156ー一致団結
俺は何も知らされていないから疑問だらけだ。まだ子供だから。めちゃくちゃ悔しくて焦ったいぞ。
「ああ、父上が下りてきた。ココ」
「はい、兄さま」
父が上に取っていた部屋から下りてきた。父の性格なら放ってはおかない筈だ。
「バルトォッ!」
「はいッ、父上」
バルト兄が呼ばれて直ぐに近くまで行く。俺は呼ばれないんだよ。と、ちょっと不貞腐れていたら、バルト兄に手招きされた。
「父さま、バルト兄さま」
「思ったより深刻な状況らしい。既に排水が溢れて街に流れ込みそうだ」
「どうするんですか?」
「取り敢えず堰き止めるしかないだろう。サキとリュウは堰き止めてくれ。土属性魔法が使える兵達も回す。ココはとにかく排水をクリーンできるか? 広範囲になるんだが」
「兄さま、大丈夫です。クリーンなら大した事ありません。浄化しなくて平気ですか?」
「ロディが調べたらしい。幸い、汚水は流れ出していないそうだ」
と、いう事はだ。この街の領主邸はトイレが水洗じゃないのか? でないと、汚水だけが流れ出さないなんて不自然だ。
「ココ、その通りだ。トイレが水洗で完備なのは城かうち位だ」
そうだった。この世界はまだそこまで完備されていないんだ。前世の日本だと一体何十年前の話なんだって感じだ。
自分の家が普通に完備されているから、そんな事も忘れていた。
「ココがもっと幼い頃に工事したんだ。うちだけじゃなく、領地内全域をだ。ココが言い出したんだぞ。覚えてないか?」
全然覚えてないぞ。知らないぞ。
「だからぁ、若はもっと小さな頃から若だったんですぅ」
咲、意味不明だ。
「ふふふぅ」
「とにかく行きます」
「ココ、ディオシスお祖父さまとロディが付いて行くから待ちなさい」
一緒に戻ってきたのに、いつの間に外に出ていたのかディオシスじーちゃんがロディ兄と一緒に入り口から入ってきた。
「まずいぞ、すぐそこまで排水が流れてきている」
「この街の領主邸は街外れの高台にあるからね、当然水は高いところから低い街へと流れてくる」
「よしッ! 食い止めるぞぉッ!」
父のGOが出た。兵や従者にメイドさん達まで総動員して堰き止めに向かう。こんな時のうちの団結力は素晴らしい。
一々細かい指示を出さなくても、其々がが出来る事をする。
俺は排水をクリーンだ。とにかくクリーンしまくってやるぞ。
領主邸の方へと急いで移動する。どこでクリーンするのが1番効率が良いか考える。そりゃ、大元でするのが1番だ。
「ココ、流れを見つけたらとにかくクリーンだ。詰まって溢れ出している場所まで誘導するよ」
「はい、ロディ兄さま」
なんだ、もうそんな事まで分かっているのか? ロディ兄は何を調べに行っていたんだ?
「例の途中で止まってしまった工事現場を確認しに行っていたんだよ。ちょうど良かったよ」
なんだよ、そうなのか? あ、俺を攫おうとした男も工事の事を話していたな。本当は街まで広げる筈だったと。
「改修工事をして拡張する予定だったんだ。その補助金も国から出ている。なのに、街では下水道工事なんてしていないからね。不思議に思って調べていたんだ。自分の邸周辺だけを拡張改修工事をしたらしい。馬鹿だよ。途中から拡張していないんだから、溢れて当然だ」
なるほど。お馬鹿さんだったのか。と、ロディ兄の話を聞きながら走っていると街を出て緩い上り坂になった。
すると、当たり前の様に排水が流れてきた。下水道から溢れているんだろう。が、まだこの程度ならなんとかなりそうだ。
領主邸へと続く道の両側にある溝からじわじわと排水が溢れてくる。
俺はクリーンを掛けながら移動する。ロディ兄やディオシスじーちゃんもクリーンしている。
そして、堰き止める場所だ。少し下、街に近い方で兵達が低めの簡易的なアースウォールを作っていた。
魔物討伐の時はもっと高くそして厚く頑丈に作る。その事を思ったら楽勝だろう。
「ココ、溢れ出している元に行くよ」
しかしだ。領主は何をしているんだ?
「高みの見物だ」
ありえんぞ! 自分さえ良ければ領民達はどうでも良いのか? これは収めないと下手したら暴動が起きかねないんじゃないのか?
「そうだ、だから止めよう」
「はい、お祖父さま」
考えなくても当たり前に分かる事だろう。途中まで改修して拡張したらその先はどうなるのか。
許容範囲を超えたら当然溢れ出してしまう。当たり前の事だ。
街に被害が出たら、こりゃ領主が恨まれるぞ。
「それはもう遅いだろうね」
ああ、もう恨まれてんのか。もしかして、今迄にもやらかしていたりして。
「色々と問題有りの領主なんだよ」
「貴族さえ良ければ、自分さえ良ければと考えているからだ」
まあ、馬鹿は何処にでもいるさ。前世だってそうだった。
「ココ、そうなのか?」
おっと霧島だ。霧島を入れたバッグをそのまま持ってきてしまったぜ。
「俺、忘れられてたのか? ヒデーな」
「クゥ〜ン」
あ、ノワもいた。いや、走っているのは視界に入っていたけど考えながらクリーンしながらだったからさぁ。
「ノワ、忘れていた訳じゃないわよ」
「アゥ……」
ノワが悲しそうな声を出した。
「ごめんって」
「アウ」
アハハハ、可愛い。やっぱノワは可愛い。
「アン!」
お、元気になったな。尻尾をブンブン振っている。
「そこだ。そこの下水道から溢れているんだ。脇にある川に流せると良いんだが」
なるほどね。確かに、領主邸からの排水だ。と、俺はずっとクリーンだ。
「俺が水の流れる道筋を作ってやるよ」
「キリシマ、そんな事ができるのか?」
「ああ、川まで溝を掘れば良いんだろう? 楽勝だ」
「じゃあ、キリシマは溝を。ココはクリーンだ」
「はい、お祖父さま」
「おうよ」
と、言って霧島はバッグの中から軽く短い手を振った。
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