169ー前夜
「とにかく食事にしましょうか」
おう、ロディ兄は冷静だ。そうだ、食べようぜ。腹が減ってはなんとかっていうじゃんね。
「なんとかって何スか」
いちいち突っ込まなくていいんだよ、隆。
「ッスか」
また『ス』だよ。こっちがツッコミたくなるぜ。
皆そろって1階の食堂で食事をとり、その後だ。父の部屋でじーちゃん達や兄、王子と作戦会議だ。
「このまま王都に入る事は難しいとみる方が良いでしょうね」
「ロディの言う通りだな」
「どんなに急いでも追いつかれるでしょう」
「どこで追いつかれるかだ」
「そうですね」
なんだなんだ? とうとうカチコミか?
「若……」
はいよ、ごめんね。
「多分ですが、最後の丘を越えた辺りでしょう」
「ロディ、平原で迎え撃つか?」
「お祖父様も、その方が動きやすいでしょう」
「それは相手もだ」
ディオシスじーちゃんとロディ兄だけの会話になっているが良いのか? 父とユリシスじーちゃんは良いのか? 大人しいじゃん。
「どこで何をしてこようと負けんッ!」
「当然だッ!」
ああ、忘れていた。この2人は筋金入りの脳筋だった。
「あちらにも早馬を出します」
「そうだな」
「でだ、ココ、サキ、リュウ。お前達は敵が見えたら先ずアースウォールだ」
「はい」
「了ッス」
「はいですぅ」
「指揮はロディ」
「いえ、ディオシスお祖父様の方が……」
「いや、私は兄上と一緒に出る」
「分かりました」
「ロディッ、任せたぞぉッ!」
「うむッ。ロディなら大丈夫だッ!」
この2人は本当に声が大きい。そして、大した事を言わない。だが……
「忘れるでないぞ。我々は殿下を無事に王都へお連れする事が1番の目的だ。そして、すべての問題を解決するッ! その為に王都へ向かっているんだ。国の為、延いては民の為だ! 訳の分からん策略に乗ってたまるかッ! 先ずは自分の命だ。絶対に皆揃って王都へ入るッ! 忘れるでないぞッ!」
父のこの言葉で実感した。そうだ、命を狙われているんだ。今まで呑気に歌を歌ったりしていたから分かっているつもりでも覚悟ができていなかった。
俺達だけじゃない。王子の命を狙っているんだ。
簡単にやられる訳にはいかない。簡単にやるつもりもない。
俺達はここまでだったけど、ディオシスじーちゃんとロディ兄はまだ相談していた。もうすぐそこまで敵は来ている。
翌朝早くに俺達は出発した。今までの様に飽きたからと言って馬に乗せてもらう様な雰囲気ではないし、進み方でもない。
馬車を引いている馬が疲れない程度の速さで王都へと向かう。
昨日までとは空気が違う。メイドさん達も相変わらず呑気にしている様で、服の中に皆武器を忍ばせている。
俺も今朝、咲に手渡された。俺の短剣だ。
「まだ必要ないと思いますけどぉ、念のためですぅ」
と言って渡してきた。咲もしっかり武器を仕込んでいる。
隆は今迄の吟遊詩人から、冒険者の様な恰好に変わっている。最初からそれでよくないか? 剣帯をつけ剣を挿している。
王子の護衛のアルベルトが1番緊張していた。頬が引きつっている。
「アルベルトさん、大丈夫ですよ。今からそんなに緊張しているともちませんよ」
「ココ様、申し訳ありません」
いやいや、謝らなくてもいいんだけどさ。肝心の王子はというと……
「大丈夫だ。辺境伯を、皆を信じているからね」
と、言ってニッコリと笑った。度胸があるぜ。
もし、俺なら内心ビクビクしているよ。王子もそうかも知れないけど、顔には出さない。それだけでも大したものだ。
馬車は何事もなく進んでいた。あと半日もあれば王都に入れるだろうという夜だった。
「敵襲! 敵襲ッ!!」
見張りにたっていた兵が知らせて回る。とうとう追いつかれたんだ。
ロディ兄が予想していた場所だ。相手にしてみれば俺達が王都に入る最後のチャンスなのだろう。
いつの間に手配していたのか、かなりの人数で襲撃してきたんだ。馬が地面を蹴る蹄の音が近付いてくる。
「殿下、馬車から出ないでください!」
ロディ兄が叫ぶ。いつもはそんな大きな声を出さないロディ兄が大声で叫んでいる。
そして、合図の笛を吹く。
――ピーーー!!
その合図で兵達は配置につく。馬車や馬を守るように半円になって迎え撃つ。臨戦態勢だ。
俺達は剣より魔法で後方支援だ。
相手は急拵えで集めたのだろう。統率なんて全く取れていない。皆バラバラに勢いに任せて突っ込んでくる。
――ピーーピーー!!
「ココ!」
「はい! サキ、リュウ」
「はいッス」
「はいですぅ」
「「「アースウォール!!」」」
俺達はアースウォールで行く手を阻む。魔物を相手にする時は1箇所にまとめる為にアースウォールで土壁を作る。が、今回の場合は違うんだ。
敵と1対1にならない様に、相手が一斉に掛かって来られないように行く手を阻むんだ。
周りに壁を作り、囲むように通り道を狭くする。横一列で一斉に掛かってこれない様にするんだ。
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