161ー熊
「よしッ! やるぞ」
「了ッス」
「はいぃ」
この世界では、どこにでも出没する角兎。前世の標準的な兎よりは一回りも二回りも大きい。そして、名前の如く頭に角がある。1本あるものから3本あるものまで発見されている。
角の数が多いほど、狂暴らしい。3本の角を持つ兎は滅多にいない。
1本の角くらいなら、冒険者になりたての者でも討伐できる。だから、一般人でも大人なら討伐できる程度の魔物だ。角があるものは一応魔物になるらしい。
そして、庶民の大事なたんぱく源だ。鶏肉の胸肉のようにあっさりとしていてジューシーで美味しい。
だから、見かけたら、取り敢えず狩る。この村でも良い食料になっていたのだろう。そんな位置にいる角兎だ。
だが、今回は数が尋常ではないらしい。畑を荒らされるわ、群れで襲ってくるわで手を焼いていたそうだ。
そこにイノシシまで出始めた。イノシシは兎とは違って柵を壊す。そして突進してくる。兎よりも力が強い。
村人にとっては脅威になるのだろう。
「若ッ、イノシシもッス!」
「分かってる!」
兎を仕留めながら俺は返事をする。そして、兎さんは即マジックバッグへ。食料になるんだ。
林に入って直ぐに角兎が出てきた。角が1本のものばかりだ。その角兎を狙っているのか、イノシシも突進してくる。
確かにこの数だとたんぱく源などとは言っていられないだろう。
本当に数が多い。群れで出てくる。
「ちょろちょろと鬱陶しいぞッ!」
ユリシスじーちゃんがどこかで叫んでいる。確かに鬱陶しい。
兎の後を追いかけてイノシシがセットで出てくる。そして、林の奥へ入ると角が増えてきた。
「2本角がいるぞ」
「若、そっち行ったッス」
「おうッ」
3人で連携しながら倒していく。と、おや?
「リュウ、イノシシにも角があるぞ」
「そうッスね」
そう答えながらその角有りイノシシを1斬りで倒す。
まあ、領地ではもっと大きな魔物を相手にしているんだ。いくら角があってもイノシシくらいなら楽勝だよな。手応えがなさすぎるぜ。
「領主隊ッ!!」
おや、じーちゃんが叫んでいるぞ。どうした?
――ピーーー!!
え? 戦闘開始の笛の合図だ。どうした?
「ココ!」
「ディオシスお祖父さま、どうしたのですか?」
「熊が出た。しかも番だ」
「だから、角兎やイノシシが逃げて出て来ていたのですね?」
「そうらしい。林の奥で領主隊と兄上が討伐している。これ以上奥には行かないように!」
「えぇ~」
「ココ……」
「はい、お祖父さま」
「良い子だ」
そう言ってディオシスじーちゃんは奥へと戻って行った。父はどこにいるんだ?
「旦那様は参加していませんよぅ」
「そうなの?」
「はいぃ」
「そんな必要もないっス」
「確かに」
俺達は角兎とイノシシ担当だ。そのうちまた奥から笛の合図が聞こえてきた。
――ピピーーー!!
各自攻撃の合図だ。攻撃しまくりじゃん。態々笛で合図する意味があるのか?
「散らばっているみんなに知らせているんですよぅ」
「分かってるっての」
「若ッ、3本角ッス!」
「おうッ」
3本だろうが何本だろうが兎には変わりないぜ。
飛び掛かってきた3本の角がある角兎を短剣で一突きにして仕留める。
「若ッ、後ろッス」
「おうッ」
「若さまぁ、弛んでますかぁ?」
「うっせーよ」
振り返って直ぐに斬り付ける。咲は俺の横から出てきた角兎を倒している。
「あー、うっとしいッス!」
そう言いながら隆がバコーンと蹴り飛ばしている。おいおい、蹴りかよ。
「俺様に突進してくるとは良い度胸だぜぃッ!」
ああ、この声は霧島だ。
「アンアン!」
ノワもいるな。あの鳴き方だと余裕だな。
「ココ、こいつ等いつまで出てくるんだ!?」
「奥でユリシスお祖父さま達が熊を討伐しているわ。それが終わったら引くでしょう」
「そうかよ」
「キリシマ、楽勝でしょう?」
「おうよッ! 俺様に掛かったら角兎くらい楽勝だぜぃッ!」
はいはい。一般人でも角兎なら楽勝だからね。
「ココ、相変わらずヒデーな」
「アハハハ」
そしてまた笛が聞こえてきた。
――ピーーー!!
「あ、終わったみたい」
「ですねぇ」
「もう落ち着くっしょ」
隆が言った通り、熊が討伐されるとまるで波が引くように兎やイノシシが林の奥へと逃げて行った。
「やっぱ、熊から逃げてたんスね」
「みたいね」
「けど、多かったな」
「なに、キリシマ。楽勝なんじゃないの?」
「あたぼうよッ!」
小さな胸を張る、小さなとかげさん。
「ココーッ!!」
「アハハハ」
「若、角兎とイノシシ収納するッスよ」
「分かった」
林の奥からユリシスじーちゃんとディオシスじーちゃんが戻ってきた。
「ココ、沢山倒したなぁ」
「お祖父さま、熊はどうしたのですか?」
「ああ、マジックバッグの中だよ」
「番だったのですか?」
「そうみたいだ」
「2頭出てきたぞッ」
「ユリシス様ッ!」
そこへ、じーちゃん達と一緒に林の奥に入っていた隊員が慌ててやって来た。
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