94ーシュンとアキ
のんびりとティータイムだ。と、壁を見ると俺が書いた大きな文字の一覧表が貼ってある。
「あれ、とっても便利です!」
「私はあの小さいのを持ち歩いてますよ。近所のみんなに見せて自慢しちゃいましたッ!」
と、話しているのは文字が読めないと言っていた、マニューさんとナタリーさんだ。
「そう、作って良かったわ」
「お嬢様、実は欲しいと言っている人がいるんです」
「そうなの?」
「みんなもっと難しいと思っていたみたいでぇ」
「こうして表にしてみれば、分かり易いわよね」
「お嬢様、あれもです。えっと……」
「ミリーさん、えんぴつですよ」
「そうそう。ルリア、それよ。もう最近なかなか新しい事が覚えられなくって」
と、言いながら、パンケーキを頬張るミリーさん。そのパンケーキ、メープルシロップかけ過ぎじゃね? ベットベトじゃね?
「ああ、甘くて美味しい」
そうか、美味しいならいいや。
「で、えんぴつが?」
「ああ、そうでした。あれ、パターンを描く時にも良いですよね」
「そうね、にじまないし」
「はい。あのえんぴつはみんな欲しがりますよ」
「そう?」
「はい。私達庶民はインクを付けて書くなんて慣れてませんから」
「でもぉ、あたし見せてもらいましたけどぉ」
と、また、ナタリーさんが咲みたいな喋り方になっている。
「あのガラスペンって言うんですか? とっても綺麗ですよね~」
「そうでしょう? それに、書きやすいのよ」
「そうなんですか?」
「ええ。ペンをつかう練習も必要になるかもね」
「はいはいは~い! あたし練習しま~っす!」
「もう、ナタリーったら最近まで文字が読めなかったのに書けるの?」
「練習しますぅ!」
「ナタリーは、ガラスペンが欲しいだけでしょう?」
「ミリーさん、酷い。そんな事ないですぅ」
うんうん、良い事だ。何でも興味を持つのは良い事だよ。それに、今まで無理だと諦めていた事が出来る様になるのって嬉しいよな。
「じゃあ、えんぴつで書く練習をしてからね。まずは、自分の名前からね」
「はいッ! お嬢様!」
賑やかにお茶の時間は終わり、さて明日からだ。
「明日からね、メイド服に取り掛かりたいんだけど、防汚効果を付与してからなの」
「はいッ!」
元気よく手をあげたのが……
「はい、ルリアさん」
「お嬢様、ぼうお効果って何ですか?」
「汚れないようにする効果ね」
「はい、分かりました!」
「その防汚効果の付与の仕方を明日教わるからそれからなのよ」
「では、私達は何をしていたら良いですか?」
と、リーダー役のミリーさんが聞いてきた。
「あのね、領主隊の隊服の方に掛かってもらえるかしら?」
「はいッ! やっとですね!」
「そうね。と言ってもまだ生地にできていないでしょう? パターンもまだできていないのよ。で、ナタリーさん。基本になるサイズのパターンは作るから、他のサイズのパターンを任せても良いかしら?」
「お嬢様……がんばりますッ!」
「お願いね」
「マニューさんは、どんどん生地にしていってくれる?」
「はい! 分かりました!」
そこにシゲ爺がやって来た。
「お嬢! ワシも欲しいぞ!」
だから何をだよ!?
「シゲ爺、何が欲しいの?」
本当にこのじーちゃんは自由だな。
「アン! アン!」
声がしたのでシゲ爺の後ろを見てみると、ノワと保護した猫獣人の兄妹がいた。
「どうしたの? ノワ、来ちゃったのね」
「アンアン!『ココ、俺も欲しい!』」
「え? ノワも?」
「アン!」
と言ってもだな。
「やだ~! 可愛いぃ~!」
食いついたのが意外にも最年長のミリーさんだ。
「森で保護したの。ノワよ、よろしくね」
「ノワちゃんですか~!? 可愛いですね~!」
赤ちゃん言葉になりそうな勢いだ。
「入って、遠慮しなくてもいいのよ」
俺は猫獣人の子達にも話しかける。
「ココさま、ありがとう」
「ココさま!」
「あら、名前を憶えてくれたの? あなた達のお名前は?」
「俺は、シュン。妹はアキ」
「シュン、アキ、よろしくね」
「うん!」
「あいッ!」
ふはっ、可愛いぜ!
兄のシュンは7歳だそうだ。俺の1歳下だ。妹のアキちゃんは、まだ4歳になったばかりなのだそうだ。
じーちゃんが話していた隣国で起きた内乱。その余波でまだまだ国内は安定していない。
最近起きた暴動に、2人の両親も巻き込まれて命を落とした。その後のどさくさに紛れて2人は盗賊団に攫われてしまった。
特に寂しい場所でも、まったく人がいない場所でもない。普通に村の中であっという間に攫われたそうだ。
「なんて、酷い事を……」
「お隣の国ってそんなになんですか?」
「ユリシスお祖父さまが言うには、そうらしいわよ」
「この子達はこれからどうなるんですか?」
ミリーさんが聞いてきた。気になるよね。
「この子達が国に帰りたいと言うなら送って行くわ。でも、ご両親もいなくて2人だけって聞いたらね……」
「そうですよね」
「ねえ、2人で住んでいた村に帰りたい?」
ミリーさんが2人に聞いた。2人は何故かシゲ爺の服の裾をずっと握っている。懐いちゃったか? 小汚い爺さんだぞ?
読んでいただき有難うございます!
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よろしければ皆様もパンケーキを……ではなく!
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