エピローグ
6
弧線橋を新しい階段で下りながら、彼女は今どうしているだろうかと思った。
凛とした花のある夜の女、それとは裏腹の純情な少女。
左側だけそっくり返った睫毛、張りのある胸、くびれたウエスト、柔らかい唇、俺を求める目。
華恵との別れが残した傷は未だ癒えていなかった。
しかし時間とともに癒えない傷がないことも、俺は知っている。
今は昨日のことのように思い出せる華恵のことも、少しずつ色褪せ、次第に掠れ、後には真実か、虚構かも判別のつかない淡い思い出だけが残るのだろう。
この痛みも、いつかは新しい痛みに居場所を奪われる。
家路を急ぐ気も失せた俺は遠回りさせて帰ることにした。
一歩一歩前に足を運ぶ度、何かに駆られるように早足になり、気がつくと俺は駐車場までの道を走り出していた。
あのカーブをもう一度走りたい―。
急いで車に乗り込み、ドアを乱暴に閉めた。
家とは逆の方角に車を走らせる。
西陽を背にしてカーブへ向かう。
カーブの手前にさっきまではいなかった交通整備の男が立って大きく円を描くように棒を振っている。車を誘導しているのだ。
その男に促され、急カーブを通過し、その先にある新しい緩やかなカーブを俺は曲がった。
そのカーブでは、アスファルトを剥がす工事が始まっていた。
完