とっても幸せ
その後、私たちは内密に作戦会議を開いた。
メンバーは私とアランと……
「状況は理解したわ」
アランの頼れる友人、エリアーネだ。
エリアーネは場内でも相当美人と言われる令嬢で、いわゆる城内の社交場でもいつも中心にいるような人だった。
アランと仲が良いのも大変納得しているし、二人、お似合いなんじゃないかしら?
まあそれはいいとして、エリアーネはかなり頭脳明晰らしい。
「まずは、相手が動き出した時に、察知できるようにする必要があるわね。私がまずはユリアの行動を監視するから」
「ありがとう」
「くれぐれも気を付けて。どういう嵌め方されるかわからないからね」
「ああ。シャロレ、最近ユリアに話しかけられたんだって?」
「うん。明日の夜、社交パーティーに誘われた。断ったけど」
「それ、敢えて参加してみるのはどう?」
アランが提案する。
エリアーネはうなずいた。
「早めに決着つけるってことかしら? それはいいわね」
次の日。社交パーティーは、夕方の時点でかなり盛り上がっていた。
「シャロレ。よかったら一緒に踊らない?」
「わ、私とアランが⁈ いいよ。私、慣れてなくて下手だもん。エリアーネの方が上手よ」
「そっかあ……」
アランはエリアーネの方に向かった。
リスク分散のためにも、アランと私は別行動の方がいいと思う。それに……きっとアランとエリアーネは両想いだわ。なんとなくそう思うの。
さて、ユリアの動きはどうかしらね。と、見てみたら、なんとかなりの勢いでワインを飲んでいた。もしや酒豪?
隣のアランの兄の様子を見てみれば、彼もまた、ワインを片手に陽気なようだった。
何やら悪事を働く様子はなさそうだけど……。
こういう場で孤立することに慣れている私は、すっかり落ち着いて二人を観察していた。
さて、やはり私たちの事前の準備が効いてくるだろうか。この状況で私とアランを嵌めるとしたら、一つしか思いつかない。
夜も更けてきて、私もやや、頭が回らなくなってきていた。
そんな時、私はユリアに話しかけられた。
「あら、ちゃんと楽しめてるかしら? シャロレ」
「ええ、そこそこ」
「でも、全然飲み足りないはずだわ。私だってまだまだ……ああっ」
ユリアが私の方にもたれかかってきた。
「ごめんなさい。ちょっと酔い過ぎてしまったみたい」
ここでユリアを放り出したら、ユリアに失礼なことをした私が大変な目に遭う。つまり、私はユリアを介抱し、ベッドまで連れて行くしかない。
「私につかまってください」
「悪いわねえシャロレ」
私はユリアと一緒に会場を出た。
その姿は周りから大いに注目を浴びた。
「ユリア様大丈夫なのかしら……?」
「心配ですわね……」
そんな声が聞こえる。
しばらくユリアを肩につかまらせながら歩いて人目の付かないところまで来た時、
「もう苦しいわ。私に薬を飲ませてくれない? こんなこともあろうかとドレスの裾に一袋入ってるわ」
「わかりました」
私はユリアのドレスの裾に手を入れ、そして小さな袋を取り出した。
ユリアが小さく口を開け、私は白い粉を入れた。
「うっ」
ユリアがうめき、白い粉を手にはきだした。
そして、
「これは毒よ! 誰か助けて! シャロレが私に毒を盛ろうとしたわ!」
ああ。そんなに大きな声をあげられては、人が集まってきてしまう。
「医者を呼んで! これが毒だってことはすぐにわかるわよ。シャロレを追放しなさい!」
すでに人だかりができていた。
このままでは必ず、私が悪人にされてしまう。
もちろん私が薬に毒を混ぜたのではなく、元からユリアが持っていた薬に毒が仕込まれていたのだ。私を陥れるために。
ユリアがチラリと私を見てニヤリとした。
私の両親がそうだったように、私も追放されるとお思いかしらね。
私は……ニヤリとし返した。
「あら、あなたがさっき飲みかけたその白い粉が毒入りだって言うのですか?」
「そうよ! 医者に調べてもらえればすぐにわかるわよ!」
「あらあら、多分砂糖だって判明するだけですよ」
「な、なんですって!」
狼狽えるユリアに私は続けた。
「あなたが渡してくれた薬の袋は、開封せずにここにあります。あなたに私が飲ませたのは、あらかじめ用意していたただの砂糖」
「……!」
「どうして、毒入りだと思ったのかしらね??」
「……」
周りが一層ざわついた。「これってどういうこと?」「ユリア様が、シャロレを陥れようとしてたってことだろ!」「信じられん!」
そしてその騒ぎの後ろの方にいる、アランとエリアーネと目が合った。
バッチリ。完全に勝ちましたよ。
その後、ユリアとアランの兄は徹底調査されることになり、私とアランを陥れようとしていたことが判明した。
そして……私の両親の不正事件の再調査も行われることになった。
だけどそっちはなかなか証拠がない……と思いきや。
アランが切り札を隠していたのだ。
「私のうさぎのぬいぐるみのもう一つの瞳?」
「ああ。それがここにある。そしてまだ割れてない」
「てことはこれを割ったら……」
「ああ。悪事を働いている証拠が母石に映るだろう。前に僕が見たのと同じように」
「でも、それが映るのは……」
「三年後になる。だから、シャロレの両親の無罪が認められるのも、まだ先になってしまう」
「いいのよ時間がかかるのは。とにかく嬉しいわ。きっとそしたら、どこかに身を潜めている私の両親も戻ってきてくれるわ」
「必ずそういう未来にしよう。そしてシャロレ、君が両親と再会するときに、僕たちも幸せになっていようじゃないか」
「ぼ、僕たち……?」
「ああ」
アランは照れて笑って、
「シャロレ、僕と婚約してほしい」
そう伝えてきた。
「えっ。私はまだ、お城で一番みじめなのよ。私の両親だってまだ不正を働いた扱いなのよ。それでもいいの?」
「いいさ」
「……エリアーネとのほうがお似合いじゃないかしら……?」
「エリアーネはもう友達みたいな感じなんだよ。向こうだってそう」
「ほんとに?」
「信用してくれないのなら……」
「……!」
アランはとても自然にキスしてきた。
「君は可愛くて素敵な人なんだから、ちっともみじめじゃない」
「アラン……」
「昔からそう思っていたんだよ。シャロレは一人でも強く生きていけるタイプかもしれないけれど、でもなにせ僕が惹かれちゃったんでね」
「……私」
確かに私は一人でも無難に仕事もして過ごしてきた。けれど……。それが寂しくなかったとは、やっぱり言えない。
なぜって、誰かから信頼されて、愛されたいと思い……。
私はアランに抱きしめられた。いつの間にか数年ぶりに泣いていたようである。
「アラン。私もアランを愛しているわ」
そして、思う存分、人を愛したかったんだと、アランに気づかせられてしまったんだから。
☆ 〇 ☆
三年後。
今日は無罪が認められた私の両親がお城に戻ってくる日である。
私は両親を迎えるにあたって色々と歓迎の準備をする予定だった。
けど、全然計画通りに行かないわね!
なんてったって、子育てって大変ね!
後ろでアランが何やらあわあわしている。
「どうしたの?」
「ラシャエが花瓶と格闘を始めるんだ。ちなみにラシャエの方が強い」
「それは大変ね! 今行くわ」
娘のラシャエはとにかく動くのが好きだから大変。
ほんと、誰に似てこうなったのか……。
でも、お手紙で両親はラシャエに会えるのを、下手したら私と会うのより楽しみにしてそうだったから、可愛くおめかししないとね。ラシャエ……え?
「ぎゃああ」
なんで、万年筆で壁に落書きをしているのかしら?? その万年筆は私が翻訳に使ってるものだから、とっても落ちにくいインクなのよ?
ああ、でも。
色々騒いでいたら時間が過ぎて、窓の外から馬車が見えたとき、決めた。
みんなでとても幸せになってやろうじゃないか、と。
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