31ーエンシェントドラゴン 1
その小さな自称ドラゴンはやっと頭を下げた。躾けがなってないな。
「いや、すまん! ありがとう!」
「いいわよ。じゃあ、さっさと帰ったら?」
「え……」
「え?」
「いや、あのさぁ……」
「なによ。あんたの相手してるほど、あたし達は暇じゃないのよ」
「いや、だからさ。俺、追い出されたんだって」
「ええ、聞いたわよ?」
「だからな、帰れないんだって!」
「知らないわよ」
「そんな事言うなよー! 暫く置いてくれよ! 俺、ほら。まだ小さいままだし」
そう言って、自称ドラゴンは俺の手にしがみついてきた。いや、まだちょっと汚いからやめて欲しい。
「それは自分が悪いんでしょう? それだけの事をしたんだから」
「そうだけどさぁ! そうだ! お前、俺と契約しね? 俺様が加護を授けてやるよ!」
「いらないわよ」
「そんな事言うなよー! 俺様の加護だぜ! エンシェントドラゴンの息子の加護だぜ!」
「えぇ? また嘘つくの?」
エンシェントドラゴンだなんて大っきい事を言い出したぞ。胡散臭さ満載だな。
「ちげーよ! マジだよ、マジ! 俺、本当にエンシェントドラゴンの息子なんだって!」
「エンシェントドラゴンって、こんな斑らな色なんスか?」
「いや、違うと思うよ」
「殿下、そうッスよね」
「エンシェントドラゴンは普通白って言うかぁ、綺麗なシルバーですよねぇ」
「まあ、翼が2対あるのはあってるわよね」
「いや、だからぁ! 俺も本当は白っぽいシルバーなんだって! ほら、見てみ? 口の周り。シルバーだろうよ。小さくされた時にこうなったんだって!」
「そこだけじゃないぃ」
「まるで……『霧島』みたいよね」
俺がそう言ったら、自称エンシェントドラゴンの身体が光った。ペカーッとな。
霧島とは……そうだよ。前世の親父が飼っていた、小さなふわモコのトイプードルの名前だ。同じように口の周りだけシルバーだった。俺はそれを思い出したんだ。で、呟いただけなんだぞ。なのに……
「あ……」
「お嬢」
「お嬢さまぁ」
「ふふふ、ココ嬢」
「何で! あたしなの!?」
「フハハハ! 契約成立だな!」
偉そうにドラゴンはまた腰に手をあてて胸を張っている。
「えぇ!? どう言う事よ!」
「だからな、俺がお前に加護を授けて、お前が俺に名付けしたんだよ。契約成立だ!」
「加護なんてもらってないわよ!」
「授けましたぁ! さっき、ちょちょいとしっかり授けたんですぅー!」
こいつ! 勝手に何してくれてんだよ!
「いらないわよ、返品よ! 返品!」
「うわっ、ひどッ! 酷すぎるぜぇー!」
今度はシナシナと泣き出したぜ。嘘くせー。
「嘘泣きするんじゃないわ」
「してねーし!」
「まあまあ、お嬢。いいんじゃないッスか?」
「ですよねぇ〜」
「えっ!? 何で? 面倒じゃない。胡散臭いし」
「ひどッ! 俺、せっかく加護を授けたのに!」
「あなたが勝手にやったんでしょう?」
「でも、お嬢。本当にエンシェントドラゴンならめっけもんッスよ」
「えッ? そう?」
「そうですよぅ。翼も2対ありますしねぇ」
この世界、エンシェントドラゴンと言えば崇高な存在らしい。実際に目にした者も滅多にいない。
知能・魔力・体力……どれをとっても並みのドラゴンなど到底敵わぬ程に強く巨大な、神に匹敵するドラゴン。
その特徴として、全身白の様な淡いシルバーの体色と2対の翼なんだそうだ。そんな、エンシェントドラゴンの加護を授かったとなれば……
「あ……父さまが喜ぶ?」
「はいぃ。旦那様はきっとテンション爆上がりですよぅ」
「絶対ッス」
「仕方ないわねぇ」
「ふふふ」
俺がそう言うと、今迄シュンとしょげていた小さなドラゴンが途端に目をキラキラさせ出した。
「な! な!? 俺ってスゲーだろ?」
「あなたは凄くないでしょう? 小さくされて閉じ込められて追い出されたんだから」
「そうだけど! でも、歴としたエンシェントドラゴンだぜ?」
「まあ、いいわ。そうね、あたしの言う事を聞いてくれたら許すわよ」
「なんだよ?」
「王子殿下を守護してほしいの」
「ココ嬢!」
「はぁ!? 何で俺がそんな面倒な……」
俺はまた叩いてやろうと手を挙げた。
「分かった! 分かったって! で、どいつなんだ? その王子ってさ」
「殿下よ。お命を狙われているかも知れないのよ」
俺は一緒にいた王子を紹介した。
「ココ嬢、僕の事はいいんだ」
「殿下、よくありませんよ。この際です。大した守りにはならないでしょうけど、無いよりはマシかも知れません」
「なんなんだよ、その言い方はよぉ! 俺に掛かったら些とやそっとじゃびくともしねーぞ!」
「ほら、殿下。だそうですよ」
「本当かなぁ?」
おやおや、王子も言うね。
やんちゃなドラゴン登場です!
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