83ーやりすぎだ
「サンプルにできそうな程度で良いから欲しいわ」
「はい、お嬢様。じゃあ、取り敢えず2種類共少しだけ織りますね」
「ええ、ありがとう。リュウ、ロディ兄さまの都合を聞いてきて欲しいわ」
「了ッス」
隆がピュ―ッと走って行った。
「お嬢さまぁ、ロディ様ですかぁ?」
「サキ、そうなのよ。糸がねバージョンアップしていたのよ」
「バ、バージョンアップですかぁ?」
「そうなの。先に兄さまへ報告しなきゃダメね」
「そんなにですかぁ?」
「そんなになのよ」
マニューさんから出来上がった2種類のサンプル生地をもらい鑑定してみる。ああ、やっぱりだ。
「こっちはメイド服用よね?」
「はい、そのつもりです」
「領主隊の隊服は1番太い糸で良いかしら?」
「お嬢様、隊服は裏地も付けますよね?」
「そうね。ああ、メイド服もスカートの部分は裏地を付けたいわ。もっと薄い生地があったじゃない?」
「そうですね。あと、エプロンですよね」
「エプロンはフリルがいっぱいが良いですぅ!」
はいはい。咲、分かったよ。
「ポッケにリボンも可愛いですよねぇ」
「それは母さまと相談ね」
「はいぃ」
「お嬢、今から良いそうッス」
隆がもう戻ってきた。早いな。よし、行こう。
「先にロディ兄さまへ報告してくるわ。まだ生地にするのは待って欲しいの。それからミリーさん。メイド服のパターンも一旦保留ね。デザインが変更になるかも知れないわ」
「分かりました」
さてさて、本当に嬉しいんだけど。でもなぁ、きっと極秘扱いだよね。
「ココ、それでどういう事なのかな?」
なんか俺、尋問されてるみたいじゃん?
ロディ兄の執務室に来ている。
「兄さま、嬉しい誤算です」
「嬉しいのかい?」
「はい、ロウさんやルイソさんが頑張ってくれて……」
と、糸自体にも防御力がある事を話した。
「何だって? 糸の時点で!?」
「はい、兄さま。凄いでしょう!?」
「いや、ココちょっと待って。それはいくら何でもやりすぎだよ」
「兄さま、あたしじゃないです」
「そうだったね、爺さん達か……あッ、ルイソさんか!?」
そうで~っす! さっすが、ロディ兄だよ。よく分かっているね。
「ああ……忘れてたよ。あの爺さん、そういうのが好きなんだよ。夢中になって細かい事にも拘るんだ」
「みたいですね」
「それで?」
「これ、見てください。黒がメイド服用で、モスグリーンが領主隊用のサンプル生地です」
「ふむ……」
ロディ兄に、さっき織ってもらったサンプル生地2種類を手渡す。ロディ兄はそれをじっと見る。
「とても良いじゃないか」
「でしょう?」
「ああ。張りもあるし厚みも申し分ない」
「はい。耐久性もあるそうです。それで、兄さま。まだあるのです」
「え? まだあるのかい?」
俺はルイソ爺さんが魔石の粉を餌に混ぜた件を話した。
「魔石の粉を!? ああ、野菜の真似をしたのか!?」
「そうです」
ロディ兄、本当凄いよ。よく分かったな。
「魔石の粉を溶かして作った害虫除けや、肥料を考案したのはルイソ爺さんだからね」
ほう、ルイソ爺さんってもしかして有名人なのか?
「で、効果が付いたと?」
「そうなんです。最初は火の魔石で試したらしいんですけど、そうしたら火耐性があったらしくて……」
「で? 最終的にこの生地はどんな耐性があるんだい?」
「四属性の耐性があるそうです」
「よ……四……!?」
あらら。珍しくロディ兄がフリーズしっちゃったよ。再起動してくれ~。
「ココ、これは領内だけの話にしよう。この糸や生地を販売するにしても耐性はナシだ」
「そうですよね」
「ああ。これはやりすぎだ。もちろん、領主隊にとってはありがたい物だけどね」
「はい」
「ランス、母上の都合を聞いてきてくれないか?」
「はい、畏まりました」
そう言って、ランスが部屋を出ていった。
「兄さま、母さまですか?」
「ああ。これは母上にも知らせないと」
という事で、ロディ兄と一緒に母の部屋に来ている。
「まあまあまあ! 素晴らしいじゃない!」
と、全部説明した後の母の反応だ。相変わらず呑気だ。
「母上、これは流通させられませんよ」
「しなきゃいいじゃない。領内だけの秘密よ」
「母上、そんな呑気な……」
「あら、ロディ。そんな事いくらでもあるじゃない。ルイソの考案した物だけでも幾つかあるわ」
え、そうなのか? 本当にこの領地の爺さん達は侮れないな。
「シゲ爺だってそうじゃない」
え? なんだって!? あの、シゲ爺さんがか!?
「ココ、うちの領地の食べ物やワインは特別なんだよ」
「兄さま、知りませんでした」
「ココはまだ小さかったからね」
「それと同じよ。この生地は素晴らしいわ! ココちゃん、遠慮はいらないわよ。これでメイド服も隊服も作っちゃいなさい」
作っちゃいなさいって、いいのかよ? 本当に?
「ココ、そういう事だから。爺さん達には僕から説明しておくよ。領内で使う物と、流通させる物を分けよう」
「分かりました」
「お嬢さまぁ、あのリボンのぉ……」
咲、分かってるよ。
「母さま、それでメイド服とエプロンをもう少し可愛らしくしようと思うのです」
「あら、可愛らしく?」
「はい。母さま、紙とペンを借ります」
で、俺は咲と相談していたメイド服とエプロンのデッサンらしきものを描いた。
「まあ! 可愛いわね! 良いじゃない!」
「良いですか?」
「もちろんよ。なら、ココちゃん。ヘッドドレスも変えない?」
「ヘッドドレスをですか?」
「そう。この横に主張しすぎない同色の小さなリボンを付けて、フリルを多くしない?」
「奥様、可愛いですぅ」
「でしょう?」
おいおい、やり過ぎじゃないか?
「防汚効果を付与できればいいんだけど」
さすがにそれは無理だね。
「ココちゃん」
え? 俺なのか?
「クリスティー先生にお話ししておくわ」
「はい、母さま」
ああ、俺が勉強するんだね。うん、そんな気がしていたよ。
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