25ー戦力
父には暫くパンツだけで我慢して貰って、王子には上下だ。この家にいる限り、また毒を盛られる事はないだろうが。それでもだ。念には念を入れてだ。
で、俺達は速攻で作り上げ、今日は王子の試着会だ。
「おぉ……!」
衝立の向こうで王子が試着している。
「どうです? 殿下」
「これは……これはいいですね」
「そうでしょう、そうでしょう! ポジションがいいでしょう!」
父よ、王子殿下にポジションって言うんじゃないよ。
「アハハハ、今迄のとは全然着心地が違いますね」
「殿下、服を着て出てきて下さいな」
「はい、夫人」
王子の下着の試着会だというのに、しっかり母まで同席している。
「これは動きも楽なのだ。ココ、良い物を作った!」
「ふふふ、父さま。ありがとうございます」
「本当よ、ココ。もう手放せないわ」
「母さま、良いでしょう? ピンクも作りたいですよね」
「まあ! ステキだわ!」
「まだ糸がないんですけどね」
「そうね、先ずは糸からね」
「はい。母さまとロディ兄さまが雇い入れてくれた人達が色々試行錯誤してくれています」
「そうなの。良かったわ」
王子が衝立から出てきた。腕を回したりしている。伸縮性があるから楽だろう。
「この様な生地は見た事がないです」
「殿下、ココが発見したのです! これは、状態異常無効の効果があるのですぞ!」
「状態異常無効ですか?」
「ええ、殿下。実験済みですわよ。毒を無効化しますわ。ただ、魅了や麻痺等他の状態異常は実験できていないのですけれど」
「もしや、僕の為に態々作って下さったのですか?」
「殿下、タイミングですわ。元々、ココが調べていたのですよ。状態異常無効の効果があると分かって、殿下へと取り急ぎ作らせましたの。下着ですから、薄手の生地ですけど厚めの生地にすれば防御力アップにもなるのですよ」
「それは凄いです」
「そうでしょう、そうでしょう! 是非とも領主隊の制服をと思いましてな! 殿下の上着も良いですな!」
「ココ嬢、よく見つけたね」
「はい。この糸をつくる魔物がうちの領地にしか生息していないのです。それで、特産品になればと思ったのです」
「それは良い事だね」
「ありがとうございます」
気に入ってもらえた様だ。ま、今迄の下着と比べたら着心地だけでなく、機能も比べ物にならないだろう。ふははは!
王子の下着も出来上がり、次はロディシスの分か。と、思っていた矢先だった。
その日は朝から領主隊が忙しなく動いていた。だから、何かあったのかとは思っていたんだ。俺達は相変わらず、糸を紡ぎ布地を織り下着を縫っていた。そんな日常が一変したんだ。
「お嬢、旦那様がお呼びです」
「分かったわ」
俺は、咲や隆と一緒に部屋を出た。
「え? 隆、執務室じゃないの?」
「はい、お嬢。皆様全員ですから。王子殿下もです」
「何かあったの?」
「はい。旦那様から説明があります」
何だ? いつもとは違う緊張感があるな。邸内がピリピリとしている。とにかく俺は隆に先導され応接室へと向かった。
「よし、皆集まったな」
「父上、俺から説明します」
「おう」
説明はいつもバルトシスの役目だ。父程、脳筋じゃないからな。何があったんだ?
「今朝早くに、見回りへ出ていた領主隊から森で異常があると報告があった。調べたところ、ウルフ種の群れが発見された」
うちの領地が隣接している森は魔物が生息している。森の浅い部分には一般人でも頑張れば倒せる様な弱い魔物ばかりだ。食料にもなったりしている。
だが、奥に行けば行く程、魔物は強くなる。バルトシスが話していたウルフ種は中位と言ったところか。しかし、群れとなると話が違ってくる。一気に危険度が跳ね上がる。
「目視での情報だが、50頭は下らないらしい」
「兄上、目視で50ですか……」
「そうだ、ロディ。これから、領主隊で討伐に出る。ロディは邸裏の防御壁で待機だ」
「はい」
「ココ」
「はい、バルト兄さま」
「ロディと一緒に待機だ」
「はい。分かりました」
「え? ココ嬢もですか?」
そりゃそう思うよな? だけどな、王子。俺も辺境伯一家なんだ。そこら辺の奴らには負けないのだよ。
「殿下、ココも立派な戦力なのです」
「そんな……まだ、8歳の令嬢なのに……危険です」
「殿下、大丈夫ですよ。私も辺境伯の子ですから」
「ココ嬢……」
「殿下は、邸から出ないで下さい。この邸にいれば安全です。大丈夫です、ウルフ種などには負けません」
「バルト殿、分かりました」
王子と、王子のメイドであるソフィリアが驚いている様だ。王都ではこんな事はないだろうからな。普通は、魔物と言うだけで、震え上がるだろう。
WBC世界一おめでと〜!




