164ー領主の一人娘
「ココ、乗せてあげよう」
「お祖父さま、いいですか?」
「ああ、いいよ。そろそろ飽きているだろう?」
「はい、飽きました」
で、早速俺はディオシスじーちゃんの馬に乗せてもらっている。まあ、馬に乗ろうが景色が変わる訳じゃないんだけどさ。気持ちの問題だ。
馬車と違って、視界が開けるし目線が高いんだ。最初はちょっと怖かった位だ。
「ココも馬に1人で乗れるようにならないとね」
「お祖父さま、まだ足が届きません」
「そうだね、まだまだだ。慌てて大きくなる事はない」
「お祖父さま?」
「クリスティー先生にも言われなかったかい?」
「何てですか?」
「今の時を足掻き楽しみなさいと」
「言われました」
「私も言われたよ」
ディオシスじーちゃんが思い出話をしてくれた。
じーちゃんがまだ俺位の歳の頃だ。ユリシスじーちゃんとは違ってなかなか剣が上達しなかったらしい。そうは見えないんだけどさ。ユリシスじーちゃんとディオシスじーちゃんとは3歳違うんだ。俺の頃の3歳は大きい。ディオシスじーちゃんが8歳だとしたら、ユリシスじーちゃんは11歳だから体形も違ってくるだろう。
それで、追いつこうと毎日オーバーワーク気味に鍛練をしていた時期があったそうだ。そんな時にクリスティー先生に言われたそうだ。
其々のペースがある。その歳でも違ってくる。『今の歳を目一杯足掻いて楽しみなさい。無茶をする事は違いますよ』と、言われたそうだ。
「クリスティー先生、本当何歳なんでしょう?」
「ハハハ、クリスティー先生の歳を詮索してはいけないな。恐ろしい事になるからね」
「えぇ~、怖いです」
「だろう? だから止めておきなさい」
俺も、今の歳を楽しめって事なんだろう。今の俺に出来る事を精一杯しろと。
俺の場合、性別もだからなぁ。それも、受け入れて楽しめって事なんだろうな。女児の俺に出来る事……まだ1人で馬にさえ乗れないのにそんな事あんのか?
なんて、少し考えていた。
この旅の目標は、王子の問題をクリアにする事だ。だけど、俺にとっても大事な旅になりそうだ。
旅は順調に進み、幾つかの街を超えあと少しで王都だってところまで来た。
今日は、街に宿泊するらしい。その街に到着して入門したところなのだが、なにやら街の様子がおかしい。
「何だろう?」
「若さまぁ、出ないでくださいよぅ」
「出ねーよ」
闇雲に出ても仕方ないじゃん。それくらい俺だって分かっているさ。
「あ、止まりますねぇ」
「宿屋かな?」
「はいぃ。この雰囲気だと歌ったりできないでしょうしぃ」
「だよなぁ」
そうなんだよ。街の雰囲気が暗いんだ。何か不幸があったのか? て、感じなんだよ。
多分、もう少し待っていればロディ兄が情報を掴んでくるさ。それまで、大人しくしておこう。
思っていた通り、直ぐにロディ兄が情報を持ってきた。
「領主の一人娘が病らしいですよ」
「ほう、それにしてもその事を領民が心配しているのか?」
「みたいです。ここの領主はとても領民に好かれていますから。その中でも一人娘は小さな頃から民と分け隔てなく育てられたそうですよ」
「ほう、なかなかそうはいかんな」
話によると、良い領主みたいだ。街の祭等も率先して民の中に入って交流を持つ人らしい。今、病らしい娘の上に兄がいるそうだが、その兄も父と同じように領民と一緒になって収穫を手伝ったりしているらしい。領主の奥方も教会や孤児院に出入りしていて、男手では気が付かないような事を中心に働いているらしい。良い領主じゃん。だから、街の人達も心配するんだろうな。
だが、病ってだけでこんなに暗くなるのか?
「それが、どの薬師に見せても駄目なんだそうです」
「なんだと?」
「もう1年は寝込んでいるそうで」
「1年だとッ! それは長いッ!」
「はい、だからもう駄目なんじゃないかと言われているそうです」
「治せないのか? 何の病なのだ?」
「それも分からないそうです」
「そうなのかッ! それは心配だ」
俺、見ようか? いやいや、見ても治せるかどうか分かんねーしな。
「ココォッ!」
あ、父に呼ばれちゃったぞ。嫌な予感がするぞ。
「はい、父さま」
「ココ、見て差し上げないか?」
「父さま、それは構わないのですが……」
「なんだ?」
「父上、出しゃばっても治せるかどうか分かりませんから」
「しかし、何の病か位は分かるだろう?」
「はい、多分ですが」
「取り敢えず、父上、ココ。お見舞いにしましょうか」
「見舞いか?」
「はい、父上。それでココにこっそり見てもらいましょう」
「ふむ……そうか? しかし、命が掛かっているのだぞ」
「父上はここの領主様と交流は?」
「ないなッ!」
「なら、やはり通りすがりで噂を聞いてお見舞いに、と言う事にしましょう」
「そうか、ロディに任せたぞ」
「じゃあ、私が付いて行こう」
「ディオシスお祖父さま」
「アレクシスが顔を出さない方が良いかも知れん。様子をみようか」
「はい、お祖父様」
その方が良い。どの薬師にも病名さえ分からないというのが引っ掛かる。
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