147ー料理人グッジョブ
「さあ、ココ。ここからはココも参加できるよ」
「ディオシスお祖父さま?」
それから、ディオシスじーちゃんの指揮で料理人達が余分に持って来ていた食料を出した。
先ずは、領主であるカルロッテ伯爵に買い取ってもらう。それから、各商店に卸すんだ。そして、領主隊から1人領地へ伝令が出された。至急、食料や生活必需品をこの街に輸送する様にと父が書いた文を持って出たんだ。
「料理人達は一体どれだけの食料品を持って来たのかしら?」
「お嬢、そんなの超大量に持って来たに決まってるッス」
「そうなの?」
「そうッスよ。旦那様が外に出る時にはよくある事なんス。けど、今まではマジックバッグも限られてたッスから。今回はお嬢のお陰で皆持ってるッスからね」
「そんなに?」
「余裕ッス」
驚いた。もしかして、だから父が王都へ行くと長くなるのか?
リアルなんとか黄門様じゃん。びっくりだ。
だがいくら何でも、料理人が持っている食料だけで補える訳がない。俺達だってこれから王都へ向かわなければならない。それでも、少しは行き渡るだろう。うちの領地から、食料が届くまで頑張って欲しい。そして、もう大丈夫だ。盗賊団は捕縛された。少しずつだろうが、元の生活に戻れるだろう。
「ココの父上はね、王都へ向かう度に沢山の人達を助けてきたんだ。もちろん兄上もね。代々の辺境伯が当然の様にやって来たことなんだ。だからこそ、この国では有名な辺境伯なんだよ」
「ディオシスお祖父さま、知りませんでした」
「ココはまだ8歳だから。まだまだこれから沢山勉強しないとね。知らなければならない事が沢山ある」
「はい、お祖父さま」
俺は、前世極道の息子だった。若頭なんて言われて、人助けとは正反対の位置にいた。その俺がこの国の守護神と言われている辺境伯の末娘に転生した。これは、何の因果なのか? 正しく真っ当な事を学べという事なのか? なんて少し考えた。
まさか、自分の父がそれ程の人物だったとは知らなかったんだ。
俺は、どうする? どうしたらいい?
そんな事を昼間に考えていたからだろうか。久しぶりにまた変な夢を見た。
「私は何も犠牲にしたくはないんだ……」
また、ふわふわしたプラチナブロンドの髪にミッドナイトブルーの瞳の青年が俺達にそう言った。
この青年はきっと王子だよな。少しずつ夢が変化している。どういう事なんだ?
その夢では、俺達家族は皆後ろ手に縛られ処刑台に並ばされていたんだ。
ああ、嫌な夢だ。そうだ、咲が隆にも聞いてみようと言っていたのを忘れていた。起きたら隆に聞いてみよう。
「へ? 夢ッスか?」
「そうなの、夢なのよ」
「姉貴も8歳の時に?」
「そうよぅ」
「全然みないッスよ」
「なんだよ……ふぅ〜」
変な汗が出ちゃったじゃねーかよ。隆も咲の様な予知夢的なものを見ていたらと、ちょっと緊張しちゃったぜ。
「お嬢さまぁ、どういう事なんでしょうねぇ」
「ただの夢なんじゃねーの?」
「そうッスか?」
「リュウ、何よ?」
「いや、ちょっと考えてみたんスけど……」
隆の考察だ。
このまま王都に行って、もしもだ。もしも、王子を旗頭にされたままで俺達が捕まったらどうなるかという事だ。
完璧にクーデターの首謀者にされてしまう。そうしたら処刑台へとまっしぐらだ。
「ね、有り得ない話じゃないッス」
「リュウ、止めてよ。気持ち悪い」
「お嬢さまぁ、でも変化しているんですよねぇ?」
「そうなんだよ」
「私が見た夢は変化なんてしませんでしたよぅ」
「そうなのか?」
「はいぃ、いつも一緒でしたぁ。場面まで一緒でしたから覚えてますぅ」
じゃあ、何なんだ?
「てか、夢なんスよ?」
「リュウ、そうよ」
「そこまで真剣に考える必要あるッスか? あくまでも夢ッス。現実じゃないッス」
そうなんだけど、気になるんだ。隆だって考えてみたりしたじゃないか。だけどなぁ、何も確証がない状態でそれに惑わされたり捕らわれるのも嫌だ。今は割り切るのが最善か?
「そうだな、リュウの言う通りかも」
「そうッス。気になるならそうならない様に努力するッス」
「え、リュウが良い事を言った」
「お嬢、何スかそれ!?」
ハハハ、隆のお陰で少し割り切れたかもだ。気にはなるけど、今しなきゃいけない事をしよう。そうだ、先ずは……
「サキ、リュウ、お腹すいたわ」
「はいですぅ」
「現金ッスね」
うるせーんだよ。腹がすいたらなんとかって言うじゃないか。朝飯はしっかり食べる派なんだよ。
さあ、また今日から馬車の旅だ。
「よいかぁッ!? 出発だぁーッ!」
父の大きな声で出発だ。一斉に馬や馬車が動き出した。
カルロッテ伯爵達が邸の前で見送ってくれている。その後、伯爵がどんな判断をしたのか俺は知らない。だけど、きっと悪い様にはしないだろう。俺ならどうするだろう。まだ、俺は結論が出せないでいる。ゆっくり考えるさ。
この街もまたこれから以前の様に戻っていく事だろう。次に訪れた時は活気のある街であってほしいな。
そう思いながら次の街へと向かった。
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