201ーノワは伝説?
「なんとッ、潜入か!?」
「はい、申し訳ありません」
「いやいや、謝る必要はないぞ。面白そうじゃないか!」
ん? 何だって? て、話しているけど。
俺達は第1王子の執務室に強制連行されたんだ。有無を言わせないとはこの事だ。と、言うか第1王子に嫌だとは言えない。
そして、仕方なくロディ兄が白状……いや、もとい。説明したんだ。
「それは、父上の安否確認も兼ねているのだな?」
「もちろんです。まずそれを第1に。その後、誰が何の為にこんな事をしているのかを突き止めたいと思っております」
もう全部白状しちゃってるよ。仕方ないな。
と、そんな時にお茶を出してくれた……咲かよ! お前もう馴染んじゃってるじゃん。
「うふふぅ~」
「このメイドもか?」
「はい。普段はココアリアの侍女をしております」
「と、いう事は彼女も強いのか?」
「も」? なんで「も」なんだ?
「最近メイドなのに、とんでもなく強い者がいると噂になっているぞ」
おいおい、何やってんだよ。メイドさん。
チラッとメイドさんを見ると「エヘッ」とウインクしてきた。ああ、また確信犯だ。
その噂というのもだ。何も知らない貴族の馬鹿息子共がメイドさんにちょっかいを出そうとしたらしい。
最初はそれをあしらっていたそうなんだが、毎日毎日しつこく言い寄ってきたそうだ。「お前を愛人にしてやろう」的な事を言ってきたらしい。
それでも適当にあしらっていると、とうとう強硬手段に出てきた。空き部屋に連れ込み押し倒そうとしてきた時に、うちのメイドさんは返り討ちにしちゃったらしい。
そんな話がチラホラと……そりゃあ噂にもなっちゃうよ。
「それは相手が悪いのだ。唯のメイドではない。城にいるメイドに手を出そうなど馬鹿としか言いようがない。話を聞いた時にスッキリしたぞ」
おや、そうなのか? でも噂は駄目だ。目立ったらダメだって言ってたのにさぁ。
「皆、美人揃いだからな。仕方ないだろう」
「恐れ入ります」
ロディ兄と俺は小さくなっていたよ。なのにメイドさんは、普通にお茶菓子を出してきた。
「ココ様、これ美味しいですよ」
「え、本当?」
「はいぃ」
ああ、心臓に毛でも生えているのか? 鋼鉄製の毛がさ。
「ココアリア嬢、遠慮せずに食べると良い」
「あ、ありがとうございます」
「アン」
「ノワちゃん食べる?」
「アン」
ヨシヨシ、あげようね。ノワちゃんは可愛いね。
「で、その犬も潜入なのか?」
「はい。実は……」
と、またロディ兄が白状した。いや、何度も間違っているけど、説明したんだ。もう、洗いざらいだよ。
「なんとッ! ブラックフェンリルだとッ!?」
「はい。ココに加護を授けております」
「ココアリア嬢にかッ!?」
「はい」
「ブラックフェンリルなど伝説上の生き物ではないか!?」
え? そう? 普通に森にいたよね、ノワちゃん。だって賊に捕まってたもんね。
「アン」
ノワちゃんはお茶菓子のクッキーを食べてご満悦だ。唯のクッキーじゃないよ。あんずジャムがのっかってる美味しそうなクッキーだ。俺も食べよう。ああ、美味い。このあんずジャムが良いよね。
「アン」
な、ノワもそう思うよな。
「しかし、いくらブラックフェンリルだとしても潜入して何を調べられるのだ?」
「いえ、調べるのではなく……」
と、まあこれも白状しちゃった。ロディ兄、チョロいぞ。チョロ松さんだぞ。王子殿下には逆らえないか。
「魔法陣!?」
「はい。目には見えませんが、領地にいるエルフのクリスティー先生が……」
「ちょ、ちょっと待て! エルフのクリスティー殿だとぉッ!?」
第1王子が食い気味に反応してきた。やっぱクリスティー先生は有名なんだ。
「生きておられるのかどうかも定かではなかったと言うのに」
いやいや、幽霊じゃないんだから。そんな事を聞くとクリスティー先生が悲しむぜ。
「うちの領地におられます。お元気ですよ」
「そうなのか」
「はい。うちでは代々クリスティー先生に色々と教わっております。今はココの魔法の先生です」
「なんとッ! 贅沢な!」
贅沢っていわれちゃったよ。そんな事言われてもね。俺は全然知らなかったし。あのクリスティー先生だし。
「そのクリスティー殿の作った魔法陣なのか?」
「はい。目には見えませんが、ノワの首輪につけております。それで城の中を歩き回って解呪をしておりました」
「なんという事だ……そんな事までしてくれていたのか」
「先日、ご挨拶致しました際にココが鑑定眼で見ております。城の殆どの者が精神干渉をされております」
「ああ、そうらしい」
第1王子も解呪してから、不審に思う事が多々あったそうだ。今までどうして何も思わなかったのかと不思議なくらいなのだそうだ。
些細な事から、王や王妃に関わることまで色々あったらしい。
「精神干渉とは、恐ろしいものだと痛感していたんだ」
「しかし殿下。話を合わせて頂かないと敵に見破られてはなりません」
「ああ、分かっている。適当に合わせるようにしている」
と、第1王子がノワを見た。
「小さいが、ブラックフェンリルなら強いのだろうな」
「はい。それはもう」
「そうか……辺境伯領とは……」
なんだ? そこで言葉を切るのはやめてくれ。全部言ってほしい、気持ち悪いから。
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