168ー協力者
「お力になりましょう!」
あぁ、本当に意気投合しているぜ。伯爵が手を出し、父とガッシリ握手をしている。
「おぉ、本当ですか!?」
「はい、追手がくるのでしょう? その時に足止めしましょう!」
おやおや、やる気だよ。信じられる人っぽくて良かったよ。
「たしか奥方のご実家はセーデルマン侯爵家だと記憶しております。以前、少しお話した事があるのですよ。あのお方も気持ちの良いお方だ」
王都で修繕費の申請の際に母の実家に世話になった事があるそうだ。世の中どこで繋がっているのか分からないもんだね。
その修繕費で街の街道を整備し上下水道を整備したそうだ。
所謂、補助金の申請だ。それを着服している様な領主もいるのに、この伯爵はちゃんと整備していた。それどころか、不足分は自腹を切っている。
「いくら社交シーズンだからと言われても、態々王都まで出向いて何を考えているのか分からない貴族と交流する気にもならんのです。そんな時間があったら領地の仕事をしている方が良い。子供達には申し訳ないのですが」
うちだってそうだ。社交シーズンだ何だと言われても、誰も王都へは行かない。そんな時間があったら1頭でも多く魔物を討伐する。領地の平和を守る。そんな家だ。
こんな伯爵もいるんだな。
そして俺達はその街を出発した。
伯爵夫妻だけでなく、嫡男も見送りに出てきてくれていた。
令嬢は1年も寝込んでいたんだ。まだ体力が戻っていない。でも、もう大丈夫だ。少しずつ元気になるさ。
「若さまぁ、良かったですねぇ」
「な、そうだな」
「ホント思い出して良かったッスよ」
そっちかよ! 令嬢の病が治った事を喜ぼうぜ。
「それはもちろんッス」
隆は飄々としている。前世もこんな感じだったなぁ。なのに酒に溺れて暴力を振るう父親から姉の咲を守っていたんだ。
普段はこんなだが、芯のしっかりした男だと思いたい。
「若、また馬に乗るッスか?」
「おうよ」
「俺も乗りたいッス」
そっか。馬車で来ているから隆の馬がないんだな。
「仕方ないから御者台にいるッス」
意味不明だ。まぁ、幌馬車の中に乗っているよりは前が開けるからマシなのか?
「ッスね」
なんでも『ッス』で済ますんじゃねーぞ。で、俺はやっぱりだ。
「ディオシスお祖父さまぁ! 乗せてくださいぃー!」
「おう! ココ、今日は早いな」
「飽きました!」
「アハハハ!」
まあ、毎回こんな感じだ。俺達は順調に王都へ進んでいた。次が最後の街だという所まで来ていた。
その街の広場で、またメイドさん達と咲や隆が歌を披露して小銭を稼ぎ、いつも通りにちょっと小綺麗な宿に泊まっていた。
父の元に領地から早馬で文が届いた。領地にいるスカイラン領主隊隊長からだ。実はこのスカイラン隊長が父の影武者になっていたんだ。
体形もよく似ているし、声も同じ様に大きい。だから丁度良いだろうと決まった。
そのスカイラン隊長からの文には、一言で言うと……『バレてしまった』とあった。
「まあ、よく頑張ったよ」
「そうだね」
と、ロディ兄とディオシスじーちゃんは冷静だ。
「なんとッ!!」
「あれがバレたかぁッ!」
と、相変わらず声が大きい父とユリシスじーちゃんだ。ずっとバレないとでも思っていたのだろうか?
「あんなに完璧に似ていたのにぃッ!」
「ああ、完璧だったぞッ!」
おう、バレないと思っていたらしいぞ。この2人良いコンビだな。さすが実の親子だ。そっくりじゃん。
一方のディオシスじーちゃんはロディ兄とそっくりだ。こっちも良いコンビだ。
「早馬で今日だから3~4日はかかるんじゃないか?」
「いや、お祖父様。2~3日と考えておく方が良いでしょう」
ロディ兄とディオシスじーちゃんはもう次の事を考えている。まあ、そりゃ追ってくるよな。それをどうするのかだ。まさか、攻撃してきたりするのだろうか? 王子殿下が一緒なのにさ。
「口封じに掛かるだろうね」
「ええ」
口封じ!? 誰のだよ? 俺達か?
「ココ、もちろん全員のだ。殿下も含めてね」
「なんとッ! 非情なッ!」
なんだって!? 王子もかよ。見境なしなのかよ。父はもう煩いよ。
しかし、ロディ兄とディオシスじーちゃんの考えは一緒だった。ここで王子の口も塞いでおけばクーデターの首謀者へと担ぎ上げる事ができる。それを狙っているんだ。
そして、それに加担した貴族達を一網打尽にする。それが、一番手っ取り早い方法だろうと。
「先日のイェブレン伯爵にもこの事を連絡しておきましょう」
「そうだな、それがいい」
そうして、前の街に向かって早馬が出された。足止めしてくれるのは良いんだけど、危険な事をしないでほしい。
俺達は毎日鍛練をしているから多少の事は何とかなる。だけど、平和に領地を治めている伯爵だ。体形を見てもまさか腕っぷしが強いとは思えない。無茶はしないでほしい。それも、しっかりと文に書かれた。
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