173ー母の実家
王都は頑丈な高い防御壁に囲まれている大きな街だ。
外側から順に、王都民の中でも農業を生業としている家や畑、それから小さな店や庶民の家がある。
そして、公の施設や教育施設があったり少し大店の店があったり。
その内側に貴族の大きな邸が建ち並ぶ貴族街だ。街の中心に城がある。
そこに王がいる筈だ。もちろん、王妃や兄王子達もだ。
貴族街に入るまで、街の中を見ていても活気があるし道行く人達は忙しそうだ。
いいじゃん、と思っていたんだけどな。
ふと街中の細い路地を見ると、小汚い恰好をした人達が恨めしそうな眼で街行く人達を見ている。
ああ、格差があるんだ。これだけ大きな街なのだから仕方ないのだろうか。
それにしても空気が違う。辺境の地は、海が近くて田舎だからもちろん空気は違うだろう。
だが、この纏わりつく様な嫌な感じは何だ? 首の後ろがゾワッとしそうな嫌な感じ。
ここは、魔物の脅威はない。洪水の心配もない。見る限りは平和な街だ。
なのに俺は嫌な感じが付き纏い不安が過ったんだ。
中央の方を見ると街を見下ろすかのように建っている城が見える。頑丈な城壁に囲まれた大きな城だ。
まるで、暗い雲を纏っているかの様に俺には見えた。
「皆良く来た。無事で良かったよ」
母の父だ。俺は初めて会う。
「まあ、ココちゃんなの? その恰好はどうしたの?」
「お祖父さま、お祖母さま、はじめまして。ココです。変装してます」
「そうか、覚えていないだろうな。まだココは赤子だった」
「本当に。よく笑う可愛い赤ちゃんだったわ。こんなに大きくなって」
俺が赤ちゃんの時に1度領地まで来てくれたらしい。母の両親だ。子供が産まれた時位にしか領地には来られない。遠いからな。
それでも、何日もかけて来てくれる優しい祖父母だ。
母方の祖父、母の父親がグスタフ・セーデルマン。侯爵様だ。
今は現役を引退して、王都近くにある領地の経営にのみ携わっているが、以前は宰相を務めた事もあったらしい。
糸の様なストレートのブロンドの髪を後ろで1つにまとめていて、優しそうなブラウンの瞳の見るからに温厚そうなじーちゃんだ。うちとは正反対といってもいい。
そして、母方の祖母。母の母親がエリフェミア・セーデルマン。
俺の母と同じ様に少し癖のあるブルーブロンドのウエーブヘアにガーネット色の瞳が印象的な侯爵夫人。
瞳も母と同じパイロープガーネット(深紅)だ。俺の母はまんまこの侯爵夫人の色を継いでいるらしい。
この人達が王都在住の貴族を、人脈と頭脳で仕切っている裏ボスだ。
「文をもらった時はどうなる事かと思ったよ」
と、話しているのは母の兄だ。イーヴェル・セーデルマン。
祖父と同じブロンドの髪に、少し切れ長でブラウンの瞳の優しそうな伯父さんだ。事務方のトップと言っても良い事務次官を務めているそうだ。
そして、王子と対面する。祖父は片方の手を胸にやり頭を下げ、祖母は綺麗なカーテシーをし丁寧に挨拶をした。
「殿下、よくぞご無事で。まだ殿下が幼い頃にお目通りした事がございます。グスタフ・セーデルマンと申します。此度はよくお越しくださいました」
「ようこそお越し下さいました。ご無事で何よりですわ。妻のエリフェミアと申します」
「お初にお目に掛かります。事務次官を務めておりますイーヴェルと申します。お見知りおき下さい」
「世話になるよ。色々力になってもらったと聞いている。ありがとう」
「何を仰います。当然の事にございます」
祖父達が王子に挨拶をしている。うちに来た時とは全く違う王子がそこにいた。
王族らしい威厳の様なものさえ伺える。長旅をしてきたと言うのに疲れを微塵も感じさせない。
父に連れられて初めてうちの領地に来た時には顔色も悪く、足もとだってふらついていたのに。同一人物とは思えない。こんなに変わるんだ。
体力がついた事もあるが、それだけ精神干渉は王子の性格に影響を与えていたのだろう。
「伯父さま、伯母さま。バルト様は到着されましたか?」
そう言いながら賑やかに登場したのがバルト兄の婚約者だ。母の父の妹の娘だ。バルト兄が王都の学園に通っていた頃にこの家で出逢い、婚約した。バルト兄の方が3歳年上だ。婚約者はまだ17歳で学園に通っている。卒業を待って婚姻になるだろう。
その婚約者、キャリーナ・フーシェ。金糸の様なサラサラなブロンドの髪にロイヤルブルーの瞳の美人さん。俺は会うのが初めてだ。
「これ、リーナ。騒がしいぞ」
「あなたはいくつになっても落ち着かないわね。ご挨拶なさい」
「ごめんなさい。え……っと」
「リーナ、第3王子殿下だ」
「え? えぇ!? バルト様!」
「リーナ、内密にね」
「そ、そうなのですか? あ、失礼致しました。えっとお初にお目に掛かります。キャリーナ・フーシェと申します」
まさか王子がいるとは思わなかったのだろう。ぎこちなくカーテシーをしている。
「そう畏まらなくていい。私は世話になる方なのだから」
「殿下、お茶をお入れしましょう。どうぞこちらへ。アレクシス達も来なさい」
「ありがとう」
「はい、父上」
王子と護衛のアルベルトとソフィ、そして父とじーちゃん達が母の父に案内され部屋へと入っていった。
「ふぅ……驚きました」
「リーナ、だから内密にだ。ココは初対面だったね」
「はい、バルト兄さま」
「まあ、ココちゃんですの?」
「はい、はじめまして。ココです」
「あら? ココちゃんはたしか女の子じゃなかったかしら?」
「変装しているんだよ」
「まあ! 素敵! だから、バルト様達もそんな恰好をしているのですね?」
素敵だと言われちゃったよ。俺の男装、評判いいな。
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