159ー小さな村
「ロディ兄さま、明日は出発しますか?」
「そうだろうね」
じゃあ、俺もさっさと飯食って寝よう。
「若、飯食べるッスよ」
「若さまぁ」
「おう」
「アハハハ、もう若が板に付いているじゃないか」
「兄さまも食べましょう」
「ああ、そうだね」
そうして、腹一杯食べて俺はさっさと寝た。翌朝、父達も戻ってきていて朝食を食べたら出発だ。また次の街を目指す。
いつもの様に幌馬車に揺られていた。するとだ。
「辺境伯様バンザーイ!」
「ありがとうございます!」
と、道の両側に集まってきていた領民達から声が掛かる。ヤベーじゃん。もろバレじゃん。パレードみたいになってるじゃん。仕方ないけどさ。
父を見ると手を上げて応えている。しかもいい笑顔じゃないか。いいのかよ、秘密にするんじゃないのかよ。思わずツッコミたくなるぜ。
「アハハハ、仕方ないね」
「兄さま、それにしても父さまが堂々と応えていますよ」
「父上らしいじゃないか」
俺は知らねー。もう秘密も何もあったもんじゃねーよ。
「秘密なんだッ! 大きな声では言わないでくれッ!」
父だよ。何を言ってんだか。堂々と秘密だと言っちゃってるよ。ああもう、父に秘密は無理だ。全然無理だ。よく分かったよ。
「アハハハ」
とうとう王子まで笑い出した。
そんな感じで俺達は街を出発した。
さて……またまた同じ景色が続いている。澄み切って滑らかな青いガラスの様な青空に爽やかな風が駆け抜ける広い平原。絵に描いたような青と緑のコントラストだよ。ずっとな。ずっとなんだよ。
「ああ、飽きちゃった」
「お嬢、今度は早いッスね」
「だって飽きるわよ」
「スね」
隆、また2文字かよ。なんでも『ス』で略すんじゃないよ。ああ、そんな事にも飽きた。
街を出て、丘を幾つか越えた頃だった。何故か街道を逸れ、南東へと進路を変えた。
先頭にはいつの間にか父がいる。領主隊も落ち着いている。
何故、進路を変えたのだろう?
次の大きな街まではまだまだ距離がある。なのにどうしたのだろう? と、思っていたんだ。
俺はまたディオシスじーちゃんの馬に乗せてもらっていたんだ。そのままじーちゃんも何も言わずについて行く。
「ディオシスお祖父さま、どこに向かっているのですか?」
「この先にココの父上がずっと気にかけている小さな村があるんだ。そこに寄るのだろう」
「村ですか?」
「そうだよ」
なら良かったよ。バレないうちに距離を稼がないといけないのだろう? なのに、前の街ではバレバレな事をしているからな。
目立ち過ぎだよ。大きな声で『内緒だッ!』とか言っちゃってるし。
ディオシスじーちゃんが言うには、その小さな村は数年前に出来たばかりなのだそうだ。
それも、その村の住民達は人攫いに攫われたところを保護した人達や、近くの街で迫害されていた人達なのだそうだ。
「迫害ですか?」
「そうだよ。人は少しでも自分達と違うと直ぐに差別したがる。自分達が有利な立場に立ちたがるものなんだ」
と、言うのもだ。その迫害されていたり人攫いに攫われていた人達はこの国では珍しい獣人族とのハーフなのだそうだ。ハーフだから、領地で保護したシュンやアキとは違って常時獣耳と尻尾が出ている訳ではないのだそうだ。
自分が興奮した時や、力が必要な時に耳と尻尾が出るらしい。それを珍しがって買う貴族がいる。だから人攫いに合う。そして、普段は隠していても耳や尻尾を出してしまい回りの人達に迫害される。そんな人達を集めて作った村なのだそうだ。
「なら、領地に連れてくれば良いのではないですか?」
「そういう訳にもいかないんだ。本人達の意向もあるからね。この村の人達はどこかで静かに暮らしたいと希望した人達なんだよ」
なるほど。それでも父は気になるという事か。
「最初に関わった時に領地へ来る様に話したんだ。だけどね、そこまで世話になる訳にはいかないと言うんだよ」
「そんな……」
「ああ、だろう?」
きっと父は領地に来てくれる方が安心なんだよ。だから、誘ったんだ。それでも、自分達で暮らすことを選んだ人達。だからずっと気にかけているんだろうな。
父は先ず、村を作る土地から探す事を始めたそうだ。街から遠すぎてもいけない。何故なら、どうしても生活していくには街で生活必需品を買う必要かあるからだ。例えば、調味料や洋服等。これは、そう簡単には自分達で作る事ができない。
ただ、村人達が迫害されていた街ではない方が良い。身バレしていない方が買い物もスムーズにできるだろう。
そして、ある程度の食糧を自分達で育て、賄える土地でなければならない。
そんな色んな事を考慮して今向かっている村が作られたらしい。
父はそんな事もしていたのか。頭が下がるよ。
「野菜とか穀物の苗は領地から持って行ったんだ。だから、最初の収穫から豊作だった。だけどね、それまでが大変だったよ」
そりゃそうだ。領地の作物はルイソ爺さんが改良してより美味しく大きくなっている。それは良い。だが、それが収穫できるまでは何もないんだから。
「幸い、土地柄が良くてね。角兎が狩れるし野草も沢山あったんだ」
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