140ー若ぁッ!
「それにしても、ココ。よく似合っているよ」
「そうですか?」
「本当に。まさかだね」
「殿下、どういう意味ですか?」
「いや、褒めているんだよ」
えぇ~、本当かよぉ? あんまり嬉しくはないんだけどね。
「思わず、言ってしまうッス」
「リュウ、何が?」
「若ッス」
「ふふふぅ、懐かしいですぅ」
「リュウ、若って呼ぶのかい?」
「ロディ様、いいッスか?」
「いいんじゃないかな」
「若ぁッ!」
と、ガシッと隆が抱き着いてきた。やめろよ、暑っ苦しい。
どうしてこんな事になっているのかと言うと……
「せっかく変装するんですからぁ」
と、調子に乗って言い出した咲の発言が原因だ。
母まで一緒になって盛り上がった結果がこれだ。
「ココちゃん、お似合いだわ! これで行きましょう!」
なんて母も言い出した。折角、令嬢らしくしていた俺の涙ぐましい努力がさぁ。
「いやいや、しょっちゅう若になってたッスから」
そうか? 俺は結構頑張っていたんだぞ。
「ふふふ、でもとっても可愛いよ」
誉め言葉にはなってねーな、王子よ。
「なんか、昔に戻ったみたいで嬉しいですぅ」
そうかよ、そりゃ良かったな。俺は複雑だよ。
「ココって呼ぶのも変えようか?」
「ロディ兄さま、本気ですか?」
「ああ、いいじゃないか」
「ロディさまぁ! ヤマトさまが良いですぅッ!」
「あッ! いいッスねッ!」
この姉弟はマジで後で説教だ。大和って前世の名前じゃんか。
「ココちゃん、良いじゃない。じゃあ、その恰好の時はヤマトちゃんね」
と、まあとんとん拍子で決まっちゃったわけだ。
焦らしちゃったけど、もう分かるだろう? そうだよ。俺、男装してるんだよ。意味が分からんぞ。
転生して女児になった俺は前世成人男子だ。その俺が今度は男装するんだ。
しかもだ、この格好の時は前世の名前だった『大和』と呼ぶそうなんだ。ややこしいな。本当、調子に乗るのもいい加減にしてほしい。
俺は、長い髪をキャスケット帽のような帽子の中に入れてしまって、膝丈パンツに黒のハイソックスだ。ミリーさん達が作ってくれた、前にタックを丁寧に取ってあるシャツにサスペンダーでパンツを留めている。
パッと見、ちょっと裕福な商人の息子って感じだ。
「マジ、意味不明」
「若、似合ってるッスよ」
「リュウ、サキの調子乗りがさ」
「ハハハ、確かにッスね」
俺ちょっとメイドさん達の馬車に乗ってもいいかなぁ。向こうは楽しそうなんだよね~。
「ココ、男装はしているけど令嬢なんだからね」
「はい、ロディ兄さま」
理不尽じゃね? 恰好は男なんだぞ。なのに令嬢らしくしろとは、これ如何にだ。
そんな俺の気持ちはさて置き。馬車は順調に進み、あともう半日程度で隣街に到着するだろう時だった。
「あ、なんか来るぞ」
「アンアン!!」
と、霧島とノワが反応したんだ。
すると、先頭の馬車の前に立ちはだかる人がいた。
「お助けくださいッ!!」
どうした、どうした? 何だ?
「どうしたぁッ!?」
退屈していたのだろうな。父が張り切って先頭へと出て行った。
「盗賊に追いかけられているのですッ!」
と、馬車の前に出た男が息を切らしながら言った。
その男の話によると、最近この街道を通る商人を狙って盗賊団が出るのだそうだ。
その盗賊団に追いかけられているという。
話を聞くと……盗賊団が出るようになってから、街の商品が品薄になってしまっているそうだ。
そりゃそうだ。物流が無理矢理止められているのと同じ状態になってしまっているんだ。このままだと、どんどん値段が上がるだろう。
「人々はパンも手に入らなくなってしまいます。それで無理を承知で出てきたのですが、やはり盗賊団に目を付けられてしまって」
「それは大変だッ! その盗賊団は追ってくるのかッ!?」
「はいッ、直ぐにッ!」
「ヨシッ! 任せなさいぃッ!!」
ああ、やっぱやる気になっちゃうよな。多分な、みんなずっと平和な道中だったからヒマしてんだよ。父だけでなく、ユリシスじーちゃんと側近のマティアスまで出張っている。
一緒に馬で移動していたバルト兄とディオシスじーちゃんは苦笑いだよ。あの2人は止まんないからなぁ。
てか、俺も見に行こうかなぁ。
「ココ……お前は本当におてんばなんだから」
ロディ兄に叱られちゃったよ。でも、気になるよな。
後から盗賊らしき男達が追って来た。数にして14~15人てとこか。
「おいおいおいッ!! 命が惜しかったら金目の物は置いてきなッ!!」
おう、本当にこんなセリフを言うんだな。
「馬鹿をいうでないッ! 盗賊なんてしているという事はどうなっても文句はないなッ!?」
「何偉そうにしてやがんだッ! ヤロウ共! やっちまえッ!!」
と、盗賊団が父に向かって行った。
「どぉりゃぁぁぁーーーッ!!」
父が馬の上から大きな大剣を振り回す。トゥーハンドソードと呼ばれている両手持ち剣だ。それを片手で扱える程の腕力の持ち主が父だ。今も軽々と片手で振り回している。
ユリシスじーちゃんも大薙刀を振り回し、盗賊達をなぎ倒している。
こんなの反則だ。父とユリシスじーちゃんにただの盗賊団が敵う訳がない。なんせ、いつもは自分達より大きな魔物を相手にしているんだ。それに比べると赤子の手をひねる様なもんだぜ。
俺が手を出すヒマもなかった。出たかったのにさ。
「若ッスね」
「リュウ、だから出なかったじゃん」
「うずうずしてたッスよね」
あ、バレてる。だって俺だってヒマだったんだよ。馬車に乗ってるだけなんだもん。霧島をからかうのにも飽きちゃった。
「バルトぉッ! 縄だぁッ!」
「はいっ、父上!」
もう決着がついたらしいぞ。アッという間だったね。
読んで頂きありがとうございます。
ああ、Wi-Fiよ早く復活してほしいぃ!
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Wi-Fiないけど頑張ります。(T . T)
いつも有難うございます!




