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任務

透真は、町の酒場の一角で静かに座り、温かい茶を手にしながら、周囲の喧騒を耳にしていた。彼はここで何か任務を見つけ、武道会に向かう資金を稼ぎつつ、故郷に戻る手がかりを得ようと考えていた。そんな時、近くに座る武道の者たちの会話が彼の注意を引いた。


「聞いたか?モニカ・カランの商隊が出発するらしいが、今回のルートは厄介だぞ。険しい山間部を通ることになるんだ。」一人の男が声を潜めて話した。 「モニカ・カラン?あの女商人のことか?聡明で度胸があるし、商売も成功しているらしいな。」仲間が応じた。 「そうだ。だが、最近あの山間部は物騒で、山賊が出没しているそうだ……」


透真はこの話を聞き、心が動いた。この商隊は危険な山道を通るということで、自分を鍛えるいい機会かもしれないし、この世界についてももっと知ることができそうだ。


彼は立ち上がり、酒場のカウンターへ向かい、店主に尋ねた。「モニカ・カランの商隊はどこで集合していますか?」 店主は透真を一瞥し、頷いて答えた。「彼女の商隊なら、町外れの冷灯商会で出発準備をしているはずだ。今ならまだ間に合うだろう。」


透真は軽く微笑み、店主に礼を言って酒場を後にし、急いで町外れの商会へと向かった。


冷灯商会に到着すると、遠くに商隊が出発準備を進めているのが見えた。商隊にはいくつかの荷物を積んだ馬車があり、護衛には装備の整った武道の者たちが揃っていた。彼らは明らかに経験豊富な護衛だった。透真は人々の中から目立つ一人の女性に目を向けた。


それがモニカ・カランだった。噂通り、彼女は自然なリーダーシップを感じさせる人物で、上質な長衣をまとい、風に揺れる茶色の短髪と深い眼差しが冷静かつ鋭い光を放っていた。透真が近づくと、彼女はすでにこちらに気付いており、予想していたかのように振り返った。


透真は驚いた。これほどの洞察力と冷静さを持つ女性はそう多くはない。彼は少し時間がかかると思っていたが、彼女は既に自分の接近を察知していた。


モニカは穏やかに微笑み、透真を迎えた。「おや、どうかされましたか?」 透真は軽く礼をして答えた。「こちらの商隊がまもなく出発すると聞き、護衛として参加させていただけないかと思いまして。」


モニカは透真をしばらく観察し、その実力と動機を見極めようとしているようだった。彼女の眼差しは一切の動揺を見せず、まるで透真の内面を見通しているかのようだった。「あなたはただ者ではないようですね。どうして私たちの護衛隊に加わろうと思ったのですか?」


透真は簡潔に答えた。「私は旅をして修行を続けている剣士です。危険な道中だと聞き、腕を試す機会があればと思い参加を希望しました。」


モニカはその答えに満足したように微笑んだが、すぐには承諾せず、護衛隊長のマルクスに向かって指示を出した。「マルクス、この方の実力を確かめてください。」


護衛隊長マルクスは戦場を幾度も経験した武道家で、すぐに剣を抜き、内力を巡らせつつ構えた。彼は見知らぬ者を簡単に商隊に加えるわけにはいかなかった。特に、モニカ自身も同行する今回の任務ではなおさらだった。


透真は軽く微笑み、数歩後ろに下がり、いつでも攻撃を受けられる体勢を取った。

マルクスは一言も発せず、すぐに攻撃を仕掛けた。剣の動きは堅実で、内力もしっかりと乗っていた。剣の刃は冷たい光を放ちながら透真に向かってまっすぐ突き進んだ。


透真は軽やかに動き、まるで煙のようにその攻撃をかわした。その身のこなしは風のように素早く、マルクスは驚き、攻撃をさらに加速させた。剣先から冷たい剣気が何度も繰り出され、透真に迫る。


だが、透真は全く動揺せず、悠然とした様子で、巧みに避け続けた。彼の動きはまるで龍の影のように掴みどころがなく、マルクスの剣は彼の衣服すらかすめることができなかった。


マルクスは次第に焦り、さらに内力を注ぎ込み、攻撃を強めたが、透真は驚くほど冷静にそれをかわし続け、ついにマルクスの攻撃をかわしながら、その剣に軽く手を触れた。


その一撃は見た目には軽いものだったが、強力な内力が込められており、マルクスの剣は瞬く間に軌道を外し、勢いが崩れ、彼の足元も揺らいだ。


マルクスが体勢を立て直そうとした瞬間、透真はすでに彼の背後に回り込み、指を軽くマルクスの背中に当てた。その瞬間、マルクスは全身が震え、内力が封じられてしまった。


「ありがとうございました。」透真は静かに言い、内力を引き戻してから、元の位置に戻った。その表情は依然として余裕に満ちていた。


マルクスは深く息を整え、透真に向かって拳を握り敬意を示し、「公子の武功はまことに見事だ。マルクス、完敗です。」と素直に認めた。


モニカは一部始終を見ており、目の奥に一瞬の光が走った。透真の実力が非凡であることは察していたが、実際に目の当たりにすると、彼女の中で透真への興味が一層高まった。


「これほどの実力者に加わっていただけるとは、私たちにとっても大きな力になります。この道中、危険が待ち構えていますが、あなたがいればさらに安心です。」モニカは微笑んでそう言った。


透真は軽く頷き、今回の旅路に期待を抱いた。モニカの冷静さと判断力は、彼にとっても信頼に足るものと感じさせた。


マルクスは透真のためにすぐに準備を整え、商隊のルートや護衛の配置について簡単に説明した。モニカはその間も静かに透真を見つめ、何かを考えているようだった。


その日の夕方、商隊は林の中の広場に野営を張り、モニカは透真の元を訪れ、彼の隣に腰を下ろして静かに尋ねた。「透真さん、今回の任務について何か考えはありますか?」


透真は頭の中で考えを巡らせた後、答えた。「山賊がいるとわかっていながら、あなた自身が同行するのは、単なる物資運送が目的ではないようですね。」

モニカは微笑んで、透真の直感に満足しているようだった。「その通りです。実は、今回の目的はこの山岳地帯の状況を把握することにあります。」


その後の旅路で、モニカは折に触れて透真と話し、彼の背景や意図を知ろうとしていた。透真は多少の警戒心を持ちながらも、自分が遠い場所から来たことや、故郷に帰る手がかりを探していることを曖昧に伝えた。


夜が更け、商隊は谷間で野営をしていた。焚き火が温かな光を放ち、護衛たちはほとんど眠りに落ち、数人だけが見張りをしていた。透真とモニカは焚き火のそばに並んで座っていた。言葉は交わされずとも、気まずい沈黙は感じられなかった。


ふと、風が吹き、焚き火の火の粉が舞い上がった。モニカは笑みを浮かべ、沈黙を破って言った。「透真さん、この山はどう思いますか?」


透真は彼女を見て、軽く笑いながら答えた。「険しいけれど、景色はなかなか素晴らしいですね。あなたもこんな美しい景色をたくさん見てきたのでしょう?」


モニカは首を少し傾け、いたずらっぽい光を瞳に浮かべながら、「景色が美しくても、一緒に見る相手がいないと、その美しさを十分に楽しめないこともあるわ。」


透真は彼女の言葉に込められた意味を感じ取り、微笑んで軽く言った。「モニカさんは、一緒に美しい景色を眺める人を探しているんですか?」


モニカは隠すことなく、率直に答えた。「そうかもしれないわね。だけど、見つけるのはなかなか難しいわ。透真さんはどう?特にやりたいこととかあるの?」


透真は少し考えてから、冗談半分で言った。「もし機会があれば、美しい女商人と一緒に酒を飲んで、人生について語り合いたいですね。」


モニカは口元に手を当てて笑い、包みから小さな酒瓶を取り出して透真に差し出した。「なんと、ちょうどここに酒があるわ。美しい女商人って、私のことかしら?」


透真は驚きつつも酒を受け取り、「随分準備がいいんですね。」と感心した。


モニカは目を輝かせてウィンクしながら、「商人は準備が命よ。それじゃあ、乾杯しましょう。」

二人は杯を合わせ、焚き火のそばで軽く飲み交わした。夜風に乗って酒の香りが漂い、心地よい酔いが広がっていった。透真はこの女商人が、確かに普通の人とは違うことを感じ、旅に少しの楽しみが加わったように思えた。


「透真さん、あなたは私が会った中で最も面白い剣士の一人よ。また機会があれば、次も一緒に飲みたいわ。」モニカはそう言い、真摯な眼差しを透真に向けた。


透真も笑い、杯を掲げながら答えた。「その機会はきっとまた訪れますよ、モニカさん。」

その夜、二人の距離は一歩近づき、焚き火のそばでの笑い声は夜の静寂に溶け込んでいった。

翌日、商隊はさらに進み続けた。透真は道中で不自然な点に気付き始めた。曲がり角の枯れ葉が風もないのに動いたり、何気ない茂みの中に人影が一瞬見え隠れしたりしていた。これらの小さな兆候により、透真は山賊の脅威が徐々に迫っていることを確信した。


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