132ー何もない日常
「はい、ココ様、フィル君。今日も楽しく魔石に付与でっす」
あ、ロディ兄が言っていたヤツだ。本気で領民全員に配るつもりだよ。ヨシッ、俺も気合いを入れて頑張るぞッ!
「ココ様、あまり張り切って一気に魔力を込めては……」
――パキンッ!!
何でだよ!? 魔石が俺の手の中で真っ二つに音をたてて割れてしまった。
「え?」
「ふふふ」
「ですからぁ、私の話しを聞いてくださいね。あまり一気に魔力を込めると魔石の方が耐え切れなくなって割れてしまいまっす」
「えぇ~、クリスティー先生。早く言ってください」
「言おうとしたらココ様が始めてしまったのでっす」
「はい、すみません」
「ふふふ」
割っちゃったよ。1個、もったいねー。
「ココ様、まだまだたくさんありまっす」
「はい、クリスティー先生」
付与も沢山するんだよな? そりゃそうだ、なんせ領民全員が目標なんだから。
その言い出しっぺのロディ兄がいない。バックレたか?
「ロディ様はお仕事があるのでっす」
「はい、クリスティー先生」
「ココ嬢は本当に末っ子って感じだね」
「え? 殿下、それはどういう意味ですか?」
「え? 良い意味だよ?」
「ですから、具体的にどういう意味ですか?」
「そうだね、みんなに可愛がられて……」
「はいはい」
うん、そうだな。両親や兄達だけでなく、じーちゃん達やシゲ爺も可愛がってくれている。それは末っ子の特権か?
「自由で……」
「はい……え?」
「突っ込んでいくタイプ?」
俺ってそんな感じなの? 猪突猛進なのか? 褒めてないよな?
「え? それって末っ子と関係ありますか?」
「ありませんね。ココ様の性格ですね」
あ、クリスティー先生ったらヒドイ。
「でも、みんなを守りたいという気持ちからの行動なんだよね」
「もちろんです」
「ふふふ、ココ様はお優しいですから」
「クリスティー先生、有難うございます」
「無鉄砲とも言いますが」
あ、ヒドッ。上げといて落としたぞ。
と、まあ毎日が平和だったよ。このまま平和が続けば良いな、なんて事も思わない位に平和が当たり前になっていた。
何か起きる時ってさ、きっと何もない日常が突然崩れたりするんだよ。
前置きも、前兆もなくさ。つい最近そんな事があったばかりだというのに俺は忘れていたんだ。
「旦那様ッ、旦那様ッ!」
父が朝食の、3個目のベーコンエッグサンドに齧り付こうとしていた時だった。
うちのベーコンエッグサンドはトマトが入っている。それがまたベーコンの塩味とマッチして美味いんだ。それはまあ、置いておいて。
執事のシーゲルが、父を呼ぶ声が邸に響き渡った。
空は秋も終わりそうな空になっていた。水色に澄んだ秋の空が、どこまでも高く晴れ渡る秋晴れの朝だった。
朝晩はもう肌寒くなり、そろそろ冬だねなんて季節だ。次の野菜の収穫は何だ? なんて呑気な事を話していた。
「旦那様! 奥様!」
「どうしたシーゲル、騒がしいぞ」
「奥様のご実家からの文です!」
「あちらで何かつかんだのかしら?」
「そうだな……」
と、言いながら父は文に目を通す。
「な、な、なんだとぉぉーッ!!」
「あなた、だから声が大きいですわ。食事中なのですよ」
「これが大きな声を出さずにいられるかぁッ!? 殿下がクーデターを起こそうとしているとッ!」
「何番目の王子がですか?」
「だから、殿下だッ! フィルドラクス殿下だッ!」
はあッ? 何でだよ! 王子はずっと此処にいるじゃないか!
「あなた、とにかく朝食をすませましょう。シーゲル、文を持って来た者はどうしました?」
「馬を乗り換え、碌に寝ずに走らせて来たようです。別室で休ませております」
「そう、栄養のある食事を用意してあげて頂戴。ユックリ休む様に。ご苦労様と」
「はい、畏まりました」
母は淡々と指示し、食事をしている。俺はもうそんな場合じゃないんだけど。
「ココ、とにかく食べてしまいなさい」
「はい、ロディ兄さま」
そう言われても喉が通らな……くもないな。うん、美味い。食べてしまおう。
皆黙々と食事をしていた。それまでは和やかな朝食だったのに空気が一変したんだ。そりゃそうだ、あんな知らせを受けたんだから。
王子も黙って食べていた。口に入れてはいるが、きっと味なんて分からなくなっただろう。
俺は美味いと分かるけどな。我ながらこんな時にどうかと思うよ。
だが、腹に何も入っていないと思考が鈍る。だから食べるんだ。しっかり食べて血液を流せ。脳に、身体全身に血液を流すんだ。
そして、朝食も終え談話室へと移ってきた。皆勢ぞろいだ。
いつもは元気で煩い位のじーちゃん達が静かだ。
「あちらからの早馬で知らせてきた内容です」
そう言って、いつもの様にバルト兄が話しだした。
その文によると、第3王子であるフィルドラクス殿下を旗頭にクーデターの動きがあるという事だった。まだ今の時点では『動き』だ。
そのクーデターを企てている貴族達は、今は亡き側室の実家側の貴族達らしい。
中心にいるのが側室の実家だったらまだ話は分かる。だが、その実家は無関係なんだそうだ。
寧ろ、その事実を心配してあちらに知らせて来たのが実家らしい。
自分の娘が側室だったとはいえ、もう何年も前に亡くなっている。静かに暮らしたいのだそうだ。
その知らせを聞いてあちらが調べ確認した結果、先導しているのが王妃の実家と相反する貴族達だ。
元々その貴族達は、第3王子が聡明な事に目を付け中央にのし上がろうと機会を狙っていたらしい。
側室も病に倒れる寸前までその貴族達を抑えていたそうだ。だが、急に亡くなった。病だと発表されたが、それを信じられなかったのだろう。それくらい、急逝だったのだそうだ。
それに加えて、王妃の実家に与する貴族達の態度がどんどん横柄になっていった。
自分達は現王妃側の貴族だと、傲慢に振舞う様になっていた。
元々、相容れないのにそんな事が積もり積もって反感を買ったんだ。
読んで頂き有難うございます。
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