166ーあぁ、緊張した
「ココ、薬湯かい?」
「はい。兄さま、オオトカゲの角を持って来ていましたか?」
「角かい? 肉は置いてきたけど角ならランスが持っているだろう」
丁度、ロディ兄に付いてランスも来ていた筈だ。
「従者の方なら部屋の外におられますよ」
「兄さま、その角とあの薬草です」
「なんてラッキーなんだ!?」
「はい」
「ココ、作れるのか?」
「はい、お祖父さま」
「よし。イェブレン伯爵、これからお嬢様の薬湯をお作りします。どこかお部屋をお借りできますか?」
「なんとッ! それで治るのですか!?」
「はい。特殊な病ですが、偶々この街へ来る前に薬湯の材料を手に入れていたのです」
「ああ、こんな偶然があるのかしら……!」
そう言って夫人が膝から崩れ落ちた。
「これ、しっかりしなさい。まだ治った訳ではない」
「はい……はい、あなた」
気丈にも夫人が伯爵の手を借りて立ち上がった。
俺は令嬢の手をしっかりと握った。
「大丈夫です。治りますよ」
「ほ、本当ですか……?」
直ぐに信じる事はできないだろう。だが、令嬢は微笑んだ。
「ええ、安心してください」
「ああ……ありがとう」
「すぐ隣りのお部屋をお使いください」
夫人がメイドに目くばせをする。俺達は隣りの部屋へと移動した。
「ココ、お手柄だ」
「いえ、兄さま。教えてくれたキリシマのお陰です。それに、偶々オオトカゲの角を持っていて良かったです」
「ロディ様」
「ああ、ランス。オオトカゲの角を出してくれ」
「はい。何をされるのですか?」
「これから薬湯を作る」
「はい、承知しました」
隣の部屋で俺はあの時採取した薬草をマジックバッグから出す。それと……
「サキ、薬草セットを」
「はいですぅ」
必要な薬草はオオトカゲの角と、採取した薬草だけではない。他にも解毒薬を作る際に使う薬草が必要だ。だが、それは咲が持っている。
今回は王都までの旅だ。その上、狙われている。だから、念には念を入れて色々持って来ていたんだ。
特に解毒関係の薬草は充分にある。領地でも執拗に毒を仕掛けてきたらな。解毒関係は念には念を入れて持って来ている。
薬草セットを咲に並べてもらい、俺は薬湯作りに入る。
「ココ、落ち着くんだよ」
「そうだ、いつも通りにな」
「はい。兄さま、お祖父さま」
魔力を流す。薬草にもオオトカゲの角にも。こんなオオトカゲの角なんて、滅多に手に入るものじゃない。だって、普通のオオトカゲは角がないんだから。
咲が薬草を擦り潰す、俺はオオトカゲの角に魔力を込めながら擦り潰していく。
すべてを擦り潰し、魔力を込めながら魔法で出した水と混ぜていく。
ここで急いだら駄目なんだ。ゆっくりと、少しずつ魔力を込めながら丁寧に十分に混ぜていく。焦らずゆっくりとだ。すると、液体の色が変わった。
薬草の深いグリーンだった液体が、エメラルドグリーンへと変化したんだ。よしッ!
「兄さま、できましたッ!」
「よくやった」
「ココ、偉いぞ」
気が付けば、もうすっかり日が暮れていた。何時間経ったのだろう?
「直ぐに飲んでもらおう」
「はい」
部屋を出るとなんと伯爵夫妻が待っていた。廊下に椅子を並べてずっとそこで待っていたんだ。親心だな。
「父上、母上! 聞きました!」
階下から男性の声がする。
「嫡男です。戻ってきたのでしょう」
彼女の兄か。心配だったのだろう。大きな声で叫んでいる。
「本当に治るのですかッ!?」
「これ、はしたない。ご挨拶をなさい」
夫人に窘められている。が、そんな事構わないさ。心配なんだろう。よく分かる。
「あ、失礼致しました。嫡男のレオナルドです。此度は感謝致します」
「いえ、まだこれからです」
ディオシスじーちゃんが、そう言いながら隣の部屋で寝ている少女の元へと向かう。
「ココ」
「はい。これを飲ませて差し上げてください」
俺は手に持っていた出来立ての薬湯をメイドさんに渡す。
メイドさんがゆっくりと少女の口元へと持っていき、確実に少女は飲み干した。
この病はこれでお終いじゃない。この後に回復魔法が必要なんだ。だからどんな薬師でも治せなかったんだ。
「ココ、いつも通りにだよ。クリスティー先生を思い出すんだ。とにかくキュア、そしてピリフィケーションだ」
「はい、兄さま」
俺は、ふぅ~ッと1つ深呼吸した。そして令嬢に手を翳し、静かに詠唱したんだ。
「キュア……」
少女の身体を真っ白な光が包み込む。そして、続けて……
「ピリフィケーション……」
光がより一層強くなり、少しずつ小さくなっていく。すると少女の身体や顔にできていた水ぶくれが嘘のように消えて無くなっていた。成功か?
「ふぅ……」
「ココ、確認してみなさい」
「はい、お祖父さま……鑑定……」
ああ……本当に手に汗握る位緊張した。そして、鑑定眼で確認する。よし、病は消えている。あとは体力だ。
「ヒール……もう大丈夫です。もう病の元はなくなりました。後は栄養のあるものを食べてよく養生して体力をつけてください」
「おお……なんと礼を言えば良いのか!」
「ココアリア様、感謝いたしますわ!」
ああ、本当に魔法ってなんてファンタジーなんだ。
「お嬢さまぁ、お疲れ様ですぅ」
「ッス」
「フフフ、ありがとう」
隆、一言くらい何か言おうぜ。
でも本当に良かった。跡も残っていない。女の子だからな、あんな水泡の跡が残ったら可哀そうだ。
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