203ー侯爵令嬢も?
「とっても綺麗な髪色なのね」
やはり、隆の派手な金髪が目についたらしい。派手だからだよ。だって第1王女は派手好きじゃん?
「ありがとうございます」
「私もそんな色が良かったわ」
王女はキャメルブロンドだ。俺はそう大して変わりはないだろうと思う。
「王女殿下の髪もお綺麗です」
「そんな事はないわ。中途半端よ。くすんでいるし」
「いえ、お可愛らしいと思います」
「そう?」
「はい」
「そうかしら、ふふふ」
ふふふ……と笑いながら通り過ぎて行った。良かった。内心ビクビクだぜ。
「びっくりッスね」
「リュウの派手な髪色の所為ね」
「そうッスか?」
「そうよ、コンプレックスなのかもね」
「髪色がッスか?」
「そうよ。ほら、王家の色とか言ってたじゃない」
「ああ、そう言えば言ってたッスね」
「くだらないわ」
「そうッスね」
「それよりも、こっそり1発解呪しておけばよかったわ」
「お嬢、イケイケッスね」
俺達は庭にでた。この時期に咲くバラが色とりどりに咲いている。真紅のバラから淡いピンク、オレンジ掛かったピンク、白、手入れされ見事に咲いていた。バラの香りに酔ってしまいそうな芳香だ。
その中をチラチラと見え隠れしている黒いもの。あれは……
「ノワ!?」
「アン!『ココ!』」
「本当にノワッスね」
ノワが小さな身体で飛ぶように走ってきた。ビュンッて音がしそうだ。
「ノワちゃ~ん! こんなところにいたのね」
俺はしゃがみ込んで、ノワを撫でる。撫でまくる。
「アン!『いっぱい解呪したぞ』」
「そう、偉いわ~!」
「アンアン!『おれ、がんばる!』」
ああ、ノワは癒しだよ。文句なしに可愛いね。
「あ、ココさま。ノワちゃんここにいたのね」
メイドさんがノワを探していたらしい。慌ててやってきた。
「もうノワちゃんったら覚えちゃったから勝手にどんどん行っちゃうんですよ」
「アン」
「ノワ、メイドのお姉さんと一緒にいないとダメじゃない」
「アンアン『だって、おれもう覚えたぞ』」
「でもね、メイドさんと一緒にいなきゃダメよ」
「アウゥ」
「ね、ノワお願い」
「アン『わかったぞ』」
ノワちゃん張り切っているね。さて、ノワのお陰でどれだけ解呪できたのか見てみようかなっと。
俺と隆は、ノワとメイドさんの後をついて城の奥から外側へ向かって歩いていた。
「あれ? お嬢、あのご令嬢何してるんスか?」
「え? どこ?」
ここはまだ誰でも入れる場所じゃないんだ。高位貴族でも家族の誰かがこの区域で働いていて、その人を訪ねてくるような人位しか入れない。
ちゃんと申請をして手続きをしないと入れない区域だ。その中庭にお供もつけないで1人ポツンと立っている令嬢がいたんだ。
近づいていくと、いかにも高そうなドレスを着ている。手入れの行き届いた、サラ艶のピンクブロンドの髪にリボンをつけていた。毛先を大きくカールさせている。その令嬢に隆が声を掛ける。
俺は念のため、隆の後ろにそっと隠れていた。
「失礼ですが、どなたかとお約束でしょうか?」
普段は『ッス』しか言わない隆が、ちゃんと丁寧な言葉を使っている。なんだよ、話そうと思えばちゃんと話せるんじゃないか。普段ももう少し言葉を使って欲しいもんだ。
「え……?」
「いえ、この辺りは許可がないと入れないところですので」
「ええ、知っているわ。あなたは一体何なの?」
「私は第2王子ニコルクス殿下の従者にございます」
「あら、そうなの!? 殿下は今どちらにおられるのかしら? 私、殿下にお会いしたいの」
「いえ、ご令嬢はどうしてこちらにおられるのですか? 許可はございますか?」
「失礼ね! 私は侯爵令嬢なのよ!」
「ですので、許可は……」
「許可なんかないわよ! 侯爵令嬢には必要ないわッ! 殿下はどこにおられるか聞いているのよ! さっさと案内くらいしなさいッ!」
いやいや、この令嬢何言ってんだ? 身分に関係なく、この区域は許可が必要だろう。
「アウ」
「ノワ、どうしたの?」
ノワが足元で小さな声で俺を呼んだ。
「アウ『あの人解呪しなきゃだぞ』」
そうなのか? 俺は鑑定眼で令嬢を見る。
「ああ、ノワ。お願い」
「アン」
そう一鳴きすると、ノワはトコトコと令嬢の足元に行きスリスリと擦り寄った。
「アン」
「え? 何? 犬?」
「アン、クゥ~ン」
「まあ、なんて可愛いのかしら! ワンちゃん、いらっしゃい」
令嬢はノワに手を伸ばす。すると……
「アン」
令嬢がノワに手を伸ばし少し近付いただけだ。それだけなのに、令嬢の背中や首筋辺りから黒いモヤモヤが浮き出てきた。
「あら? なにかしら? ちょっとクラクラするわね」
令嬢の足元がふらつきノワの前にしゃがみ込んだ。モヤモヤはまだ出ている。令嬢の頭の上で大きな黒い靄になったそれは、まだ留まろうとしているように見えた。
「リュウ、精神干渉が深いわ」
「お嬢、ダメッスよ」
「放っておけないわよ」
俺が解呪に出ようとした。すると、ノワがいきなり令嬢に飛び着いた。
「アン!」
「まあ、どうしたの!?」
令嬢が尻尾をフリフリしているノワをしっかりと抱っこする。すると、留まろうとしていた黒いモヤモヤがヒュゥ~ッと抜け出て何処かに飛び去っていった。
「まあ、可愛いわね」
令嬢はなんともない様だ。
「ふらついたりしませんか?」
念のため、隆が令嬢に聞いた。
「え? なんともないわよ。どうしたの? え? どうしたのかしら? 私どうしてお城にいるの?」
「迷いこまれたようです。お送りしましょう」
「いえ、大丈夫よ。1人で帰れるわ」
「お付きの方はおられないのですか?」
「本当ね、どうしたのかしら?」
すると、遠くで「お嬢さまぁ~!」と呼ぶ声がする。
「ああ、探しているわね。大丈夫よ、ありがとう。ワンちゃんもありがとう」
何もなかったかの様に令嬢は去って行った。
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