした。


森の奥深くに足を進めるにつれ、その場の圧迫感が強まっていった。空気には何か隠された力が満ちており、寒気すら感じられる。彼の一歩一歩が慎重になり、目は周囲を警戒し、不安の根源を探ろうとした。

突然、透真は足を止めた。強大な気配が一気に迫ってきたのを感じたのだ。その力は全身の神経を一瞬で張り詰めさせた。透真はすぐさま剣を抜き、心臓の鼓動が速くなり、手のひらには汗がにじむ。これは本能的な恐怖だった。


「誰だ!」透真は叫び、その声が森の中で響き渡った。しかし返事はなく、聞こえてくるのは風の音と、遠くで鳴く鳥の声だけだった。


その時、一瞬のうちに黒い影が森の奥から現れた。驚くほどの速さで、透真は反応する間もなかった。その者は猛獣のように近づき、一撃一撃が透真の急所を狙い、容赦がなかった。透真は必死に剣でその攻撃を受け止めた。「お前は誰だ!」透真は息を切らしながら問いかけたが、相手は答えることなく、さらに攻撃を激しくしてきた。


相手の動きは極めて速く、その力は凄まじい。一撃ごとに抗えないほどの圧力がかかり、透真はあたかも大嵐の中を漂う一枚の小舟のように、今にも押し流されそうだった。リンカイ十三剣は、相手の剣技の前ではまるで脆弱で無力に感じられ、透真は防御するのが精一杯で、反撃の余地はほとんどなかった。

「まずい、このままではやられてしまう!」透真は焦りを感じたが、恐れている暇はなかった。全力を尽くして、一縷の望みを見つけなければならなかった。


戦いが続く中で、透真は次第に気づき始めた。相手の攻撃は確かに激しいが、なぜか決定的なところで止まっている。これは何かおかしい。殺されるつもりではないのでは?

「違う、これは殺意がある攻撃じゃない……」透真は不意に思い当たった。相手は自分を試している、あるいは訓練しているのではないか、と。


考えている最中、相手の一撃が透真の肩に重くのしかかった。痛みは走ったが、血は出ていなかった。透真は数歩後退し、何とか踏ん張って立ち上がった。ますます疑念が深まる。


「お前は一体誰なんだ?」透真は再び問いかけたが、今度は混乱したままの声だった。


すると相手はようやく攻撃を止め、透真の前に立った。相手の顔には、微かな笑みが浮かび、その笑顔には何か深い意味が込められているようだった。


「君の反応は悪くないが、もっと鍛錬が必要だな」と相手はついに口を開いた。その声は低く落ち着いており、先ほどの攻撃の激しさとは正反対の温かみが感じられた。


透真は一瞬驚いたが、すぐに悟った。「あなたは……殺すつもりではなかったのか?」

相手は微笑みながら首を振った。「もし本当に殺すつもりなら、君はもうとっくに倒れていただろう。」

透真はほっと息をついたが、疑念はまだ残っていた。剣を収め、相手に深々と礼をした。「手加減していただき、感謝します。」


「礼には及ばない」と相手は手を振り、透真に礼を返さなくてよいことを示した。「私は、君がこの地の宝を奪いに来た悪党だと思ったから、試してみただけだ。」


透真はその言葉に驚きながらも、相手の言葉に納得した。この突然現れた剣豪に対する敬意が彼の心に芽生えた。「私は天見透真。道に迷い、この地にたどり着いただけで、争うつもりはありません。」

相手は頷き、表情を和らげた。「私はルシアン・モンタギュー。この地には少なからぬ因縁があるため、警戒せざるを得なかったのだ。先ほどの戦いは、試練でもあり、君を少しばかり鍛えるつもりでもあった。」


ルシアンの強さに透真は畏敬の念を抱き、彼からの指導は意外な収穫だと感じた。

「ルシアン様、ご指導いただきありがとうございます」と透真は心からの感謝を込めて言った。

「気にすることはない」とルシアンは微笑みながら遠くを見つめ、「君の目的地はこの場所なのだろう?」


透真は頷き、「そうです。ここには、私が探している手がかりがあるかもしれません。」

ルシアンはしばし沈黙した後、言った。「そうであれば、ある人物に会わせよう。彼女なら、君の助けになってくれるかもしれない。」


「彼女とは?」透真は問うた。


「私の古い友人の娘で、名前はリア・エリシアナという。彼女は古書や伝承に精通しており、君の疑問に答えることができるだろう。」


透真は喜びに胸を躍らせ、すぐに答えた。「ぜひ、お導きください。」


二人は林の奥深くへと進み、やがて隠れた山谷にたどり着いた。そこは四方を山に囲まれた、まるで別世界のような場所だった。谷の端には、古びた小さな家がぽつんと佇み、庭には見たこともない色とりどりの花が咲き乱れていた。甘い花の香りが漂い、静寂と調和したその光景は、まるで世俗から切り離された楽園のようだった。


「ここだ」とルシアンが静かに言い、足を止めた。


透真がその先を見つめると、一人の若い女性が小屋から出てきた。彼女は細身で優雅な姿をしており、長い深い青色の髪が風になびいている。澄んだ湖のような瞳が、穏やかでありながらもどこか神秘的な雰囲気を漂わせていた。


その女性、リア・エリシアナは、手に持っていた書物をそっと閉じると、彼らに気づき、微笑みを浮かべながら近づいてきた。その仕草一つ一つが優雅で落ち着いており、彼女自身がこの自然と一体化しているかのように見えた。


「リア、この若者は天見透真といって、彼はここで何か手がかりを探している。君なら、彼の助けになれるかもしれない」とルシアンが彼女に語りかけた。


リアは透真に向かって静かに頷き、柔らかい声で挨拶をした。「はじめまして。リア・エリシアナです。ようこそ、ここへ。」


彼女の声は軽やかで耳に心地よく、無駄のない話し方だったが、どこか控えめな印象を与えた。透真は彼女の穏やかで誠実な態度に、すぐに警戒心を解いて返礼した。


「天見透真です。ここへ来たのは、ある手がかりを求めてのことです。お邪魔してしまい、申し訳ありません」と少し緊張しながら答えた。


リアは微笑みながら、軽く首を振った。「気にしないでください。ここにはあまり客が来ることはありませんが、あなたの訪問も何かの縁でしょう。」


彼女の言葉は短く、簡潔でありながらも、その中に温かみを感じさせた。透真は彼女が誠実であることを感じ、次第に気持ちが落ち着いていくのを感じた。


「リアさんは、ここについて詳しいのでしょうか?」透真が少し遠慮しながら尋ねた。


リアはゆっくりと頷き、少し考え込むように目を伏せた後、再び透真を見上げて答えた。「ええ、ここは私が育った場所です。父が生前、研究のために使っていた場所で、私は小さいころからこの谷で過ごしてきました。」


彼女の声には、懐かしさと共に少しの哀愁が込められており、指先でそっと古書の表紙をなぞる仕草が、その感情を一層引き立たせていた。透真は、彼女が感情を表に出すのは得意ではないようだが、その行動の一つ一つが心の奥底に深い情を抱いていることを示していると感じた。


「お父上は学者だったのですか?」透真は興味を抱き、さらに問いかけた。


「ええ、父は古代の伝承や神秘的な力についての研究をしていました。彼が遺した書物の中には、あなたが探している答えが隠されているかもしれません」とリアは答え、静かに立ち上がり、書棚に歩み寄った。


彼女の指先が、まるで大切な宝物を扱うかのように古い書物に触れると、その姿からは彼女がどれだけこれらの書物を大切にしているかがうかがえた。

「これらはすべて父が遺したものです」とリアは言い、古びた一冊を透真に差し出した。「ここに、古代の伝承や神秘の力に関する記述が含まれているかもしれません。少なくとも、何らかの手がかりになるでしょう。」


透真はその書物を手に取り、その重さと力強さを感じた。リアの深い知識と優しさが、透真に新たな希望を与えた。「ありがとうございます、リアさん。この本が役立つといいのですが。」

リアは微笑み、再び静かに窓辺に立った。彼女の横顔は静かで穏やか、そしてどこか孤独さを感じさせるものだった。


透真が書物に目を通している間、リアは静かに彼のそばに座り、何も言わずに彼の思考を見守っていた。彼女の存在は穏やかで、その場にいるだけで透真の心が落ち着いた。時折、彼が質問を投げかけると、リアは的確かつ簡潔に答えた。


時間がゆっくりと過ぎていき、やがて夕方になり、山谷には薄い霧が立ちこめ、さらに神秘的な雰囲気を醸し出していた。


「リアさん、本当にありがとうございました。あなたのおかげで少しずつ道が見えてきました」と透真は感謝の意を表した。


「どういたしまして。もしまだ何かお手伝いできることがあれば、遠慮なくお知らせください」とリアは柔らかく微笑んで答えた。


その夜、透真はルシアンの提案で、谷の小屋に泊まることにした。彼は客室に案内され、静かで簡素ながらも心地よい寝床に身を横たえた。


眠りに落ちる直前、透真は数日前の出来事を思い返していた。「無字天書、武道会、そして自分の来歴を知る謎の人物……。すべてが謎めいていて、まだ解明されていないことばかりだ。」


彼は目を閉じながら、ふとリアの静かな目が思い浮かんだ。彼女の青い瞳は、まるで深い海のようで、その視線に触れると、不思議な安らぎが心に広がっていくのを感じた。


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