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山寨

山寨に潜入した最初の夜、透真とモニカは細心の注意を払い、目立たないよう行動していた。二人は普通の流民を装い、山寨の実態を探ろうと周囲を観察していた。


透真が前を歩き、時折振り返ってモニカが無事かを確認する。モニカはすぐ後ろをついてきており、顔には冷静な表情を浮かべていたが、その目には一抹の不安が見えた。偽装は成功していたものの、この見知らぬ環境では一瞬の油断が命取りとなる。


「大丈夫か?」透真は声を潜めて聞き、彼女を落ち着かせようとした。

モニカは微笑み、優しく答えた。「心配しないで、私なら大丈夫よ。ここの人たちはあまり敵意がないみたいだから、あまり緊張しないほうがいいわ。」


透真は頷いたが、心の中では警戒を解いていなかった。二人は山寨内を歩き続け、興味深い光景を目にする。ここは山賊の巣というより、むしろ流民の避難所のようだった。多くの貧しい民がこの場所で庇護を求め、山賊たちは彼らの生活を守る役割を果たしていた。


「ここは思ったよりも単純じゃないわね。」モニカは静かに言い、その目には疑念の色が浮かんだ。

「そうだな、この山賊たち……彼らの目的は一体何なんだ?」透真は考え込み、ここにはもっと深い事情が隠されていると感じ始めた。


翌朝、透真とモニカは食料を分配している広場に到着し、数人の流民が話をしているのを見かけた。透真は声を潜めてモニカに提案した。「あの人たちに話しかけてみよう。何か有益な情報が手に入るかもしれない。」


モニカは頷き、透真の腕にそっと手をかけ、親しげな雰囲気で二人は流民たちに近づいていった。透真は疲れた様子を作り、苦労してきた夫を装い、モニカは優しい妻を演じた。


「すみません、こちらで何か仕事はありませんか?私たちはもう何日も放浪していて、疲れ果てているんです……」モニカは優しく頼むような声で問いかけ、その声にはわずかな哀愁が混じり、聞く者の心を打った。


50代ほどの流民が振り返り、二人をじっと見つめてから、眉をひそめて言った。「お前たち夫婦、どうしてこんなところまで来たんだ?ここはあまり安全じゃないぞ。」


モニカは一瞬頬を赤らめたが、すぐに冷静さを取り戻し、にこやかに微笑んで答えた。「私たちも、この場所なら外の混乱から逃れられると聞いて、ここまで来たんです。」


透真もそれに続いて無念そうな笑みを浮かべた。「おじさん、この辺で安全な場所を教えてもらえませんか?私たちはここでの事情をよく知らなくて……」


流民は二人を一瞥し、遠くの小屋を指さして言った。「あそこに行けば何か粗仕事があるかもしれない。ここの頭は、働く者にはそれなりに良くしてくれる。少なくとも、腹を空かせることはないさ。」


透真は感謝の言葉を述べ、モニカの手を取って自然な感じで歩き出した。流民の視線から離れると、透真は小声でモニカに言った。「どうやら偽装はうまくいったようだな。」

モニカは小さく息を吐き、淡い笑みを浮かべた。「今はまだ喜ぶ時じゃないわ。もっと情報を集めなければ。」


モニカは人目を避けた場所で、軽く笑って言った。「どうやら私たちの‘夫婦’設定はうまく通ったみたいね。」


透真は苦笑し、「彼らが冗談を言ってくれて助かったよ。正直、ちょっと慣れないな。」

モニカは軽く肩を叩いて言った。「普通の夫婦なら、誰も怪しまないでしょう?」


二人が探索を続けていると、一人の山賊がこちらに向かってきた。透真は即座にモニカを引き寄せ、彼女を守るように前に立ち、警戒の目を向けた。しかし、その山賊は冷たく一瞥しただけで、二人に前方の集まりに行って休むよう指示し、去っていった。


「どうやらまだ見破られていないようね。」モニカは小声で言い、透真も少し安堵して息をついた。「でも、もっと慎重に行動しないといけないわ。別の場所を調べて、もっと情報を集めましょう。」


二人はさらに山寨内を巡り、ついに小さな広場にたどり着いた。そこでは、数人の山賊が流民に物資を分け与えており、それは明らかに先日の略奪によって手に入れたものだった。


モニカは小声で言った。「彼らは本当に貧しい者を助けているようね。」

透真も頷いて、「そうだな。普通の山賊とは違う。彼らには何か信念があるように感じる。」

突然、彼らの前に高大な影が現れた。それは山賊の首領、フレデリックだった。彼は冷たく二人を見つめ、その目には警戒の色が浮かんでいた。


「お前たち……どこから来た?」フレデリックは冷淡な口調で、わずかに脅しを感じさせる声で尋ねた。

モニカと透真は一瞬目を合わせ、隠し通せないと悟った。モニカが一歩前に出て、落ち着いた微笑みを浮かべて言った。「実は、私たちは普通の流民ではありません。私はモニカ・カラン、こちらは私の仲間、透真です。」


フレデリックは眉をひそめ、「モニカ・カラン?あの女商人か?」

「その通りです。」モニカは微笑んだ。「私のことはご存じですよね?」

フレデリックは頷いたが、依然として警戒を解かずに尋ねた。「聞いたことはある。しかし、ここに来た目的は何だ?」


「私はトラブルを起こしに来たわけではありません。この場所で、あなたたちが平民を守っている姿を見ました。私はあなたたちに、略奪をしなくても生きていける方法を提供したいのです。」

フレデリックは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに表情を引き締め、考え込むように沈黙した。そして少し考えた後、彼は問いかけた。「どういう提案だ?」


モニカは微笑んで言った。「私の商隊に加わり、私たちの護衛として働いてほしいのです。そうすれば、安定した収入を得ることができ、合法的に平民を守ることもできます。」


フレデリックはモニカの言葉を吟味するようにじっと見つめた。「悪くはない提案だが、なぜお前を信じなければならない?」

モニカは即座に答えた。「このまま略奪を続けるのは長続きしません。危険を冒すよりも、協力してより良い道を探したほうが得策です。」


フレデリックは再び考え込み、やがてゆっくりと頷いた。「考えてみよう。しかし、まずお前たちが本物かどうか、力を見せてもらおう。」

彼は透真に目を向け、「お前と一戦交えよう。もしお前が俺を倒すことができれば、俺たちはお前たちに従う。」


透真は静かに頷き、「いいだろう。一戦交えよう。」と答えた。

二人は山寨の訓練場へと移動し、周囲には興奮した山賊たちが集まり、その戦いを見守っていた。フレデリックは長刀を抜き、その刀身からは鋭い冷気が漂っていた。彼の姿はまるで冬の嵐のように冷酷で、その目には冷徹な光が宿っていた。

「準備はいいか。この戦いで、俺たちの未来が決まる。」フレデリックは冷たく言い放ち、長刀を構えた。


フレデリックの刀が風を切り、まるで冬の霜のように鋭く、透真に襲いかかる。その一撃は静かでありながら、致命的な速さを持っていた。刀光が閃くたびに、空気が凍りつくような感覚が場に満ちる。

透真は一瞬も油断せず、リンカイ十三剣を使って応戦した。彼の剣法は軽やかで、風のように流麗な動きでフレデリックの攻撃をかわす。二人の刃が交わり、鋭い金属音が訓練場に響き渡る。


フレデリックの攻撃はますます激しさを増し、刀の一撃一撃が圧倒的な力で透真を押し込んでいく。彼の刀勢は激流のごとく、容赦なく透真に襲いかかった。だが、透真は冷静にフレデリックの動きを観察し、絶えず身を翻しながら、剣で応戦した。


観戦している山賊たちも息をのんで見守っていた。「すごい…あの透真とかいう男、フレデリックの攻撃に耐えているぞ…!」

フレデリックの刀法はさらに激しさを増し、まるで氷の川が割れたかのように、刀光が空を裂いていく。透真は防御に回りながらも、徐々にフレデリックの攻撃のリズムに順応し、次第に彼の隙を探り始めていた。


二人の攻防はしばらく続き、透真はやがてフレデリックの一瞬の気の乱れを感じ取った。「今だ!」透真は心の中で叫び、その瞬間を逃さずに攻勢に出た。

剣の刃が輝き、透真はリンカイ十三剣の奥義を発動させた。剣光が一気に閃き、フレデリックを強引に押し返した。フレデリックは防御を試みるものの、透真の剣の勢いに押し負け、ついにその足元が乱れ、地面に倒れ込んだ。


透真は剣をフレデリックの喉元に向け、冷静に言った。「これで終わりだ。」

フレデリックは息を切らしながらも、苦笑いを浮かべて言った。「確かに、お前の勝ちだ。俺はお前を見くびっていたな……」


透真は剣を下ろし、フレデリックに手を差し伸べて立ち上がらせた。「強かった。お前の力がなければ、俺もここまで来られなかった。」

フレデリックは頷き、周囲に集まっていた山賊たちに向かって大声で宣言した。「この男に従え!今から俺たちは、透真の指揮のもとで動く!」


山賊たちはざわつき、透真の勝利を認め、頭を下げた。

その瞬間、モニカが急いで透真の元に駆け寄り、彼を力強く抱きしめた。「あなた、やったわ!ただ勝っただけじゃない、彼らの信頼も得たのよ!」


透真は驚いたが、すぐに優しく笑い、モニカを軽く抱き返した。彼はこの瞬間がどれほど重要かを理解していた。これは単なる勝利ではなく、今後の計画を進めるための重要な第一歩だった。

モニカはふと我に返り、顔を赤らめて透真から離れ、照れた様子で笑った。「ごめんなさい…ちょっと興奮しちゃったの。」


彼女は急いでその場を離れ、照れ隠しをしようとした。透真はその背中を見つめながら、モニカの内面に隠された複雑さを感じ取った。「彼女は俺が思っていた以上に、多くのことを抱えているのかもしれない……」


しばらくしてモニカは戻り、透真に傷薬を差し出した。彼女は冷静さを取り戻し、いつものように落ち着いた声で言った。「これ、私が作った特製の薬よ。早く塗って治しなさい。」


透真は薬を受け取り、彼女の気遣いに感謝しつつも、彼女の冷静さと内に秘めた強さに改めて感心していた。「モニカは本当に並大抵の人物じゃないな…。すぐに自分を取り戻し、次の一手を考えている……」

彼はモニカの過去と、彼女の真の目的について、ますます考えを巡らせるようになった。


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