146ー真相
「まさか……お祖父さま」
「分かったかい?」
「盗賊団に情報を流していた衛兵がいたのですか?」
「そうだろうね」
ディオシスじーちゃんが、そっとドアを開けて中の様子を見せてくれる。後から入って行った3人の衛兵達。
「部外者が何言うんだ!? 俺は盗賊団なんて知らないんだぁ!」
1人の衛兵が、顔を真っ赤にして叫んでいる。
両脇にも衛兵が立っている。前には父とユリシスじーちゃんだけでなく伯爵もいた。あれは両脇の2人が真ん中の兵を連行してきたんだ。
「このお2人が尋問されたんだ。間違いはないぞ」
伯爵が叫んでいる兵に言った。それでも「知らない」と反論している。往生際が悪い。
「どこの貴族様か存じませんがね、他所の領地の事に口を出すのはどうなんですか? 越権行為なんじゃないんですかねぇ!」
自分の進退が掛かっているんだ。そう簡単には認めないか? だけどもう無駄だよ。父やユリシスじーちゃんが出張ったんだ。そして尋問したんだ。もう証拠だって掴んでいるのかも知れない。父とユリシスじーちゃんならそうしている筈だ。
「お前、こちらのお方がどなたなのか知らんのか?」
「領主様、この街を守っている俺達より何処の誰だか分からない人間を信じるんですか? 俺達は毎日毎日街を守ってるんですよッ」
「良く聞きなさい。こちらのお方をどなただと思う? このお方は、この国の守護神とも言われているインペラート辺境伯様だッ! お隣は前辺境伯様だ! お2人が盗賊団を捕縛し尋問して下さったんだ。間違いはないぞッ!」
「へ、辺境伯様がなんでぇッ!?」
ドドーンと紹介された父とユリシスじーちゃん。胸を張っている。おいおい、どこかの黄門様みたいになっているぞ。ちょっと見ていて恥ずかしい。
父とユリシスじーちゃんが睨んでいるよ。きっと許せないんだ。
「民達が苦しんでいるのが分からんかッ! 衛兵とは、民を守るのが仕事ではないのかぁッ!」
ああ、とうとう父が切れている。より大声になっているぞ。
「ここまで酷くなるまでに気付けなかったベルンハルドにも責はあるぞッ」
伯爵が小さくなっている。たかが盗賊団と思わないでもっと早くに真剣に取り組むべきだったんだ。そりゃあ、貴族は多少食料品の値段が上がっても購入できるだろう。だが、民にとっては死活問題だ。
「私は民達になんて申し訳のない事をッ」
悔しそうな顔をしながら項垂れている伯爵。
「もっと詳しく報告を聞くべきでした。盗賊団など、衛兵に任せておけば取り締まるだろうと思い込んでおりましたッ」
流石に声は父ほど大きくはないが、言葉尻なんてよく似ている。脳筋の様には見えないが、父に傾倒しているだけあって雰囲気が似るのだろうか。
「金が……金が欲しかったんだ! 子供が生まれるんだ。大きい腹をしているのに腹いっぱい食べさせてあげられない。それが、悔しくて歯痒くて……」
と、盗賊団に情報を流していただろう衛兵が膝をつき項垂れた。
事情は理解出来なくもないが、しかしやってはいけない事をしたんだ。罰を受けなければならない。少し想像すれば考えられた事だった。もしも、発覚したら。自分のする事がどんな影響を及ぼすのかと。お金があったとしても、商品自体が不足しているのだ。結局は自分の首を絞めている。
ましてや自分が投獄された後、残された妻はどんな思いをするのだろう。簡単に想像出来る事だ。
「残された者がどんな思いをするのか考えなかったのか?」
ほら、父も同じ事を言っている。
「ココなら分かるね」
「はい、お祖父さま」
分かるけれども、難しい問題だな。どうするのだろう?
「この者の処分はベルンハルドにまかせる。私は領主ではないからなッ」
そうなるよなぁ。盗賊団の捕縛に手を貸しただけであって、父はこの地の領主ではない。領主と同級生というだけなのだ。
この領地の権限は領主であるカルロッテ伯爵にある。
「ココならどうするかな?」
「ディオシスお祖父さま……分かりません。どうしたら1番良いのかあたしには判断できません」
「そうか。まだココは8歳だったね。大人になるにつれて判断ができない難しい事も多々ある。でも、ココ。覚えておくんだよ、自分の良心に嘘をついてはいけないよ。周りやその場に流されたりもしてはいけない。貴族の為に民があるのではない、民の為に貴族があるのだよ。分かるかい?」
「はい、お祖父さま」
難しいな。やられたらやり返す。カチコミかける。で、解決できればスッキリするんだが。
「お嬢さまぁ」
「サキ、分かってるって」
「はいぃ」
「ココ! どうした、ずっと此処にいたのかッ!?」
考え込んでいたら、部屋から父とユリシスじーちゃんが出てきた。
「父さま、ユリシスお祖父さま、難しいですね」
「聞いておったのか?」
「はい」
「だが、理由はどうあれ多くの民を苦しめた事には違いないのだ。それは良い事ではない」
「はい、お祖父さま」
「ベルンハルドの領主としての資質が問われる事になるな」
「父さま」
「アレクシス、兄上、出発は明日にしますか?」
「そうだな、まだ後片づけが残っておる」
後片付け? 捕縛してきて尋問して原因を突き止めた。まだする事があるのか?
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