175ー王都観光
王都に来たからだろうか。その夜、久しぶりに例の夢を見たんだ。
「この者達は私を庇ってくれたんだッ!」
王子がそう叫んでいる。場面はいつもの処刑場ではなかった。
裁判所の様な印象を受けた。俺達家族は一箇所に集められ兵が見張っている。そして、王子が自分と俺達の潔白を訴えている場面だった。大きな声で必死で訴えている。
今までだと、俺達家族は既に手足を繋がれ処刑場に上がっていた。場面が違っていたんだ。
これは、どういう事なのだろう?
以前、隆が考察していた様に俺達の行動で内容が変わるのだろうか?
今回、襲撃されはしたものの無事に王都へ入る事ができた。それが大きいのだろうか。
考えても分からない。が、気になる。暫く夢を見なかったので忘れていたのに。ここにきてまた見てしまった。
「お嬢さまぁ」
「ん……サキ……おはよう」
「おはようございますぅ。もしかして、夢ですかぁ?」
「そうなんだよ。久しぶりに見た」
俺は、咲に夢の内容を話して聞かせた。いつになく、咲は真剣に聞いている。
「あまり気にしない方が良いですぅ」
「分かってるさ」
「さぁ、朝食です。しっかり食べましょうぅ」
「おう」
朝食を食べた。いつもと変わらない朝食だった。
「とっても美味しいわ。良いわね、いつもこんな美味しいものを食べられるのでしょう?」
おや? そうなのか? いつもと変わらない、ふわっふわのオムレツの上にフレッシュトマトを刻んだソースが掛けてあって、ちょっと厚めでカリッと焼いたベーコン、そこにフレッシュ野菜を添えてある。
そして焼き立てパンに野菜スープだ。オムレツにフォークを入れると中が半熟なのでトロットロだ。今日はとろけるチーズも入っているぞ。うん、いつもと一緒だ。
旅の間はこれをパンに挟んで食べていた。焼き立てパンもなかった。だから、正確には領地にいた時と同じ朝食だ。
「ココ、変な顔をしているよ」
「ロディ兄さま、酷いです」
「ココちゃん、こんな美味しい朝食はこっちでは食べられないのよ。野菜も卵も別物だわ」
「お祖母さま、そうなのですか?」
姉達は今日も学園があるそうだ。それで、昨日のうちに寮へ戻ったらしい。姦しい3人がいないと静かだ。ちゃんと下着と俺達が編んだリボンを持って帰ってもらった。リボンだけでも必ずつけてくれる様に話しておいた。
母方の祖父が、朝食を神妙な顔をして静かに噛みしめるように食べている。そして、温かいコーヒーを一口飲んでしみじみと言った。
「ふぅ……美味いな……」
なんだよ、もっと違う事を言うのかと思った。肩透かしも良いとこだ。
領地の野菜は勿論、ルイソじーさんが改良に改良を重ねて美味しくそして立派になっている事は知っていた。だが、卵もなのか?
「普通の卵じゃないからね」
「ディオシスお祖父さま、そうなのですか?」
「なんだ、ココはそんな事も知らないで食べていたのかい?」
「だって、お祖父さま。これが普通ですから」
「そうだね、領地だと普通だ。だけどそれは特別な事なんだよ」
そうか。全然知らなかった。て、何の卵なんだ?
「ココ、邸の裏で飼っているだろう?」
「コッコちゃんですか?」
「ココはコッコちゃんと呼んでいるが、あれは魔物だからね」
お、おう。大きいから魔物だろうなとは思っていたが、やはり魔物だったか。
羽色は濃い赤褐色で、尾羽や頸羽に黒が混ざっている。耳たぶは赤く、とさかはバラ冠形状で、俺の記憶にある前世のメジャーな鶏の5倍程の大きさはあるだろうか。確かにデカイ鶏だなぁとは思っていたけど、本当に魔物を飼っていたんだ。
「今日は王都を案内してあげましょうね」
「お祖母さま、本当ですか? 嬉しいです」
「ココちゃんは初めてですものね」
「はいッ」
やった、王都観光だぜ。朝食の後、俺は祖母とディオシスじーちゃんと一緒に街へ出掛けた。もちろん、咲と隆も一緒だ。
王都に来るまでの間、幾つかの街を通ったが通っただけだ。ゆっくり観光なんてできなかった。だから、ちょっと俺は浮かれていたんだ。
「ココ、離れたら駄目だよ」
「はい、お祖父さま」
馬車に乗って商業区へと向かう。楽しみだなぁ~。何があるのかなぁ~。なんて思っていたんだよ。
馬車の中から街並みを見る。都会だよ。領地にはない高さの建物があったり、大きなガラスを使ったショーウインドウの様なものまである。前世と比べたら駄目だ。発展度合が違いすぎる。
それでも、領地に比べたら十分に都会だった。道は石畳で整備されていた。そこを馬車が行きかっている。
領地の道は石畳じゃないんだよ。もっと白っぽい石灰岩の様なものを全体に敷き詰めてあるんだ。
多分だけど、何種類かの鉱石を砕いて混ぜてあるのだと思う。石畳よりガタガタしないし水捌けも良いんだ。
細い裏道の様なものもあまりない。区画整備されているんだ。
だが、王都は城を中心に道ができているが、曲がりくねっていたり細い脇道が多かったり。
その脇道には小汚い恰好の路上生活者の様な人達がしゃがみ込んでいたりする。そこが大きく違った。どの街でもそれはあった。
先ず、うちの領地では曲がりくねった細い道がない。区画整理されているからだ。たしか何十年か前に、大きな津波の被害にあってから街全体を底上げして作り直したと聞いている。
だから、道幅はそう変わらず直線的な道で碁盤の目の様に整備されている。そして、路上生活者と呼ぶような人達はいなかったんだ。
それが、代々の辺境伯の尽力だと今は知っている。だが、それまではそんな事考えたこともなかったんだ。だってそれが当たり前の日常だったから。
俺の父達が今まで何年も何十年も、もしかしたら何百年も努力してきたことなのだろう。頭が下がるよ。
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