172ー王都
翌朝、昨夜の出来事が嘘の様にいつも通り朝食を食べていた。昨夜駆けつけてくれた姉達も一緒だ。
「ココちゃんね」
「エリア、ココちゃんしかいないわね」
なんだよ、2人して。俺は何もしてねーぞ。と、気付かない振りをして黙々と朝食を食べる。もちろん、姉達も食べているんだけど、何か気になるようだ。
「ココちゃん、ズルいわ」
「え、姉さま。何ですか?」
「どうしてみんなマジックバッグを持っているの? 全員じゃない。しかも何? 剣帯に着けられるの? あたしも欲しいわ」
「わたしもです」
ああ、それかよ。そんなのいつでも作るぜ。なんだったら予備のがあるぜ。
「姉さま、アンジェさま。そんなのいつでも作ります」
「クリスティー先生ね」
「なんですか?」
「クリスティー先生に教わったんでしょう?」
そりゃそうだ。うちの領地で魔法といえばクリスティー先生だ。代々クリスティー先生に教わっているらしいし。
「学園に入る前にあたしも教えてほしいと言ったのよ。行き来する度に大荷物だと大変だから。でも、クリスティー先生が、『エリア様はまだ無理でっす』て、言って教えてくれなかったの」
ブハハ、似てるぜ。姉がクリスティー先生を真似ている。クリスティー先生が見たら怒るかもな。いや、爆笑か?
「だってココちゃんは亜空間も持っていたでしょう?」
「はい、持ってますよ」
「じゃあマジックバッグはいらないじゃない」
「使い分けをしているんです。食べ物やポーション、薬草類はマジックバッグに。倒した魔物とか大きいのは亜空間にです」
「なんて贅沢なんでしょう」
そんな事を言われてもだ。なんか気持ち的にさ、倒した魔物と口に入れるものを同じ空間に入れる事に抵抗があったんだよ。言っておくけど、俺は潔癖症じゃないぜ。
呑気な事を言いながらゆっくりと朝食をとり俺達はまた出発した。姉達も一緒だ。いいなぁ、馬に乗れるって。女なのに颯爽と馬に乗るってカッコよくないか?
今日こそ王都だ。半日も掛からないうちに到着できるだろう。
それから襲撃される事もなく、無事に王都に到着した。
だが、入門が問題だ。目の前にある頑丈そうで大きな王都の防御壁。その入門の列に俺達は並んでいる。
これ、俺達は無事に入れるのか? 変な集団だよ? なんせメイドさん達は旅芸人の恰好をしているし、冒険者か? みたいなガタイの良いのがいるし。隆はまた何故か吟遊詩人の恰好をしているし。
何故それだ? もしかしてお気に入りなのか?
「若、そんな訳ないっス」
「じゃあ、昨日までのでいいじゃん?」
「いや、姉貴がこれにしろと言うんッス」
そう言われて、咲を見る。咲もまたスッケスケの踊り子の様な恰好をしている。これは確実にお気に入りだ。
「また、何かするつもりなのか?」
「さあ? メイドさん達次第っス」
「ああ、なぁ~る」
「ッス」
本当に、意味が分からない。昨夜狙われたんだぞ。覚えているよな? メイドさん達も張り切って応戦していたよな。
なのに、この呑気さは一体何なんだ?
前を行くメイドさん達が乗っている馬車から歌声が聞こえてきた。
これはまたやる気じゃないのか? 絶対にそうだろう? と、俺が考えていると入門で止められた。ほらみろ、やっぱ怪しい集団に見えるんだよ。
「キャハハ、ありがとう~」
ん? メイドさん達が皆笑顔じゃん。どうした? 手を振っていたりする。
「あれッスね。門番に笑顔を振りまいてるッスね」
「なんだよそれ」
「いいじゃないですかぁ」
無事に入門をした馬車は、俺が心配した通り貴族街へと向かわず……庶民の街の中央にある広場へとまっしぐらだ。ああ、本当にやる気だよ。昨夜の襲撃で疲れとかないのかね。ちょっと俺は呆れていた。
そんな中、咲と隆の歌が始まった。はいはい、お上手~。
そして、メイドさん達が出てきて場は盛り上がりも最高潮だ。手拍子が始まり、見ている人達も一緒になって歌っている。メイドさん達に混じって踊り出す人までいる。
そして、またメイドさん達はみんな大きなリボンを付けたお揃いの帽子を持って、見ている人達の前を踊りながらゆっくりと歩いて行く。すると、次から次へとコインが帽子へ入れられていく。
こうして見ていると平和なんだけどなぁ。
「ふふふ。みんな楽しんでいるね」
「殿下、もう意味不明ですよね」
「アハハハ、意味不明か」
本当、まさか王都まで来てやるとは思わなかったよ。好きだね~。
「ココ嬢も一緒に出てくればよかったのに」
「えぇ~、絶対に嫌です」
「アハハハ」
まあ、王子が笑っているから良いか。
昨夜、襲撃してきた奴等は兵達が既に連行していった。あとは俺達が母方の家に行くだけだ。もう直ぐそこなんだよ。なのに、盛り上がっているから仕方ない。
ディオシスじーちゃんやロディ兄が苦笑いをしている。こんなに目立って良いのか? 良くないよなぁ?
「ココ、あれは止められないだろう」
「お祖父さま、そうですか?」
「そうだね」
「また稼いじゃってますよ」
「アハハハ」
とうとうディオシスじーちゃんまで笑い出したよ。まいったね。
「ココ、今のうちにあちらの邸に行こう」
「兄さま」
「サキとリュウはメイド達と一緒に来るだろう」
「そうですね」
そうして俺達はシレッと馬車を出発させ、王都の中心にある貴族街へと向かった。
幌馬車の中から見た王都は平和そのものだった。
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