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透真は暗い山道をしばらく歩き続けた末、ようやく前方に町の入り口が見えてきた。それは静かな江戸の町で、木造建築が整然と並び、通りの両側には竹の提灯が掛かり、微風に揺れる明かりがほのかな温かみを映し出していた。疲労を感じつつも、透真は人の気配が感じられることに少し安堵した。
町に足を踏み入れると、透真はここが思っていたのとは少し違う雰囲気であることに気づいた。通りには商人や一般の町民がいるだけでなく、奇妙な服を着て武器を身に付けた者たちがいて、彼らは常に危険に備えているかのように目を光らせていた。彼らが放つ冷たい気配に、透真は緊張を覚えた。
通りの両側にはさまざまな店が並んでおり、鍛冶屋、薬屋、雑貨店まで揃っていた。薬屋の前には「内傷の治療」や「内力を増強」と書かれた看板が掲げられており、透真にとっては見慣れないものだった。町の奥へ進むほど、雰囲気はさらに張り詰め、武術の達人たちが低声で何かを話し、警戒心を強めている様子が伺えた。透真は心の中で思った。「やはり、ここは普通の場所ではないな。」彼はこの世界に漂う緊張感や危険が肌で感じられ、どこかに隠された秘密があることを直感した。
疲れを感じた透真は、「天涯館」という名の静かな居酒屋に足を踏み入れた。中は薄暗く、数本の油灯だけがほのかな光を放っており、客たちは三々五々と静かに何かを話しており、場の雰囲気は重く圧迫感があった。透真は隅の席に腰を下ろし、茶を注文して静かに周囲を観察していた。このような場所では、武術の達人たちが情報を交換することがよくあり、忍耐強く待てば何か有益な話が聞こえてくるはずだと考えた。
彼は隣の席の会話を何気なく聞き始めた。中年の男性二人が話しており、一人が低い声で言った。「聞いたか？あの大門派の連中がこの町に来たらしい。何かを探しているようだ。」
「何かを探してるって？」もう一人が警戒した声で尋ねた。
「あの連中が協力して動くなんて、ただの物じゃないはずだ。」
「ああ、そうだ。どうやらそれは町の外にある古い洞窟と関係しているらしい。」中年男は話を打ち切るようにして言った。
透真は黙ってその話を聞きながら、思索にふけった。大門派が協力して探し求めるものとは一体何なのか？洞窟に関係している？それは、自分がこの世界に来た時に遭遇した出来事を思い起こさせた。もしかすると、あの洞窟にはまだ解き明かされていない秘密が隠されているのかもしれない。
突然、透真は異様な気配を感じた。それは重々しく、圧倒的な存在感を伴っていた。彼が顔を上げると、隅に座っていた大柄な男が彼をじっと見つめているのに気付いた。男の目は鋭く、深淵のようで、その視線はまるで冷たい刃のように感じられた。
男は暗色のマントを身にまとい、歩く姿には揺るぎない自信が滲んでいた。彼が透真の方へ向かってくると、その歩み一つひとつに見えない圧力が伴い、周囲の空間さえも試しているかのようだった。
透真は冷静さを装いながら、その男が近づくのをじっと待った。男は透真の前に座り、微笑みながら言った。「見るところ、なかなかの器だが、この場所には慣れていないようだな。」その声は低く、魅力的でありながら、どこか圧倒的な力を感じさせた。
透真は慎重に答えた。「確かにそうです。私はただの旅人で、この場所についてはあまり知らないんです。」
男は軽く頷き、意味深な笑みを浮かべると、袖から一枚の古びた玉牌を取り出し、透真の前に押し出した。「この世界では、全てが偶然ではない。君がここに来たことも、単なる偶然だと思っているのか？」
透真は心の中で震えた。彼の言葉は透真の内心の疑念を突き刺すようで、不安を感じさせた。冷静を保とうと努め、さらに情報を引き出そうと試みた。「あなたは誰なんです？どうしてそんなことを知っているんですか？」
男は答えず、深い目で透真をじっと見つめた。「この玉牌を大切に持っておけ。おそらく、そう遠くないうちに、君にいくつかの秘密を教えてくれるだろう。」
そう言うと、男はすっと立ち上がり、無駄のない動きで店を後にした。透真は彼の去っていく背中を見つめ、疑問と不安が入り混じる中、再び玉牌に目をやった。その玉牌には古い符号が刻まれており、どこかで見たことがあるような気がした。疑念を抱きつつも、透真はこの玉牌を懐にしまい、この世界の秘密を解き明かし、故郷に戻る方法を見つけるために行動を起こす決意を固めた。
透真が酒場を出ると、夜の帳が降り、通りには竹の提灯が連なって、町の夜はひときわ静寂に包まれていた。彼は通りを歩きながら、あの謎めいた男の言葉が頭の中で繰り返され、自分が巨大な陰謀の中に巻き込まれているように感じた。
「この世界には、一体何が隠されているんだ？」透真は思案しながらも、その謎を解明することを固く決意した。
透真はさらに町を歩き回り、情報を集めようとした。彼は暗い薬屋にたどり着いた。店の前には「延命丸」や「元気丹」と書かれた看板が掲げられており、これらの薬がこの世界でいかに重要であるかがうかがえた。
その時、店の中から二人の声が低く聞こえてきた。透真はこっそりと近づき、彼らの会話の一部を聞き取ることができた。
「お前が言っていた『鬼焰丹』って、本当に内力を大幅に強化できるのか？」と、ひとりの大柄な男が低い声で尋ね、その目には欲望の光が宿っていた。
「間違いないさ。この『鬼焰丹』は極上の品だ。服用すれば内力は間違いなく急激に増強される。」薬屋の主人は悠然とした口調で答えたが、どこか狂気を帯びていた。「だが、過剰摂取すれば大きな副作用があり、基盤を損なう可能性もあるぞ。」
男は一瞬ためらったが、欲望が理性に勝り、歯を食いしばって言った。「構わん。内力を一時的にでも増強できれば、今の窮地を乗り切れる。」
取引が成立すると、男は「鬼焰丹」を手にし、陰険な笑みを浮かべて店を後にした。透真はその様子に違和感を覚え、男を追いかけ、さらにこの世界について知ろうと決意した。
透真は慎重に男を尾行したが、男はすぐにその気配に気付き、立ち止まって冷ややかな目で透真を睨んだ。「お前、ずっとつけてきたな。死にたいのか？」
透真は緊張し、反応する間もなく、男が大股で近づき拳を振りかざしてきた。透真は反射的に腕で防御したが、そのスピードが自分の期待に全く追いついていないことに驚いた。
男は冷笑しながら言った。「少しはやるようだが、長くは持たないだろう！」再び男が繰り出す攻撃はさらに強烈で、透真はその圧力に耐えられなくなってきた。
透真は内力を使おうと試みたが、どうしても力をうまく攻撃に転換できなかった。強大な内力を持ちながらも、それを制御する術がなく、攻撃は拙く無力だった。
男の攻撃はさらに激しさを増し、透真は防御の限界に達していた。強靭な肉体のおかげで攻撃を耐えられてはいるものの、このままではどうにもならないことを悟った。
「力はあるのに、どうして使えないんだ！」透真は焦り、ネットで見た戦い方を思い出そうとしたが、どうにもならなかった。
男の攻撃はますます激しく、透真は身をかわしたり防御するのがやっとだった。何とか持ちこたえていたが、戦いの主導権は完全に男に握られていた。
そんな時、突然空中で金属音が響き、一人の影が空から降り立った。少女だった。質素だが実用的な服を着ており、手には奇妙な機械の武器を握っていた。彼女の体は細身だったが、その存在感は無視できないものがあった。
男は警戒しながら少女を見た。「お前、機巧屋の者か？」
少女は軽く頷き、「そうよ。さっさと立ち去りなさい。さもなければ、容赦しないわ。」と冷静に言った。
男は「機巧屋」という言葉を聞くと顔色を変え、透真を放ってその場から逃げ去った。
少女は無言で武器を片付けると、透真に向かって冷ややかに微笑んだ。「次は気をつけなさい。毎回誰かが助けてくれるわけじゃないわよ。」
透真は息を整え、冷静さを取り戻してから答えた。「助けてくれてありがとう。俺は透真と言う。」
「ソララ・リフカよ。」彼女は簡潔に答え、その声にはどこか無関心さえ感じられた。「ここはあなたが来るべき場所じゃない。もう余計なことに首を突っ込まないことね。」
ソララの言葉は淡々としていたが、彼女の視線は男が去って行った方向に一瞬止まっていた。何かを確認しているようだった。
「さっき何を探していたんだ？」透真は少し躊躇した後、ようやく問いかけた。彼はソララがただ助けに来たわけではないことを薄々感じ取っていた。
「勘がいいわね。」ソララは微笑んだが、直接の答えは避け、そのまま背を向けて去って行った。ただ、立ち去り際に一言だけ残した。「ここは深い水のような場所よ。無闇に飛び込まないことね。」
透真は彼女の去って行く方向を見つめながら、心の中に疑問が渦巻いた。ソララの能力とその武器は並外れており、彼女の登場は「鬼焰丹」と何か関係があるのかもしれない。それが透真の心をさらに不安にさせた。
「まずは、静かな場所を見つけて修行するのが先決だな。」透真は心の中で計画を立てた。内力をさらに調整し、身体に適応させるための時間が必要だった。基本的な攻防の技術を習得しなければ、持っている力を真に掌握することはできないと悟った。
