29ー前世での出会い 2
「好きにするといい。お前には力がないんだと分かるだろうよ」
親父はそう言って、その日取立てに俺を連れて行った。咲と隆の家にだ。普通、小学生を連れて行かないだろう? 跡目を継ぐ為に経験させるつもりだったのだろうか?
組員達が玄関を無理矢理開けさせて家の中に押し入る。そこら中にゴミの袋が放ってあり、空の酒瓶が転がっていた。食べ物が入っていただろうトレイや空容器が台所や机の上に放ってあって、タバコの吸い殻が散らばっている。あまりの酷い部屋の様子に、俺は驚いて立ち竦んでいた。
「大和、何もしないなら帰れ」
親父にそう言われて、ハッとして2人を探した。部屋には2人の父親らしきおっさんしかいない。しかも泥酔状態だ。何が起こっているのか理解できていないだろう。
2人は何処に行ったんだ? 何処にいる? 小さな家の中を探した。何処にいるんだ?
2人は奥の部屋にある押入れで隠れていた。身を寄せ合って、震えながら。
「……!!」
俺は、声を掛けられなかったんだ。ただ、突っ立って黙って見ている事しかできなかった。小学生の俺には、衝撃的な出来事だったんだ。
俺の家は極道だ。他の家とは違う。だが、それでも俺達姉弟は両親に可愛がってもらった。何の不自由もなく、毎日平和に学校へ通っていた。嫌な事と言えば、無理矢理食べさせられるピーマン位だった。そんな平和ボケした小学生には頭が付いていけない光景だったんだ。
組員が2人を押入れから出した。2人は抵抗もせず、ただ2人寄り添って震えていた。
それが、俺と咲、隆姉弟との始まりだった。
「2人は児童養護施設へ入る事になるだろう。あの父親には扶養する力はないだろうからな。まだ親切な親戚でもいればマシだが」
「そっか……」
「だが、これでもう父親から暴力を振るわれる事はない」
「うん……」
「ちゃんと飯も食える」
「うん……」
「学校にだって通える」
「うん……」
「大和、帰るぞ」
「……父さん、うちで引き取れないの?」
「何言ってんだ。慈善事業じゃないと言っただろうが」
「けど……うちなら人がいっぱいいるから子供が2人位増えたって、どうって事ないじゃん!」
「お前なぁ。じゃあこれから、あいつらみたいな子供を見つけたらみんな保護すんのか?」
「そうじゃないけど……」
「馬鹿な事を言うな」
「でも……でも! 父さん! 頼むよ!」
「大和、お前うちの家業を分かってるか?」
「う、うん……」
「そんな家に引き取ってどうすんだ」
「じゃあ……じゃあさ。あの2人に聞いてみようよ!」
「馬鹿が! 誰だって極道に引き取られたくなんかないだろうよ」
「……」
「諦めろ」
「俺付きにすればいいじゃん!」
「はぁ!?」
「父さん、言ってたじゃん! 大きくなったら俺付きの組員を決めなきゃって言ってた! 俺、あいつらがいい!」
「馬鹿かお前は!」
「ね、お願い! 頼むよ!」
「大和! 犬猫じゃないんだぞ! 教育もしなきゃいけない。あいつらの意志だってあるんだ! 将来の自由を奪う事になるかも知れないんだぞ!」
「難しい事言っても、分かんないよ!」
「じゃあ、最初から口出すな!」
今なら、親父が言っていた事の意味は分かる。極道になんて拾われたら、将来の可能性を潰す事になりかねない。けど、あの時の俺は咲と隆を放っておけなかったんだ。
結局、父親が根負けして2人を引き取った。そして、自分の子供と同じ様に教育を施し習い事もさせた。姉貴達と同じ様に育ったんだ。
姉貴達に色々仕込まれ、誰よりも強く誰よりも器用になった。なんで、器用なんだよ! て、感じだ。姉貴達が、自分達の趣味を手伝わせたからだな。
成人して、正式に俺付きの組員になった。それからは、いつも一緒だった。最後の時も一緒だった。そして、今世だ。転生してまで俺に仕えてくれている。また、姉弟でだ。
咲が時々俺に言うんだ。自分達が仕えるのは俺だけだってな。あの時、俺が無理強いしないで施設に入って暮らしていた方が絶対に長生きできただろうに。
幸せな家庭を築けていたかも知れない。俺は、そう思ってしまう。なのに、咲と隆は俺のお陰だとか言うんだ。そんな事ないのにな。
「若は、お馬鹿ですかぁ? あたし達は幸せでしたよぅ。楽しかったですぅ」
と、咲が言う。隆も隣で笑っている。なら、良いけどな。だが、今世こそはお互い長生きしような。
「アハハハ、そうッスね」
「はいぃ! あたし子供を産んでみたいですぅ!」
「おう、産め産め。何人でも産んで幸せな家庭を作れ」
「若もですよぅ」
「そうッス。先ず、若が幸せになってもらわねーと」
「ま、頑張るわ。女子だけど」
そんな俺達だ。今世でも俺が赤ん坊の頃から仕えてくれていたらしい。今世でも俺に仕える事となったきっかけはまた今度だ。
咲と隆とのお話は一先ずここまでです。
次話からウルフ討伐の後にお話は戻ります。
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