179ー王城
翌日からロディ兄が話していたように、メイドさん達が出掛けていった。ついて来たメイドさん全員だよ、全員。うちのメイドさんはどうなってんだ?
姉とロディ兄の婚約者は学園があるからと寮に帰って行った。
「ココちゃん、いい? 絶対に先走ったら駄目よ。ココちゃんだって身の安全を考えて動いてね。姉様と約束よ」
「本当ですよ、ココちゃん」
帰る前に2人から、そう釘を刺されちゃった。俺ってそんなに先走らないぜ。ちゃんと落ち着いて王子を守るさ。
「ココ、そうじゃない。その気持ちは素晴らしいんだけどね」
と、ディオシスじーちゃんに言われた。何が違うんだ?
「ココちゃん、あなた何してるの? 準備しなきゃ」
「お祖母さま、何の準備ですか?」
「昨日話したでしょう? 早速お城へ行くわよ」
「え……」
「お嬢さまぁ、お着換えしましょうねぇ」
「サキ……マジかよ?」
「マジですよぅ」
「お嬢に戻ってくださいッス」
とっくに戻ってんだけど。ちゃんと女児用のワンピース着てるじゃん。あれ? これじゃまだ駄目なのか?
「ココちゃん、もう少し令嬢らしくしなさい」
「は、はい。お祖母さま」
駄目らしい。あぁ、あのドレスを着るのか。超めんどくせー。
「お嬢、顔に出てるッス」
「だってリュウ。ドレスなんて面倒よ」
「これ、ココちゃん」
「はい、ごめんなさい」
俺は咲に連れられ、ドレスにお着換えだ。まあ、領地で作った下着のお陰で以前よりはかなり楽だ。以前は子供であろうとお構いなしに窮屈な思いをしていた。コルセットまではいかないが、ギュウギュウと締め付けられたんだよ。身体に悪いだろうってレベルだよ。
「あぁ~、こっちのドレスかぁ……」
と、俺はドレスを見て項垂れる。これ、母が張り切ってオーダーした方だ。ヒラッヒラのフリルやレースがいっぱいついていて、しかもおリボンもいっぱいだ。
「きっついなぁ」
「えぇ? まだ絞めてませんよぅ」
「ばか、サキ。気持ちがだよ」
「うふふぅ。とっても可愛らしいですよぅ」
「そうかよ」
「ココ、俺は留守番か?」
「キリシマ、もしかして行く気だったの?」
「そりゃそうだろうよ。ココが行くなら俺も行くぞ!」
なんでだよ。お前は王子の護衛をしなきゃだろうが。
「あ、そっちかよ」
「そうよ」
「けどなぁ……ココ、いつでも念話できるようにな」
そんな事意識しなくても、勝手にいつも俺の心を読んでるじゃん。
「いや、マジで。今回は最初から読ませてもらうからな」
「いつも通りじゃん」
「まあな」
こら、キリシマ。お前マジでいつも読んでるな!?
「心配してやってんじゃねーか」
「やり過ぎよ」
「いや、今日は駄目だ」
「はいはい」
なんだろう? そこまで言うのは初めてだな。
「お前さぁ、敵陣に乗り込むって事なんだぜ。分かってんのか?」
「分かってるわよ」
なんなら、俺カチコミかけるぜ。
「お嬢……」
「はいはい」
「お嬢さまぁ、おリボンはどの色にしましょうぅ?」
「なんでもいいさ」
「はいぃ」
咲が張り切ってるよ。もう着せ替え人形になった気分だ。髪にもヒラヒラのおリボンをつけられた。
「これ、例の糸で編んだおリボンですからねぇ」
「そうか」
「かわいぃ~とかないんですかぁ?」
馬鹿咲、そんなのある訳ねーじゃんよ。
「ああ、もったいねーッス」
隆、お前ヒデーな。てか、お前も霧島も男なのになんで着替えてる間ずっと部屋にいるんだよ。
「え、駄目ッスか?」
「ココ、何言ってんだよ」
ああ、もういいよ。さ、行こうぜ。ばーちゃんが待ってるぜ。
「はいぃ」
部屋を出て、下に降りていくと着飾ったばーちゃんとロディ兄がいた。
ロディ兄がそんな恰好をしているのを初めて見たよ。
例の糸を使って、織った生地で作った濃紺の上着の中に同色のジレを着て、現代でいうネクタイの代わりのクラヴァットをつけている。
上着やジレだけでなく、トラウザーズにまで糸の艶や濃淡で華やかな模様を織り込んだ生地を使っている。
中に着ているドレスシャツは袖がふんわりとしていて前には丁寧に細いタックが付けてある。
これは、ミリーさん達頑張ったな。超力作じゃん。いつの間に作っていたんだ?
俺のドレスは生地を持ち込んで、母がいつもオーダーしている店に作ってもらった。デザインから母が張り切って凝った一品だ。なんでも良いのにさ。
ばーちゃんは、お上品に控えめな淡い色味のドレスだ。
「まあ、ココちゃん。そのドレスの生地ね!?」
「はい、お祖母さま」
「素敵じゃない。とっても綺麗な艶だわ。ロディのはなんて綺麗な模様なのかしら。それは織り込んであるのかしら?」
と、興味津々だ。超至近距離、いや、手に取って見られたよ。
「やはりあれね。ミシンとかいうもので縫製してあるからかしらね」
「お祖母さま、そんなに違いますか?」
「ココちゃん、全然違うわよ。ラインが綺麗だわ。こんなに生地を重ねているのに、もたつきが全くないのね。素晴らしいわ」
そうか? 俺はよく分からん。
「アハハハ、ココのそんなドレス姿なんて初めて見たよ」
「ロディ兄さま、当然です。滅多に着ませんから」
「ココちゃん、それは令嬢としてどうなのかしら?」
あらら、これ以上墓穴を掘るのは止めておこう。
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