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山谷

薄霧が谷を覆い、大地はまるで神秘的なベールに包まれたかのようだった。ルシアンは中庭に立ち、手には武林から届いた手紙を握っている。手紙の文面は力強く、「急いで武林の因縁を解決してほしい」と書かれており、事態は切迫していた。


ルシアンの眉がわずかに寄せられ、その手紙が彼に一抹の不安を抱かせた。最近、彼は何か異変を感じていた。まるで見えない目が暗闇から自分を覗いているような気がしていた。その疑念は日に日に大きくなっていく。


「トウシン、リア。」ルシアンは手紙を置き、家の中へと入っていった。落ち着いた声であったが、少しの緊張が滲んでいた。「今、手紙が届いた。武林の因縁に巻き込まれているらしい。今回の件は簡単ではなさそうだ。私はすぐに出発しなければならない。」


トウシンは顔を上げ、師匠の眉間に見えた憂いに気づいて胸が締め付けられた。「師匠、これは危険なことですか?」


ルシアンはうなずき、深い眼差しを向けた。「危険なのはもちろんだが、最近、この谷に何か異常を感じる。敵が暗躍している可能性がある。警戒を怠ってはいけない。防御を強化しておくが、二人とも決して油断しないように。」


彼は窓辺に立ち、片手をひるがえすと、元気が室内に輝きを放った。防御を施しながら、ルシアンは続けた。「ここにいくつかの陣法を残しておく。だが、お前たちも常に警戒を怠るな。私がいつ戻れるかはわからない。」


リアは心に不安を覚えたが、懸命に平静を保ち、うなずいて応えた。「叔父様、どうか安心してお出かけください。私とトウシンで何とかします。」


ルシアンは二人を深く見つめ、複雑な感情が胸中をよぎった。最後に何も言わず、振り返って去っていった。


彼の姿が霧の中に消えていくと、トウシンとリアは玄関に立ち、彼の背中を見送った。背中は次第に遠ざかり、ついに霧の中に飲み込まれた。二人は無言で見つめ合ったが、心の中には既に警戒心が芽生えていた。


夜が訪れ、谷は静まり返っていた。しかし、家の中には微かな異変が漂っていた。トウシンとリアは古書を灯りの下で研究していたが、心の中に不安が次第に広がっていった。トウシンは時折、窓の外を見上げ、何かしらの圧力を感じていた。


「今夜の雰囲気はおかしいね。」リアは小声で言い、手にしていた巻物を下ろして、眉をひそめた。

「俺も同じだ。」トウシンが低い声で答えた。彼は窓辺に歩み寄り、薄霧の向こうをじっと見つめ、何かを探しているかのようだった。外は静寂に包まれていたが、その静寂こそが彼の警戒心をさらに強めていた。


「錯覚かもしれないけど……」トウシンは軽く頭を振ったが、その不安は一向に消えなかった。

その時、外からかすかな物音が聞こえてきた。何かが動いているような音だった。トウシンは胸が締め付けられるような感覚を覚え、素早く扉のそばに歩み寄り、剣の柄を握りしめた。警戒心を露わにし、ドアに視線を固定した。リアはその後ろに立ち、険しい表情を浮かべている。


しかし、トウシンがドアを開けると、外には何もなかった。濃い霧の中、すべてが朧げで不気味だった。トウシンは眉をひそめ、疑念が一層深まっていった。


翌朝、薄明かりの中でトウシンとリアは外に出ると、中庭に何か異常な痕跡を見つけた。踏みつけられた草葉や、いくつか掘り返されたような土があった。二人は目を合わせ、不吉な予感が胸をよぎった。

「誰かが俺たちを監視している。」トウシンは低くつぶやき、表情は真剣そのものだった。「防御陣法はまだ破られていないが、明らかに誰かが試している。」


リアは無意識にトウシンの衣服を掴み、寒気が体を走った。「私たちはどうすればいいの?こんな状況……」


「警戒を怠らず、慎重に行動するしかない。」トウシンは少し考えた後に答えた。「敵はいつ襲ってくるかわからない。防備を強化しよう。」


その後数日間、谷には何の動きもなかった。しかし、この異常な静けさこそが、トウシンとリアの不安を増幅させていった。彼らは防御を強化し、夜ごとに交代で見張りを続けたが、緊張感は日ごとに増していった。


数日後の夜、風の音がさらに冷たく吹きすさぶ中、トウシンは屋内で古書を研究していた。その時、外から急ぎ足の音が聞こえてきた。


今回の音は非常に明瞭で、隠す素振りはまったくなかった。


「来たか!」トウシンはすぐに剣を抜き、心の中で張り詰めた糸のような緊張が走った。彼はリアの手を取り、屋内に引き戻すと、素早く扉を閉め、四方に目を光らせた。


突如、黒い霧の中で足音が激しく響き渡り、次の瞬間、数十人の黒衣の男たちが四方八方から現れ、トウシンを包囲した。黒衣の首領は高く冷徹な男で、その目には冷たい殺意が宿り、手にした長剣は霧の中で不気味な赤い光を放っていた。


「秘宝を渡せば、命は助けてやる。」首領は冷たく言い放ち、その声は寒風が吹き抜けるように冷酷で、威圧感に満ちていた。


トウシンは剣を握り締め、その目は鋭く光った。「秘宝が欲しければ、俺を倒してみろ!」彼は敵の企みが善意でないことを理解していたが、弱気を見せるわけにはいかなかった。


首領は冷笑を浮かべると、言葉を続けずに剣を一閃させ、攻撃が津波のようにトウシンに押し寄せた。

それは「血影養魂剣」という名の剣法で、一撃ごとに相手の気血を吸い取り、徐々に自身の力を増強していくものだった。首領の剣技は怪しげで捉えどころがなく、剣光はまるで血の影のように不規則に揺らめき、その一閃ごとにトウシンは気血を吸われるのを感じた。


トウシンは素早く後退し、心中で驚いた。「この剣法は気血を吸収する。長引かせるわけにはいかない!」彼は相手との距離を保ちながら、隙を探そうとしたが、首領の攻撃は影のように追い続け、トウシンに大きな圧力を与えた。


突然、首領が猛攻を仕掛けてきた。剣光は虹のように煌めき、一撃ごとにトウシンは内力が急速に失われていくのを感じたが、相手の気はますます強力になっていく。何度か打ち合った後、トウシンは体内の力が次第に削られていくのを感じ、一方、相手は戦うほどに勢いを増していた。


「このままでは駄目だ……」トウシンは歯を食いしばり、反撃を決意した。彼は素早く動き、「鏡花心法」で作り出した花影を使って相手の攻撃をかわし、全力で剣を振って反撃に転じた。彼の剣光は流星のごとく夜空を切り裂き、首領の隙を狙って一直線に迫った。


首領は不意を突かれ、剣光が衝突した瞬間、強力な反動を感じて体が揺れた。トウシンはこの短い隙を見逃さず、素早く間合いを詰め、剣先を首領の胸に向けて突き刺した。


しかし、トウシンが勝利を確信しかけたその瞬間、首領の口元に冷酷な笑みが浮かんだ。次の瞬間、首領の剣技はさらに狂暴さを増し、剣光は血の海のように荒れ狂い、トウシンを包み込んだ。トウシンは逃げ場がなく、必死に防御するしかなかったが、相手の剣技は無尽蔵で、次第に彼は防ぎきれなくなっていった。


「くそっ……」トウシンの心は沈み、自分の気血が大量に吸い取られ、元気も弱まり、剣勢も鈍っていくのを感じた。しかし、そんな極限の圧力の中で、彼は首領の剣技にわずかな綻びがあることに気づいた。

その瞬間、トウシンの心に師匠ルシアンの教えがよぎった。


「どんなに強い剣法にも必ず隙がある。冷静さを保てば、必ず活路が見つかる。」致命的なプレッシャーの中で、トウシンは心を強く保ち、呼吸を整え、心の緊張を解き放った。彼は首領の一撃一撃を注意深く観察し、次第にその剣技の裏にあるわずかな癖を悟り始めた。


次に剣光が迫った瞬間、トウシンは気づいた。首領は気血を吸収した後、攻撃の中に一瞬の微妙な停滞がある。それは他人の気血を取り込んだ後、適応するための瞬間のようだった。


この発見にトウシンは心を奮い立たせ、すぐにその剣法の弱点をつかんだ。彼は、もはや防御一辺倒では状況を打開できないと悟り、反撃に出る必要があると決心した。


トウシンは攻防の中にあえて小さな隙を残し、首領が攻撃を強めるように誘った。彼は剣の速度を意図的に遅くし、相手を自信過剰にさせて近づかせ、首領がその停滞の瞬間を見せた時、驚異的な速さで反撃に転じた。剣勢は流光のように鋭く、狙い澄ました角度で首領の弱点を突いた。


首領はトウシンがこの劣勢で突然反撃するとは思っておらず、攻勢は一気に崩れた。トウシンは首領が気血を吸収するたびにその瞬間を狙って反撃し、剣光は稲妻のように次々と相手に命中し、瞬く間に戦いの主導権を奪い返した。


トウシンの進撃に伴い、首領は次第に力尽きていき、剣勢の鋭さが失われ、攻撃のリズムも乱れていった。トウシンは相手の疲弊を感じ取り、一気に攻め込んだ。剣光は絶え間なく続き、まるで奔流のように首領を押し寄せた。


首領の呼吸は荒くなり、目にわずかな焦りが浮かんだ。彼は次第に優勢を失い、トウシンの絶え間ない変化する攻撃の前で剣技の綻びを見せ始めた。トウシンは戦うほどに勢いを増し、首領は次第に圧力に押されていった。


局勢が急転したことに、首領の心中に焦燥が広がった。彼は、このままでは若いトウシンに敗れることを悟り、形勢を逆転しなければならないと痛感した。焦りの中、首領は突然攻撃をやめ、懐から黒い小瓶を取り出した。トウシンの瞳がわずかに縮まり、内心で大いなる不安を感じた。


首領は一瞬の躊躇もなく、その丹薬を飲み込むと、瞬く間に彼の気息は爆発的に強まり、力は恐るべき「覇王境」に達した。トウシンは圧倒的な威圧感を正面から感じ取り、膝が震え始め、剣も極端に重く感じた。


首領の目には残忍な光が宿り、彼は最後の攻撃を仕掛けてきた。剣光はまるで血の閃光のように、トウシンの頭上に向かって降り注いだ。トウシンは防御することすら困難で、何とか剣を上げて防ごうとしたが、その力は彼の限界をはるかに超えていた。


「ここで終わるのか……?」トウシンは絶望が心を支配していくのを感じ、全身が押し潰されそうだった。


だが、その生死の瞬間、一筋の鋭い剣光が天から降り注ぎ、夜空を切り裂き、首領に向かって一直線に突き進んだ。首領は強烈な危機感を感じ、慌てて後退し、驚愕の表情で新たな来訪者を見つめた。




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