太陽のアシスト
「宗介…落ち着いて聞いて…」
「母さんどうしたの?」
母からの電話だが明らかに様子がおかしい。
「おじいちゃんが倒れてしまって、今病院にいるの…」
「じいちゃん!?どうしたんや、大丈夫なの?」
「まだ詳しい事はわからないけど、命に別状は無いみたい…」
「そっか…分かったよ…」
中学2年生の冬、じいちゃんが倒れた。
脳の病気で体の左半身に麻痺が残るらしい…。
そんなじいちゃんを助けたい一心でリハビリと介護を手伝う為に中学のバスケ部を辞めることにした。今はじいちゃんとの時間を大事にしたかったから。
正直、バスケを続けたい気持ちもある。選抜チームにも呼んでもらえるようになったところだけど、じいちゃんから沢山の事を教わった。その恩返しは絶対にしたいから悔いは無い。
「じいちゃんリハビリ頑張るからのぉ」
「俺もリハビリ手伝うからね」
「申し訳ないなぁ…宗介の大好きなバスケットをじいちゃんが奪ってしまったなぁ」
「何言ってるんだよじいちゃん、俺はじいちゃんと一緒で幸せだよ」
祖父「ありがとうなぁ、じいちゃん幸せだわ」
じいちゃんが倒れてから半年が過ぎていた。季節は気付けば夏真っ盛りである。最近じいちゃんの調子が良くない。あまり言いたくはないが、時間はもう多くは残されてないだろう。なんとなくそんな気がする。
「じいちゃん、それじゃあ学校行ってくるね!」
「気をつけてな」
「お、おはよう太陽!」
「おはよう宗介、そういえば進路決めたのか?」
今声をかけてきたのはクラスメイトの飯島 太陽。みんなから慕われてるとても優しい人やつだ。
「できるだけ家から近い高校にして、じいちゃんの介護手伝えるようにしたいな」
「そっかぁ、宗介らしいな、じいちゃん良くなるといいな」
「そうだな、ありがとう」
「ところで宗介はバスケはもうしないのか?こないだも誘い断ってたけど」
「バスケはもういいんだ」
「そっかぁ、あんだけ上手いのに勿体無いなぁ」
「ありがとな」
「ただいま〜」
「宗介、おかえりなさい。突然で驚くかもしれないけど…」
「何かあったの?」
「じいちゃん、発作起こしてしまって…ダメだった…」
「母さん涙止まらんのや…」
俺自身、元から覚悟はしていた。だから不思議と涙は出てこない。ただ心に大きなクレーターができたような、喪失感が隠せない…
「母さん、じいちゃんは頑張ったよ、だからじいちゃんが安心できるように笑顔で送り出してあげよう」
「宗介は落ち着いてるわね、宗介のおかげよ、大好きなバスケも辞めて介護に専念してくれて、じいちゃん幸せだったと思う」
俺は、俺はどうしたらいいんだろう。世界が白黒テレビのように色が無く見える。この白黒の世界を何が色づけてくれるんだろう。分からない。この感情を説明できる言葉が見つからない。ただ辛い。
「おはよう、なんだか元気ないな宗介」
「おはよう。実は昨日じいちゃんが旅立ってさ、心に穴が空いた感じで何もやる気がでないんだよな」
「そうか…悪い、ごめん」
「いや、謝ることはないよ」
「なぁ宗介」
「どうした?太陽」
「お前すごいよ、大好きなじいちゃんの為に、大好きなバスケ辞めてさ、じいちゃんきっと笑ってるよ、宗介のおかげだって、うん、きっと笑ってるよ」
「ありがとう、太陽は優しいな」
太陽は優しい。心が温かくなるのが分かった。
「宗介さ、じいちゃんにバスケット教えてもらったんだろ?今度はさ、バスケでじいちゃんに恩返ししようよ」
「え、でも俺、約1年プレイしてないし今から部活とかキツイと思うんだけど」
「確かにな、でも宗介ならやれるよ、だから秘北高校に一緒に行こうぜ」
正直、バスケをしたい気持ちはある。何もすることが無い俺にとって、じいちゃんが教えてくれたバスケをしてじいちゃんに恩返しするのも良いのかなと思ったりもする。
でも県の代表まで行ったとはいえ、約1年のブランクは軽視できない部分ではある。それに私立秘北高校は古豪チームで決して弱くない。今の自分で、どこまでやれるか分からない。
「太陽は確か、推薦でもう決まってたよな」
「そうだよ」
「少し考える時間が欲しい」
「分かった、でも前向きに考えてみて」
「ついに卒業だな宗介」
「あぁそうだな、四月からは高校生だな」
「太陽に一つサプライズがある」
「俺と同じ秘北高校に来てくれるとか?」
「うん、そうだよ」
「えぇ!?ホントに?」
「うん(笑)」
「バスケはどうするの?」
「やろうと思ってる。その方がじいちゃんも笑ってくれると思ってさ」
「そっか、楽しみだな〜」
「誘ってくれてありがとう」
四月から秘北高校での日々が始まる。