189ー分からない
『なるほどでっす。大勢の人間を解呪ですか』
『はい、クリスティー先生。あたしにできますか?』
『できない事はないと思いますよ……そうですね、少しお時間をくださいませんか?』
『はい、クリスティー先生』
『また、連絡しまっす。皆様、無理をなさらないで、身体には気を付けてくださいとお伝えください』
『はい、有難うございます』
できない事はない……か。でもクリスティー先生が考えるということは、俺が解呪するよりもっと有効な手立てがあるのか、若しくは俺の能力がギリギリなのか……?
とにかく、俺には分からないからクリスティー先生の返事を待つとしよう。
「ココ、無理は駄目だよ」
「はい、ロディ兄さま」
もちろん、自己犠牲なんてしないさ。そんな事をしたら、悲しむ人達がいるのが分かっているから。
「お嬢……」
「お嬢さまぁ」
「大丈夫よ。クリスティー先生が手立てを探してくれるわ。それまで待つわ」
「はいですぅ」
ホッとした顔をした咲と隆。こいつ等を置いていくわけにはいかない。一緒に天寿を全うするんだ。転生したと分かった時にそう俺は決めたんだ。
だから、そんな心配しなくても大丈夫だ。
「ココ、お前本当に良い奴だな」
「キリシマ、また勝手に読むんじゃないわよ」
これは言っても聞かないな。
「敢えて読んでいるんじゃねーんだ。ココと繋がりがあるだろう。だから勝手に流れてくるんだよ」
「じゃあ、殿下も?」
「いや、あいつよりココの方が繋がりが深いらしい」
「意味分かんないわ」
「まあ、色々あんだよ」
そうかよ。色々都合の悪い、隠し事があるって事だな。
「ココー!」
「アハハハ」
キリシマとそんな事を話しながら、ノワとじゃれていたんだ。そこに父とバルト兄が戻ってきた。
「ふぅ~、いかんな!」
「父上、報告しましょう」
「ああ、任せる」
と、結局バルト兄が何をしていたのか話してくれるみたいだ。
父が何故か疲れている。頭を使う事は苦手だからな。なんせ脳筋だ。脳筋集団のドンだからな。
また、談話室にみんな集まっている。が、今日は姉達は欠席だ。学園があるからね。
「結論を申しますと、騎士団や事務管理の方にも何も情報が集まりませんでした。どちらも陛下のお姿を、久しく見ていないそうです。管理の方は、いつもなら陛下によく呼び出されていたそうなのですが、この数年ぱったりと無いそうです」
「アレクシスが、殿下をお連れする時にもお目通りできなかったのだろう?」
「はい、義父上。陛下にも、王妃様にもです」
「その頃かららしいですね」
「では、最悪の事を考えると、その頃から城内は精神干渉を受けていたということか」
「そうなるかと。しかし、何が目的で一体誰がというのが全く掴めません」
そこだよ。王族に精神干渉をして、城で働いている者まで精神干渉をして、一体何がしたいのか?
それが、全く分からない。まさか他国の間者が? とも考え辛い。何故ならこの大陸にある国は、各国と安全保障条約を結んでいるからだ。
「ココは何故そうなったのか勉強したかい?」
「はい、ロディ兄さま」
昔々、ずっと昔、各国は領地を求めて戦を繰り返していたそうだ。
それが何年も何十年も続いて各国は疲弊した。土地も荒れた。どの国もその戦が元で国力を削いでしまったんだ。
それで、停戦し各国と安全保障条約を締結するに至ったんだ。
奪うより、流通させようという事だ。
当然だ。そんなに長い間戦をしていたら、どの国にとっても有益にはならない。なる筈がない。
其々の国が欲しいもの、売りたいもの、領地は渡せないがその分物でという事になったのだろう。
平和的に解決するしかもうなかったのだろう。そこまでになった戦だったらしい。
だから2度と戦を起こしてはならない。
平和を守らなければ1番傷つき疲弊するのは民達だと、領地にある教会の司教様に教わった。
「そうだね。だからもし今回の事が他国の侵略行為だとしたら国際問題になる」
「そんな事を、どこの国でもしようとは思わないだろう」
「お祖父さま、どうしてですか?」
「各国から批判されるだろう? もしかしたら流通を止められてしまうかも知れない。そんな事になったら困るのは自分の国だ」
なるほど。それだけ強固な条約なんだな。
「こんな事をして、誰が1番得をするのかを考えたのです」
「誰だ?」
「それが、誰とも。強いて言えば王妃様の一派でしょうか?」
そうだよ、だから俺達は1番最初に王妃を疑ったんだ。
「でも、王妃様ご自身も表に出てきておられません」
「そうなんだよ。だからその線も弱い」
「全く分からんぞッ!」
ああ、父が投げやりになっている。メイドさんが出してくれたお茶を一気飲みしちゃって、おかわりを貰っている。
「ヒューマンとしてはそうなんだろうな」
「キリシマ?」
「いや、まだ俺も全然分かってねーぞ。でもクリスティー先生と話していたんだけどな、こんな精神干渉を続けるのにはヒューマンだと魔力が足らないんじゃないかと思ってな」
「キリシマ、なら黒幕はヒューマンじゃないって事か?」
「それも半々だ。ヒューマンの比較的魔力量が多くて、魔法操作に長けている魔術師が何人もいるなら話は別だ。人数でカバーすんだよ。ならできねー事もない」
なんだ、結局振り出しだよ。まだ何も確実な事は分からない。
「いや、陛下がご存命だと分かった事は大きな事だ」
どんな状態で生きているかだ。と、俺は思った。
何故なら精神干渉を受けていた頃の王子を知っているからだ。
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