96ーあるんですねぇ
「クリスティー先生、この時も魔法で火をつける方が良いのですか?」
「いいえ、火は何でも構いませんよ」
なんだ。そうなのか。
グツグツと鍋の中が沸騰しだした。それでもまだゆっくりとグ〜ルグルと混ぜる。
「よぉ~く見ていてください。そろそろ色が変わりますからね」
「はい、クリスティー先生」
「はい」
王子と2人で鍋に注目だ。
すると、透明だった鍋の水が突然瞬時に深い紫へと変わった。
「「おぉ~!」」
「ふふふ、お2人とも可愛らしいでっす」
可愛いと言われちゃったぜ。
「これで、出来上がりでっす。これは中位回復薬ですね」
驚いた。こんなに簡単にできるんだ。
「製法が何であれ、中位回復薬はこの深い紫色でっす。濁っていたりすると紛い物の可能性があるので注意でっす。では、もう1種類作りまっす」
「クリスティー先生、回復薬をですか?」
「はい、フィル君そうですよ。今はマッシュを魔法で出した水で煮ただけでっす。今度は魔力を込めながら煮ましょう」
「クリスティー先生、魔力をどうやって込めるのですか?」
「はい、良い質問でっす。ココ様、魔力操作を思い出してください。あの時、手に魔力を集めるイメージでと言いました。その時の感じで掌から魔力を放出するのでっす」
ほうほう、なるほど。
「お手本をお見せしまっす」
クリスティー先生は、刻んだマッシュを入れた鍋に手をかざしながら掻き混ぜる。暫く見ているとまた瞬時に色が変わった。今度は鮮やかなピンクだ。
「はい、高位回復薬のできあがりでっす」
「「おぉ~!」」
「ふふふ、素直で良いですね」
そして、冷まして濾しながらガラス瓶に入れればできあがりだ。
「このマッシュでできるのはここまででっす」
「クリスティー先生」
「はい、ココ様」
「他にも回復薬はあるのですか?」
「はい、良い質問でっす」
なんでも、回復薬には3種類あるのだそうだ。
低位回復薬は軽い傷を治したり少しの体力を回復させる。
中位回復薬は深い傷や骨折を治したり半分位の体力を回復させる。
高位回復薬は欠損していなければなんでも治し、体力も全快させる。のだそうだ。
それだけではない。この世界には欠損した部位を元に戻す最高位回復薬もあるそうだ。
これらの回復薬は飲んで良し、掛けても良しの優れものだ。
他に、すべての状態異常を治す万能薬がある。
魔力を回復させるポーションも、それぞれ同じ様に3種類ある。
あとは、毒消しだ。
「どの回復薬を作るときも魔法で出した水を使い、魔法で材料を刻んだ方が何故か効果は高くなりまっす。さて、お2人にも実際に作っていただきましょう」
おしッ! やってやるぜぃ!
「ああ、ココ様。魔力を込め過ぎでっす」
え……加減がまったく分かんねー。
「フィル君はもっと大胆にやっても大丈夫ですね」
性格が影響している気がするんだけど。
「ああ、ココ様。だからそんなに魔力を込めると……」
――ボボボンッ!!
「うわッ!」
「魔力を込め過ぎるとこうなるのでっす」
先に言っておいて欲しかったよね~。沸騰していた鍋の中身が勢いよく飛び散ってしまった。
「まあッ! ウフフフフ!」
ほら、母にも笑われちゃったよ。
「ココ嬢、怪我はない?」
「はい、全然大丈夫です。まさか飛び散るなんて思いませんでした」
「ココちゃん、クリスティー先生に魔力操作を教わらなかったの?」
「いえ、母さま。教わりました」
けど、すっかり忘れちゃってた。
「ココちゃん」
「ごめんなさい、母さま」
「怪我がなくて良かったわ」
「これも魔力が多い事の弊害ですね」
とうとう弊害なんて言われた。だが、おしッ! 次こそはッ!
「はい、最初からやり直してみましょうね」
「はい! クリスティー先生」
「お返事は良いのですけどねぇ」
あ、酷い言い方だ。今度こそ、やってやるぜぃ。
と、その後はちゃんと作る事ができたんだ。本当だよ。
「はい、お2人ともよくできました」
これで俺は回復薬もバッチリだ。
さて、盗賊団の討伐なんてのが突然入ったが為にメイド服の製作が待った状態になっていた。
俺は、メイド服に使う糸を取りにきている。ルイソ爺さんは何やらブツブツと言いながら夢中で帳面に書き込んでいる。また何か、実験でもしたのだろう。俺達を対応してくれているのは、ロウ爺さんだ。
「お嬢様、黒でいいんですか?」
「ええ、黒と白ね。白はブラウスにする位の糸がいいわ」
「今度は何を作るんです?」
「メイド服よ。先に糸に防汚効果を付与するの」
「お嬢様、ぼうおって何ですか?」
「汚れないようにする効果ね」
「ああ、その防汚ですか」
「お嬢様、それでしたらねぇ……」
え……まさか……!?
「あるんですねぇ。メイド服も作ると聞いていたから作ってあったんですねぇ」
「凄いッ! どうやって!?」
「簡単なんですねぇ。魔石の粉で属性がつくと分かっていたので、餌に防汚効果の付与をしただけなんですねぇ」
「ルイソさん! 天才!」
「それほどでもないんですねぇ」
とか言いながら、ちょっと得意気だ。




