181ー第1王子
そして暫く待つと、傍に控えていた人が大きな声で言った。
「第1王子殿下のお成りにございます」
お、おう。チャラーンなんて効果音が聞こえてきそうだ。
第1王子殿下、イザークス・ヴェルムナンド殿下だ。
少し茶色掛かった赤い髪を後ろで1つに結んでいる。ターコイズブルーの瞳が清々しい王子だ。たしか21歳だと城に来る馬車の中でロディ兄に教わった。
俺達はお声が掛かるまで頭を下げたままだ。祖母と俺はカーテシーだ。
これって慣れないと辛い姿勢なんだよ。もちろん、俺は慣れていない。だから、足がプルプルしてくる。
「ココちゃん、頑張りなさい」
と、祖母が小さな声で励ましてくれる。祖母は余裕だぜ。流石だ。
「ココ、こっそり見なさい」
なんだと!? ロディ兄がとんでもない事を突然言い出した。
この国の第1王子だぞ。次期王様だぞ。そんな人をこっそり見るなんてバレちゃったらマズイんじゃないのか?
そう思ってカーテシーをしたまま横目でロディ兄を見ると、ウインクをしてきた。
あ、これはマジだ。本気で見ろと言っているぞ。知らねーからな。もし何かいちゃもんでも付けられたら俺はカチコミかけるぞ。いいんだな?
「その結果をこっそり教えるんだよ」
「はい、兄さま」
やってやろうじゃん。ちょっと面白くなってきた。
「楽にしてくれ。セーデルマン侯爵、久しぶりだな」
「はい、イザークス殿下。ご健勝そうで何よりでございます」
やっとカーテシーから解放された俺は、軽く深呼吸してロディ兄が言ったようにこっそりと見た。
まあ、こっそりも何もないんだけど。見た目は何も変わらない。だが、俺は心の中で『鑑定』とつぶやいたんだ。
「今日は私の孫のロディシスとココアリアとご挨拶に参りました」
「辺境伯の子息と令嬢か。初めて会うな?」
「はい、殿下。辺境伯次男のロディシス・インペラートと申します。お見知りおきください。これは妹です。ココ、ご挨拶を」
「はい。初めてお目に掛かります。次女のココアリア・インペラートと申します」
「辺境伯にはこんな可愛らしいご令嬢がいらしたのだな」
「ありがとうございます、殿下。まだまだお転婆なもので」
「アハハハ、そうなのか。しかし辺境伯一家は皆屈強だと聞いている。前辺境伯もお強い方だったと記憶している」
「はい、そうでないとあの地を治める事はできませんからな」
などと、祖父が王子の相手をしてくれている間に俺は鑑定眼で見たんだ。
きっとロディ兄は予想していたのだろう。だから、こんな場で無謀にも俺にこっそりと見ろと言ってきたんだ。
兄が情報を集めているのは知っていた。そうして1つの仮説を立てたのだろう。
「ロディ兄さま」
「どうだった?」
俺はロディ兄にこっそりと話した。そして……
「この場で解呪してもかまいませんか?」
「ココちゃん、待ちなさい。この後、四阿でお茶の席を設けて下さっているわ。そこにしなさい」
「はい、お祖母さま」
げ、まだあんのかよ。もういいじゃん。自己紹介はしたしな。早く帰ってドレスを脱ぎたいぜ。
「この後、茶の席を設けてある。そちらに移動しよう」
まだ座れるだけマシか? しかし、こうなったら王族全員見てみる必要がなくないか? 片っ端から見てやるぜ?
「ココ、周りに敵がいるかも知れないからね。先急ぐんじゃないよ」
「はい、兄さま」
勝手にするなということだ。俺、そんなに信頼ないかね。まあ、ないだろうね。
領地では好き勝手な事をさせてもらっているから。自由だよ。咲と隆を連れていつも自由だ。
それが、この王都にきてからは違う。ああ、もう早く領地に帰りたくなってきたぞ。
案内された四阿。周りには高級そうなバラが色別に分けて植えられている。バラが芳香を放っている。
うちの四阿とは大違いだ。なんせ、バラなんてないからな。花といえば、実用的な薬草の花くらいだ。
その四阿で先に待っていた令嬢がいた。なんだこのド派手な令嬢は?
「妹だ。公式の場ではないのだから是非とも参加したいと言ってな」
「マールミーア殿下、お久しぶりにございます」
「ココアリアです。お初にお目に掛かります」
どんどん俺の挨拶が雑になっていく。もう既にお疲れ気味だ。またカーテシーをしてお言葉を待っていた。
四阿で待ち受けていたのは、第1王女のマールミーア・ヴェルムナンド殿下で18歳だ。
ロディ兄が挨拶で『お久しぶり』と言った様に学園で同級だった。それにしては、ロディの態度が素っ気ない。これがあれか? 氷の花が咲くと言われる所以か?
「ロディシス様、お元気そうで何よりですわ。来られると兄から聞いて無理を言いましたの。お会いできてとても嬉しいですわ」
「アハハハ、どうもマールミーアはロディシスが気になる様なのだ」
「どうぞ、どうぞこちらに」
と、ロディ兄を自分の隣に座らせようと誘う。だが、ロディ兄は……
「いえ、とんでもございません。私は妹と一緒にこちらで結構です」
と、俺の背に手を当てて2人端に座る。おいおい、王女殿下をあしらってるぞ。
王女はロディ兄に気があるのか。ロディ兄は避けている感じだ。だって可愛い可愛い婚約者がいるもんな。
ロディ兄目当てで無理矢理参加したのか。俺は気が合いそうにないタイプだな。
取り敢えず、この王女殿下も鑑定だ。
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