165ーどうすれば?
結局、ロディ兄とディオシスじーちゃんと一緒に領主の邸へ見舞いに行く事になった。
それにしても、どの薬師にも分からないってどんな病なんだろう。しかももう1年なんだろう。
「ココ、取り敢えずこっそりと見るんだよ。それからの事は見てから考えよう」
「はい、ロディ兄さま」
病名が分かるだけでも、何も分からないよりはマシか。
と、俺はちょっと考えながら2人の後を付いていった。あ、そうそう。辺境伯令嬢としてだよ。男児の変装はやめて、ちゃんと令嬢の恰好をして行った。もちろん、じーちゃん達もだ。
そして、突然訪問したにも関わらずすんなりと入れてもらえた。それどころか、この街の領主が出迎えてくれた。
「よく、来てくださった。あの御高名な辺境伯ご次男だと」
「はい、次男のロディシス・インペラートと申します。此度は突然お邪魔致しまして申し訳ありません。祖父のディオシス・インペラートと次女のココアリア・インペラートです」
「街でお噂を聞きまして、放ってはおけずお見舞いだけでもと参りました」
「お初にお目にかかります、ココアリアです」
「態々お越し下さり有難う。私はこの領地を治めておりますヨハンネス・イェブレンです。これは妻のセシーリアです」
と、紹介され夫人が綺麗なカーテシーをしてくれる。
なんと、びっくりした。この街の領主は腰の低い伯爵だった。父が来ている訳じゃない。なのに本当に腰が低いんだ。貴族にもこんな人がいるんだと俺は驚いた位だ。領民と一緒になって収穫をしたり祭の準備をしたりするという噂もきっと本当なのだろう。
「お見舞いさせて頂いても宜しいでしょうか? お加減は如何なのでしょう?」
「有難うございます。今日はまだ気分が良いようで。ココアリア嬢と歳も近いのです。是非見舞ってやってください」
と、病室に通されて俺は驚いた。
マジか……と、思った。鑑定眼で見るよりも先に少女の身体にできた灰色と茶色を混ぜた様な色をした水泡に驚いたんだ。
身体の至る所に、その大きな水ぶくれができている。もちろん、顔にもだ。これは女の子なのに可哀そうだ。それに苦しそうだ。
これ、俺は治せるのか? 回復魔法で何とかなるのだろうか?
「態々お越しくださり……有難うございます……この様な恰好で失礼しますわ」
と、ベッドの中から俺と歳がそう違わない少女が力なく微笑んだ。何てことだ。治してやりたい。どうすれば良いんだろう。俺には知識がなさすぎる。母ならどうするだろう? クリスティー先生なら……と俺は考えながら鑑定眼で見ていた。
「どうか無理をなさらないで、そのままで。突然お邪魔して申し訳ないですな」
「ココアリアと申します。お辛いでしょうに押し掛けて申し訳ありません」
俺は思わずベッドから健気に微笑む令嬢の手を取っていた。
「ココ……」
ロディ兄が小さな声で話しかけてきた。
「兄さま、原因は分かります。でも、回復魔法で治せるのかどうか……」
「ココ、もう1度落ち着いて見てごらん」
「はい、兄さま」
ああ、本当にどうしよう……と、心の中で思いながら俺は大きく深呼吸してもう1度鑑定眼で見る。
「で、なんの病なんだい?」
「兄さま、血液が毒素や余分な魔素を身体中に運んでしまって水ぶくれができるのです」
「血液が? 本当なのかい?」
「はい、間違いありません。水ぶくれで体中痒いでしょう。でも掻いて水ぶくれが壊れるとその液体でまた水ぶくれができます」
「ココには治療方法は分かるのかい?」
「えっと……」
ああ、悔しいなぁ。思い出せ。クリスティー先生に教わった気がするぞ。俺はジッと目をとじて考える。
「ロディシス殿、どうされた?」
「いえ……」
ロディ兄も迷っている。此処で明かしても治療方法が分からない。
「ココ、それは治るのか?」
「はい、治らない病ではありません。確か……珍しい材料だった……」
『ココ、落ち着けよ』
『え? キリシマ?』
『おうよ、話は分かっているぜ。思い出せ。クリスティー先生に教わっただろうよ』
『それが思い出せないのよ。色々教わった中の1つなんだけど』
『ココ、角有りだ』
「そうだッ」
「ココ?」
『キリシマ、ありがとう!』
『いいってことよ!』
そうだ、思い出したぞ! 助けられるかも知れない! まだ持っているか? それとも置いてきたのか?
「ココ?」
「兄さま、キュアとピリフィケーション。その前に薬湯です」
前世にもよく似た症状の病気はあったがこれほど酷い水疱はできない。だがこれは、この世界特有の病気だ。魔素と毒素が浄化できないで、血液と一緒に体中に運んでしまっているんだ。
この世界には空気中に魔素という成分が含まれる。魔素は魔法を発動する時に必要なものだ。空気中に含まれるのだから、当然呼吸をする度に自然と身体に取り込まれる。普通はそれを浄化しているんだ。だかこの少女は、今それができないでいる。その上、微量な毒素にまで反応してしまっている。
これは、鑑定眼をもつ者が診ないと分からないだろう。なのに、鑑定眼を持つ者は少ない。俺が偶々通りかかって良かった。
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