114ー部屋の調査 2
俺が鑑定眼で見つけたそれは、部屋のカーテンレールの上部にあった。小さな小さな魔導具だ。きっと、あの日の侵入者が設置して行った物だろう。
どうして俺はあの日も鑑定眼を使わなかったんだ。甘かったんだ。真剣味が足らなかった。本当に悔やまれる。
「後で詳しく解析したいのであのまま私が持ち帰りまっす」
「え? あのままですか? どうやって持って帰るのですか?」
「はい、私はマジックバッグを持っておりまっす」
やっぱ持っているんだ。いいなぁ。俺も欲しいなぁ。
「ふふふ、今度作りましょうね」
「本当ですか? あたしにも作れますか?」
「はい、楽勝でしょうね」
「やった!」
「ココ、兄様も欲しいよ」
「はい。兄様だけでなくみんなの分を作りまっす」
あ、クリスティー先生みたいな語尾になっちまった。移っちゃうよねぇ。
「ふふふ、ココ様は本当に良い子でっす」
カーテンのそばに行き、クリスティー先生はあっけなくカーテンレールの上部に取り付けてあった魔導具を収納した。
何の魔導具か。それはカーテンを開け閉めする度に、毒に侵される様に仕組んであった。だから、持っていると当然毒に侵される。
「大丈夫ですよ。ココ様発案の下着を着ていますし、触らずにマジックバッグへ収納しましたからね」
そうなんだよ。クリスティー先生がいつも腰に付けている小さなウエストポーチがマジックバッグだったんだ。魔導具に向けてその被せを開けるとシュルンと吸い込まれたんだ。
マジで、マジックバッグ欲しい。
「さて、ココ様。後はどうですか?」
「はい。このお部屋は大丈夫だと思います」
「そうですか?」
え? 違うのか? 鑑定眼でも見ているがもう何も……
「あ、先生。絨毯の下ですか?」
「はい、よく気が付きましたね。上出来でっす」
部屋の中央に敷いてあった絨毯を捲ってみると、そこには1枚の紙があった。魔法陣が描かれている。
「クリスティー先生、これは何の魔法陣ですか?」
「魔物を召喚しようとしていたらしいでっす。しかし、甘いですね。魔法陣が発動しなかったのでしょう。何故かというと、少し間違っているのでっす」
なんだと? 間違えている?
「魔法陣は線の1本だけでなく記号も全て完璧でないといけません。その上、発動させるにはそれに見合った魔力量が必要でっす。この魔法陣は線が足りませんね。ですので力はなく、唯の模様になってしまっていまっす」
なんて馬鹿らしい。それでも、執拗に幾つも罠になる物を設置している。用意周到だ。
「では、クローゼットの方へ参りましょう」
クリスティー先生がクローゼットへ向かう。クローゼットといっても、大きなウォークインクローゼットといった感じだ。
ああ、本当に鑑定眼を使って見ていると全然違うんだ。こんなに違うとは思わなかった。こんなの俺のミスだよ。
「ココ様、そんな事はありませんよ。経験が不足していただけの事でっす。ココ様はまだ8歳なのですからね」
「クリスティー先生、でも悔やまれます」
「そうですね。自分には力があったのに活用できなかった。それは悔しいですね。なら、今不足していた経験を補いましょう。次は後悔しなくても良い様にでっす」
「はい、クリスティー先生」
俺達があの日普通に何も考えず通っていたクローゼットの入り口。そこにはヴェールが掛かった様な仕掛けがあった。
「これは……えっと、精神干渉する魔法ですか?」
「はい、その通りでっす」
「ココ、見えているのか?」
「はい、兄さま。クローゼットの入口です。上下に何かあります」
シーゲルが確認をする。入り口の上下の四隅に小さな魔導具が設置してあった。こんなの、普通に通っていれば気が付かない。
「シーゲルさん、それも私が預かりまっす」
クリスティー先生がマジックバッグへ仕舞う。
「こちらの皆さんは耐性が高いのでっす。ですから、ソフィさんだけ掛かってしまったのでしょうね」
あの時、部屋に侵入した賊はこれらを設置して出て行ったんだ。
俺は、それに気付ける能力を持っていたのに見過ごした。悔しいぜ。こんな悔しい事はない。舐められている様な気がする。
クローゼットの中も鑑定眼を発動させながら見る。ああ、ここに毒を仕込ませたサシェが置いてあったんだ。ちゃんとそれも分かる。
他には見落としがないか、よく目を凝らす。
天井や床も絨毯の下も。隅から隅までじっと目を凝らして見てみる。
「クリスティー先生、壁が!」
「はい、よく見つけましたね。そうですね、壁にも仕込んでありますね」
と、言いながらクリスティー先生が唱えた。『ディスペル』
すると、1番奥の壁が白く光った。
「見えませんが、壁にも魔法陣が描かれていましたね」
そんなのどうやって描いたんだ!?
「ココ様、魔法陣用のインクがあるのでっす。描いて一定の時間が経過すると見えなくなるのですよ。しかし、ココ様の鑑定眼では見えていた様ですね」
「はい、薄っすらと」
「そうですね。あまり効果は高くありません。こんな事をして一体何をしたかったのかと言う程度の物でっす」
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