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任務が終わり、山賊の砦には再び静寂が戻った。透真は山の斜面に立ち、遠くに広がる山々を見つめながら、心に複雑な感情を抱いていた。今回の協力で彼は武道の真髄を再び味わい、この世界で自分が置かれている状況についても、より深く理解することができた。任務は無事に完了し、彼は再び旅立ち、自分の答えを追い求める準備をしていた。


荷物をまとめ、新たな旅路に向けて出発しようとしていたその時、モニカがふわりと彼のそばに現れた。その気配に透真は少し驚いた。彼女の足音はまったく聞こえなかった。モニカは透真に一袋の金を手渡し、微笑みながら言った。「これは約束の報酬よ。今回のあなたの働きは、私の期待を超えていたわ、透真。やっぱり、あなたはただ者ではないわね。」


透真はその金袋を受け取り、その重さからこれがただの報酬ではなく、モニカの期待も込められていることを感じ取った。彼は軽く笑い、「ありがとう、モニカ。任務も終わったことだし、俺は次の旅に出るよ」と答えた。


モニカは変わらず微笑んでいたが、その目には捉えどころのない感情が浮かんでいた。「透真、本当にもう行ってしまうの?冷燈商会には、あなたのような人材が必要なの。もしあなたが残ってくれれば、もっと大きな機会が得られるわよ。あなた自身の力で、一大事業を成し遂げることもできるかもしれない。」

透真はモニカの言葉の真意を測りかね、一瞬だけ心が揺らいだ。彼はモニカがただ聡明なだけでなく、武林の混乱の中で確固たる地位を築いている強力な手腕を持つ人物だと理解していた。しかし、その直感が、彼女とあまり深く関わるべきではないと告げていた。


「モニカ、君の提案は魅力的だ。でも、俺には俺の使命がある。それを変えるわけにはいかない。」透真は穏やかだが、決然とした口調で断った。その目は、すでに決意を固めていた。


モニカは彼の拒絶に動じることなく、むしろその目には挑戦的な輝きが宿った。口元には微かに笑みを浮かべ、「透真、本当にそれでいいの?この予測不可能な世の中では、チャンスなんてあっという間に消えてしまうのよ。時には、一度の誤った決断が一生の後悔に繋がることだってあるわ」と言った。

透真は彼女の言葉の意味を感じ取りながらも、自分の立場を貫いた。「君の言っていることは確かにそうかもしれない。でも、この道は俺が自分で選んで歩かなければならないんだ」と。


モニカは一瞬の沈黙の後、さらに深みのある笑みを浮かべ、意味深な表情で透真に近づいた。その目には、挑発と柔らかさが同居していた。「透真、もしかしてあなた、怖いの?私みたいな女と一緒に歩むことが、そして自分を見失ってしまうことが。」


透真は一瞬、そんな直接的な挑発にどう対処すべきか戸惑った。彼女の目に潜む何か抗いがたい力を感じ、不安がよぎった。しかし、彼はその不安を押し込め、冷静に返した。「これは怖がっているわけじゃない。それぞれが歩むべき道があり、俺は自分の道を行くだけだ。」


モニカは彼の言葉を聞いても引き下がらず、さらに一歩近づき、彼の耳元にそっとささやいた。「最強の力は、一人で孤立することからは生まれない。力を合わせることによってこそ、生まれるのよ。私と一緒にいれば、私たちは想像を超える未来を築けるわ。私なら、あなたを今まで見たこともない高みに連れて行ってあげられる。」


透真は彼女の呼吸とその気配を感じ、心の中の防御が少しずつ崩れ始めるのを感じた。モニカは知性も美貌も兼ね備えており、抗えない魅力を放っていた。彼女の言葉はまるで甘い毒のように、彼の心に染み渡り、困惑と揺さぶりを与えた。


しかし、透真が迷いの中にいるその瞬間、モニカは突然、軽く笑って一歩後退し、嘲笑混じりに言った。「透真、あなたは本当に自分の運命をすべて自分でコントロールできると思っているの?実はね、私があなたをここに連れてきたのよ。道場に入ったあの瞬間から、すべて見通していたわ。」


透真は驚愕し、道場での出来事を思い返した。確かに、あの時カースン師匠の態度は不自然だった。今、ようやくその理由がわかった。「つまり、君は最初から俺の動きを把握していて、すべて計画していたということか?」


モニカは微笑みながら頷き、その声には誇りと正直さが交じっていた。「冷燈商会の情報網は武林全体に張り巡らされている。私は早くからあなたに目をつけていたのよ。山賊の問題を解決するために誰かが必要だったけれど、商会が直接関与するのは避けたかった。だから、あなたを選んだの。でも結果的には、もっと良い成果を得られたわ。」


透真の中に怒りが徐々に沸き上がった。自分が誰かの駒として利用されていたことに気づき、憤りを感じた。「君は俺を利用して、君の目的を果たそうとしたのか。卑怯じゃないか?」


モニカは彼の目をまっすぐに見つめ、挑発的かつ冷静に答えた。「透真、そんなことを言うなんて、あなたはまだ純粋ね。この世には絶対的な公平なんてないわ。あなたは力を持ち、私は資源を持っている。私たちは互いに利用し合っているのよ。それが武林の本質じゃない?」


透真は彼女の冷静な表情を見つめ、何も反論できない自分を感じた。モニカの言葉は真実を突いていた。この世界では、すべての行動の裏に目的があり、すべての協力は利益の上に成り立っている。


「つまり、最初から俺は君の駒だったってことか?」透真は失望と自嘲を込めてそう言った。彼は困っている人々を助けていたつもりだったが、実際には他人の策略に巻き込まれていただけだった。


モニカは複雑な微笑を浮かべ、「駒かもしれないわ。でも、透真、気づいている?この世のすべての人は、何らかの駒なのよ。大事なのは、駒として生きるのか、駒を動かす側になるのかってことよ。」

この言葉は透真を沈黙させた。彼はモニカを見つめ、その真意を探ろうとした。表面上は冷静なビジネスウーマンのように見えるが、彼女の内にはどれだけの策略や計算が隠されているのだろうか。この女性は、ただの商人ではなく、人々を巧みに操る存在だ。


透真は胸の中で、モニカの言葉にはさらに深い意味が隠されていると感じた。彼女は冷酷な言葉を口にしながらも、何か他の感情が透真に対して向けられているように思えた。彼女の一言一言、一つ一つの行動が、彼を試し、その決断を問うているように感じた。


「君の言う通りだ。確かに、この世界に公平も純粋も存在しない。」透真はついに口を開き、その声には無力感と同時に覚悟が感じられた。「だが、俺は誰かに導かれるのではなく、自分の運命を自分で決めたいんだ。他人の駒として生きるつもりはない。」


モニカは一瞬驚いた表情を見せた後、すぐにその目に尊敬と称賛の光を浮かべた。「透真、やっぱりあなたは特別な人ね。だからこそ、私はあなたに興味を持ってしまったのかもしれない。」

彼女の声は柔らかくなり、その瞳には珍しく誠実さと謝罪の色が漂っていた。


透真は彼女を見つめ、その瞬間、モニカが利益だけで動いているわけではないと感じた。その言葉は、もっと深い感情を含んでいた。彼の怒りは徐々に和らいでいったが、彼の中に新たな疑問が生まれた。彼はこれまで、モニカを冷静で理性的な人物として見ていたが、今の彼女の表情や言葉には、葛藤や迷いが感じられた。


「モニカ、君は本当は何を望んでいるんだ?」透真は警戒を解き、彼女の複雑な内面をもっと理解しようと尋ねた。


モニカはしばらく沈黙し、やがて口を開いた。「透真、正直に言うと、最初はあなたを利用しようとしていた。でも、一緒にいる時間が長くなるにつれて、あなたは私が思っていたよりもずっと強く、誠実な人だと気づいた。あなたにはあなたの信念があり、歩むべき道がある。そして、それが私を少しだけ変えたのかもしれない。」


彼女の声には、確かな葛藤と揺れが込められていた。透真はその言葉に驚き、彼女がただの冷徹な商人ではなく、人間らしい一面を持っていることに気づいた。


「君が言いたいのは……」透真は、困惑したまま、問いかけるように言った。


モニカは苦笑し、小さくため息をついた。「透真、自分でもよくわからないの。私の人生は常に計算と計略で動いてきた。でも、あなたと出会ってから、少しだけ違う感覚を覚えたの。」


その声には、無力感と戸惑いが含まれており、透真の心に混乱をもたらした。


彼女の言葉は透真の心に波紋を広げた。彼はモニカを見つめた。普段は冷静で氷のように固い彼女の目が、今は名状しがたい感情に揺れている。それは彼女の心の深奥にある何かであり、透真は初めて、この女商人を別の視点から捉え直した。彼はもう、モニカをただの利益を追求する商人としては見られなくなっていた。彼女の内には、もっと深い葛藤や人間らしい弱さが存在していた。


「透真。」モニカはさらに一歩近づき、彼の耳元で囁いた。まるで夜の風のように優しく、誘惑するように。「本当にこのまま私の元を去るつもり?私が本当に何を考えているか、知りたくないの?もしかしたら、私たちには、まだ探求すべき多くのものがあるかもしれない。」


彼女の言葉には挑発的な響きがあったが、同時に優しさも含まれていた。それが透真の心を再び揺るがした。彼は、心の奥で自分が動揺していることに気づいた。モニカの魅力は、彼女の美しさや知恵だけではなく、その捉えがたい神秘性にあった。


「俺は……」透真が口を開こうとしたその瞬間、モニカが彼の言葉を遮った。

「透真」モニカは続けた。その声は今度は力強く、決意に満ちていた。「あなたも知っているかもしれないけれど、時々、私は本当に思うの。権謀術数や計略なんてすべて捨てて、普通の女性として生きられたらって。でも、運命はそれを許してくれないのよ。」


彼女の言葉には、自嘲と無念が含まれており、それを聞いた透真は心を揺さぶられた。冷静で強固な商人である彼女に、こんな一面があるとは思わなかった。この告白に、彼は彼女に対する好奇心をさらに掻き立てられ、次の一歩を踏み出すことがますます難しく感じた。


透真が別れを告げようとしたその瞬間、モニカは懐から一冊の古びた書物を取り出し、彼に差し出した。彼女の表情は一変し、柔和さが漂い、その言葉には誠実さと謝罪が感じられた。「透真、今回の行動は冷燈商会の計画だった。あなたがどう思おうと、私は自分の選択を変えるつもりはない。でも、これをあなたに託すわ。これは無字天書、私たちには解読できなかったけれど、あなたには何か特別な縁があると思うの。これが私の誠意、そしてあなたにもう一度考える機会をあげたいの。この本が、あなたの探している真実や、これから進むべき道を示してくれるかもしれないわ。」


透真は無字天書を受け取り、その中に隠された力を感じ取った。彼がそのページを開くと、モニカの言う通り、そこには一文字も書かれていなかった。しかし、何か神秘的な力がその本に宿っていることは、彼にもすぐにわかった。「君は、こんな重要なものを俺に託すつもりか?」


モニカは狡猾さと魅力を併せ持った微笑みを浮かべ、「商人は直感を信じるものよ。この本は、あなたの手でこそ役立つと感じたの。そして、私たちの縁はまだ終わっていないわ。透真、あなたが認めようと認めまいと、私たちの運命はすでに絡み合っているのよ」と語った。


透真は彼女を見つめ、複雑な感情を抱いた。この女性は、計画や策略に長けているだけでなく、抗いがたい魅力を持っていた。彼女は透真を怒らせ、惑わせたが、完全に拒むことはできなかった。

「もしかすると、君の言う通りかもしれない。でも、俺にはまだ歩むべき道があるんだ。」透真は最終的に落ち着いた声でそう答え、無字天書を大事にしまいこんだ。この本がすべての謎を解く鍵かもしれないことを感じつつ、彼は自分の旅が始まったばかりだということを再確認した。


モニカの目は優しく輝き、彼女は軽く頷いた。その言葉には別れの響きが込められていた。「いつかあなたが戻りたいと思ったら、冷燈商会で待っているわ。透真、私は信じている。私たちの物語は、まだ始まったばかりよ。」


透真は彼女を最後に一瞥し、背を向けて歩き出した。彼の心にはまだ疑問と迷いが残っていたが、進むべき道があることは確かだった。彼の姿が徐々に山道の彼方に消えていくのを見ながら、モニカは微笑み、その顔には確信が浮かんでいた。「透真、私たちの縁は、こんなところで終わるはずがないわ」と、彼女は静かに呟いた。



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