33ー不審者 1
「皆、今日はご苦労だった! 無事にウルフ討伐を終えた! 領民の命や生活を守る事ができた! 今日は、腹一杯食って呑んでくれッ!」
――おおぉーー!!
父の言葉で大打ち上げ会の始まりだ。料理人が庭で肉を次から次へと焼いていく。ワインも樽で開けられ、冷えたエールも用意されている。
小さなエンシェントドラゴンは何故だか父の肩に乗っている。もう皆に馴染んでいるらしい。
「ココ、驚いたぞ」
「バルト兄さま」
「まさか、エンシェントドラゴンとはな」
「兄上、本当ですよ。ココは一体何を仕出かすのか分かりませんね」
「ロディ兄さま、偶々です」
マジで、偶然だよ。まさか、あの汚い卵がエンシェントドラゴンだなんて誰も思わないさ。
「父さまに懐いてますけど」
「アハハハ、本当だ」
「ノリが合うのだろうな」
本当に……ノリが合うらしい。ちゃんと王子を守ってくれよ。
さて、大宴会となってるが……王子も肉を食べてるな。母が常にそばにいるみたいだが、既に邸の者や領主隊にも馴染んでいる。良い事だ。
本当に、大騒ぎだった。みんな食べて呑んで。無事に討伐ができた事を心から喜んで安心しきっていた。そんな時だ。
――バキバキバキ!!
何かが折れる音がした。
――危ない!!
――倒れるぞー!!
そんな領主隊の声に驚いて音のする方を見た。討伐が完了したと言う知らせの為、邸の屋根の天辺に挙げていた我が家の紋章が入った旗。その旗が根本近くから折れて倒れてきた。
――ガゴーン!!
「兄さま!」
「ココ、動くんじゃない!」
「はい!」
俺は、思わずそばにいたロディシスを呼んだ。王子は父や母達と一緒だ。危険はないだろう。
「どうして!?」
「お嬢さまぁ、そばを離れないでくださいねぇ」
咲と隆が俺のそばから離れない。まさか、旗が折れるなんて。
ロディ兄とバルト兄が旗を確認に動いている。俺も動こうとしたら、咲に止められた。
「お嬢さまぁ、ダメですよぅ。少し旦那様達の方へ移動しましょうかぁ」
「分かった」
「姉貴、俺見てくるわ」
そう言うと隆が兄達の方へと走って行った。
俺と咲は少しずつゆっくりと父たちの方へと移動をする。と、隆がロディ兄と一緒に走って来た。
「ココ、そのままだ」
「え? 兄さま?」
この騒ぎの中、闇に紛れる様に動く複数の影があった。
「ココ、気付いたかい?」
「はい、兄さま。バルト兄さまに伝えてきますか?」
「いや、兄上も気付いている」
ロディ兄は、バルト兄の方を見ている。俺はまだチビだから見えないんだよ。身長が低いから周りの大人達で全然見えない。
「兄さま、何でしょう?」
「さあ、何だろうね」
俺は、ロディ兄や咲と隆も一緒に素早く目立たない様に移動した。その影達はバルコニーから、邸の3階にある部屋へと静かに素早く入って行った。
「兄さま……」
「ああ。サキ、母上に父上と殿下のそばを離れない様に伝えて来てくれないか?」
「分かりましたぁ」
「リュウは外からだ」
「了解ッス」
咲と隆が走って行く。2人共速い。もう、姿が見えない。
「ココ、僕達は邸の中から行くよ」
「はい、兄さま」
「お嬢様、俺が後ろを守ります」
「ありがとう」
おっと、忘れてたよ。俺の後ろを守ると言ってくれているのが、ロディ兄の従者でランス・アローダイトだ。
ロディ兄の1歳上。金髪碧眼のイケメンだ。いつも、あまり喋らない。だが、ロディ兄をしっかりサポートする優秀な人間だ。2人して、学生の頃は、氷の貴公子とか言われていたらしい。
ランスは歴とした子爵家の3男だ。まあ、3男だから兄の従者になったんだろうが。元々ランスの祖父が、俺の祖父に従者として付いている縁から兄の従者になったらしい。早い話が、赤ん坊の頃から一緒に育った幼馴染だ。
俺達が邸に入り、階段を登り始めたところでもう咲が戻ってきた。
「殿下は大丈夫ですぅ。旦那様とバルト様がそばにおられますぅ。奥様も気付いておられましたぁ」
「そうか、じゃあ安心だね」
さて、ここからだ。影が忍び込んで行った部屋は……そうだよ。王子殿下の部屋だ。王都から刺客か? そこまでやるのか?
「理解できないわ」
「ココ、そうだね」
俺達は素早く静かに3階にある王子の部屋へと移動する。もちろん、警戒は怠らない。
「ココ、いいかい。勝手に突っ込んだらダメだからね」
「兄さま、あたしはそんな事しません」
「お嬢さまぁ、どのお口が言っているのですかぁ?」
え? 何だよ。俺ってそんな感じなの? 突っ込んじゃうタイプ?
「そうですよぅ。真っ先にぃ」
「え……」
「はいぃ」
「……もうしないわ」
「はい、しないで下さいねぇ」
知らなかったよ。前世の記憶を思い出す前でも、俺は俺なんだね。ちょっと安心した。
「ココ、良い事じゃないからね」
「は、はい。兄さま」
「あたしはリュウの方に回りますぅ」
そう言うと、咲はアッと言う間に駆けて行った。
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ありがとうございます!本当に嬉しい!
ハルちゃんの時は勢いがあったので、凄く不安だったのですよ。本当に感謝です!ありがとうございます!
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