23ーミシンだ
「よし! 掘れた!」
「殿下、お疲れさまでした」
「やっぱり凄く時間が掛かってしまったよ」
「ジャガイモの時よりは早いですよ」
「そうかなぁ?」
「はい、そうです。さあ、殿下! 行きますよ!」
「え? また調理場?」
「そうです! 咲、行くわよ!」
「はいですぅ」
俺は、王子や咲と一緒に調理場まで走った。
「殿下、息切れしなくなりましたね!」
「毎日、歩いているお陰だよ! 僕も早く鍛練に参加したいんだ!」
「えぇー!」
「アハハハ! ココ嬢は鍛練が嫌なんだったね」
「はい。キツイですから」
「僕も守れるようになりたいんだ」
「殿下?」
「せめて、今の様に守られるだけの僕からは抜け出したいんだ」
「はい! 頑張りましょう!」
「ああ!」
「お嬢さまぁ、早く行かないと良い席が無くなりますよぅ」
「サキ! 分かってるわよ! 殿下、行きましょう!」
「ああ!」
少しずつ、王子も前向きに考えられるようになってきているらしい。しっかり食べて体調も良くなったのだろうな。人間、身体が弱くなっているとロクな事を考えないし、力も出ない。どうしても後ろ向きな事ばかり考えがちになってしまう。笑顔が自然に出て、前向きな事も話すようになってきた。良い事だぜ。
「ココ! 殿下! こっちです!」
「ロディ兄さま!」
また、ロディシスが席を取っていてくれた。助かるよ。俺達は、ごった返した調理場を兄の元へと移動する。殆ど、全員集合じゃないか?
「リュウ、今回は残念だったな」
「いや、参ったッス。ルーク隊長、目が血走ってましたよ」
「アハハハ。そりゃ、隊長としてはとか思ったんだろう」
「そうッスか? 関係ないと思うんスけどね」
ジャガイモ掘り大会で1番だったんだから良いじゃないか。来年こそは、サキに負けねー! て、毎年言ってる気がしてきたぞ。
「ルーク・スカイラン隊長!」
「はっ!」
はいはい、また父が張り切ってるよ。
「よくやった! 1番だ! 今年の景品、ワイン1樽だ!」
「ありがとうございます!」
――おおー!
――隊長! ごちッス!
きっと、隊員達で空けるんだろうなぁ。もう、呑む気満々だよ。いいなぁ。俺も呑みたいなぁ!
「お嬢さまはまだ8歳ですからねぇ」
分かってるって! それから、鱈腹さつまいもを食べた。蒸かしたさつまいもに、さつまいもチップス。俺は、大学芋を作ってもらった。
「お嬢、午後からッスよ」
「ん? ああ、あれね」
「そうだよ、ココ。本格始動だ」
「はい、兄さま」
何がって? あれだよ、あれ。ロディシスの黒のボクサーパンツを作るんだ。午後から人が入るから教えないといけない。あ、先に母の下着を作らなきゃな。ググッと寄せてあげるブラとお腹をおさえてヒップをキュッと持ち上げるガードルだよ。
その日の午後、俺たちはいつもの様に作業をしていた。そこに、ロディシスがやって来た。
「ココ、いるかい?」
「はい、兄さま」
「雇う人達を連れて来た。面接は一応済んでいるけど、どうする?」
「兄さまが選んで下さったのですか?」
「そうだよ。僕と母上で選んだんだ」
「じゃあ、それでいいですよ」
「そうかい?」
「はい」
「じゃあ、みんな入って」
兄が連れて来たのは、男性2人に女性4人だ。それに……ドワーフ。
「おぉ……」
ドワーフだ。本当に髭が長くて身長が小さい。因みに、うちの領地には、ドワーフだけでなくエルフも住んでいる。
「ココが話していた縫う道具をね、作って貰ったんだ」
え、本当に!? もう、出来たのか。
「母上がもっと広い場所をと言っているんだけどね、専用の作業場が出来るまで取り敢えず此処に入れていいかな?」
「はい、兄さま」
男達が、部屋に運び入れてくれた。
前世のミシンより少し小型か? 机に置くタイプか? 前世のミシンって動力は電気だった。この世界に電気なんてない。どうすんだ? て、思っていたらなんと魔石だった。
被せてあった布をとって、ドワーフのおじさんが説明してくれる。因みに、うちの領地の武器だけでなく農器具もドワーフ作だ。エルフは弓や魔法の先生だ。畑の世話もよくしてくれている。ドワーフやエルフも仲良く住んでいる。俺はまだあんまり関わった事ないけどな。
「この部分に魔石を設置するんだ。満タンに魔力を溜めたら丸1日は動かせる」
おお、凄いじゃん! 直径10センチ程の魔石だ。こんなので、そんなに使えんの? 魔石って不思議アイテムだよな。
「糸を此処から通すんだ。こうして……で、ここを足で踏んで動かす」
ドワーフの親方に言われながら、実際に隆が糸を通し動かして試し縫いをしてみる。
「おぉ! いいッスね、これ!」
「リュウ、どんな感じ?」
「全然変わんないッスよ。スゲーな」
前世で使っていたミシンと比べているんだ。なんで極道の組員がミシンに詳しいんだよ! 姉貴の奴、どんだけ仕込んでいたんだ?
目指せ、日間ランク100位内!
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