122ー守りたい
普段はするはずのない特別なサインだった。『手の空いている兵は直ちに武器を持って集合せよ!』という緊急収集の合図の笛だった。
俺は産まれてからこの合図の笛を聞いた事がない。それくらい特別な物なんだ。
一瞬、なんの合図なのか頭が付いていかなかった程だ。
いつもの様に俺と咲だけなら飛び出していただろう。だが、その日に限って王子がいた。
王子を守らなければ! その思いが、はやる気持ちを抑えていた。
「お嬢! 無事ッスか!?」
隆が駆け込んで来た。霧島とノワが一緒だ。
「リュウ! 一体何が起こっているの!?」
「分かりません! しかし、外に出ないでください!」
「分からないのに出てはダメなの!?」
「ココ、待機だッ! 今きっとじーちゃん達が確認しているはずだ!」
「それで、あの笛なのね?」
「お嬢!」
「リュウ! だってあの合図わかるでしょう!」
「分かるッスよ。俺、初めて聞いたッス」
「ならここにいても仕方ないわ」
「お嬢、だから余計にダメッス!」
「ココ! 落ち着け! フィルを守らなきゃなんねーだろうが!」
くっそ、霧島の言う通りだ。俺が1番そばにいるんだ。王子が最優先だ。守らないといけない!
「この気配は魔物か?」
「キリシマ、分かるの?」
「ああ、気配がな。人ではないぞ」
「アウウゥ、アンアン!!」
「そうなの? ノワも分かるの!?」
『分かる! 魔物がたくさんやってくる!』
「キリシマ」
「おう、あの防御壁を魔物が壊せるはずないだろうよ」
「人為的なものよね」
「となればココ、余計にここから動くなよ」
「なんでよ、出るわよ!」
「だめだッ! 守るんだよ!」
「くッ……!」
悔しいなあ、焦ったい! けど、霧島の言うことは正しい。それは分かる。
でもこの面子だけで、狙いを定めてくるだろう奴等から守るのかよ。
「まだどこにいるのかは知られていないだろう」
「そうね、まさかこんな作業場にいるなんて思わないわね」
「ああ。それにだ。この作業場は1番新しい。ドワーフの親方が建ててくれた作業場だ。頑丈だぜ」
「……リュウ、下のじーさん達はどうしてる?」
「1階の入り口を閉じて2階にいますよ。じーさん達も臨戦態勢ッス」
「えっ?」
「あのじーさん達も、手に武器持ってるッス」
「そうなの? 使えんのか?」
「当たり前ッス。この邸で戦えないのは、子供達とこの部屋の女子だけッスから」
し、し、知らなかったぞ! あの普段実験好きのルイソ爺さんも戦えるのか!?
ルイソ爺さんは、結構のほほんとしてるぞ。
「強いッスよ」
と、隆は親指を立てながらウインクした。
この邸の人間はどうなってんだ!? 誰も彼もが強いって普通じゃないだろう!?
「お嬢、そういう土地柄なんッス」
「辺境伯領ですからぁ」
いやいや、それだけでは通じないだろうよ。
「お嬢様、この領地の誰もが1度は経験しているんですよ。魔物に大事な人や家を奪われて悔しい思いをした事があるんです。だからですよ。みんな自分を鍛えるんです。私達は何も出来なくて不甲斐ないです」
そう、ミリーさんが言った。そうか。みんな経験しているんだ。
理不尽に突然大切な人の命を奪われる。そうでなくても、突然住む家が無くなる。そんな思いをしているからこそ、日々鍛練をするんだ。
俺だってそうだ。守れなくて悔しい思いをしたくなかったら鍛練するんだ。と言われて育ってきた。
無くした経験はないけども、大事な人や物を守れないのは嫌だ。悔しい。
「ミリーさん、不甲斐ないなんて思わないで。少なくとも、みんなが作ってくれた下着で守られている事もあるんだから」
「お嬢様……有難うございます!」
「でも、こんな事が起きるなんて……もっと急いで領主隊の隊服を作っておくんでした」
「本当よ、悔やまれるわ」
みんな気持ちは一緒だ。
「大丈夫よ。魔石はみんなに行き渡っているわ」
できなかった事よりも、既にやった事を誇りに思おう。
魔石を付与して全員に渡してある。それでなくても領主隊は強い。屈強な男達の集まりだ。そう簡単にはやられないさ。
そんな事を考えていると、また笛の音が聞こえてきた。
――ピーーー!!
始まりの合図だ。攻撃が始まったんだ!
「リュウ、母さま達はどこにいるの?」
「奥様はクリスティー先生と保護している子供達と一緒ッス」
「そう、クリスティー先生が一緒なら大丈夫ね」
「はいッス」
うちの邸の裏の位置関係だが、俺が今いる作業場、そして、母とクリスティー先生がいる屋舎だ。ここは保護した子供達がいる部屋と、庭師や主に邸の外で働いてくれている人達の宿舎になっている。そこの1階に子供達と一緒にいるらしい。
この屋舎が1番邸に近い。そして、斜め向かい側にこの作業場。
その奥には鶏舎と牛舎がある。飼っているのは鶏でも牛でもないけども。それによく似た魔物だ。
その奥に、領主隊の宿舎と待機場、そして、鍛練場だ。
なんとかして、母とクリスティー先生に合流したい。
「リュウ、向かいの屋舎へ移動したいわ」
「お嬢、合流したいッスね」
「そうよ」
隆が、窓から外の様子を伺った。
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