表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/105

5.試作から本製作へ

5.試作から本製作へ

「いかがいたします?降伏……ですか?」


「馬鹿な……今更白旗を上げたところで、魔王がこの国の完全なる支配をやめてくれるはずはないぞ。魔王軍は働き手とならない老人は殺してしまうのだろ?わしや兵士長などは即刻殺されてしまうだろう。更に若い男は奴隷……女は魔王国へ連れ帰って凌辱される……。」


「ですが王さま……戦うにも今の兵力では結界を保つのもやっとでして……。」


 工房の裏にあるという竹林を見ていたら日が暮れかけて来たので、メリアンちゃんとともに城の謁見室へ戻った。そこでは未だに3人だけで、魔王軍の侵攻に対してどう対処するか議論……というか、何の策もなく堂々巡りの無駄話を延々と続けていたようだ。


「おおお王さま……ちょちょっと俺に考えがあって……こここっ工房の事務長さんと打ち合わせをしてきました。ここっ工作をお願いして、明日の昼には試作品が出来上がるという事でした。一緒に見に行きませんか?

 ままま魔王軍に対する作戦を立てるのは、そそっそれからでもいいと思いますけど……。」


 3人の話は終わるはずもないので、取り敢えず俺なりの作戦を明日は披露してみることにする。俺だって多少は役に立つという事を示さねば、お役御免という事で城から放り出されてしまうかもしれないからな。


 無事急場をしのいで、次は本物の大魔導士とやらを召喚してもらい、見事魔王軍を撃退してから俺たちを安全に元の世界へ送り届けていただく……それまでの数日間の時間稼ぎは、なんとしてでも俺が行わねばならない。そうしなければ俺に明日はないのだ。


 魔王軍さえ追い払ってしまえば……俺は別に元の世界へ戻れなくても構わないと思ってさえいる。何せメリアンちゃんを筆頭に、事務長は美しさ抜群のお姉さんだし、工房の女性工たちだって皆美少女ばかりだったからな。俺が少しでも役に立つという事を見せつけておけば、メリアンちゃんは無理でも誰か一人くらいは俺になびいてくれるかもしれない。だったら俺は戻らないと、魔導士レルムに宣言するつもりだ。この夢が覚めずに済むものならば、ずっと覚めずにいてもらいたいのだ。


「うん?魔王に匹敵するような、強大な魔法呪文を思い出したのか?だったら頼もしい限りだが……。」

 すぐに王さまが顔を上げ、それまでのしかめっ面から笑顔に切り替わった。


「まさか……魔法のない世界から来た若者が、この世界に半日いたくらいで魔法を使えるようになるはずもありませんよ。何か工房で……役に立ちそうなものを見つけたのでしょか?」


 ところが魔導士レルムは、俺という存在に全く期待していない様子だ。そもそもお前が呪文を間違ったのがいけないんだからな!と、きつく追及してやりたいところだが、ここはぐっと抑えて……


「すすす少し……工作を事務長にお願いしました。魔王軍を撃退する武器になればいいなあと……。」


「武器……とな?魔法ではないのか?」

「はははい……武器です……。」


「ふうむ……遥か太古の時代……この国は剣士や弓道士の国だったらしい。いわゆる武人の国だな……大陸でも有数と言われる使い手が、山ほどいたようだ。当時のエルムグリムは軍事大国だったのだ。


 ところが魔王軍に攻め込まれて、剣士も弓道士も強大で広範囲に及ぶ魔法に対抗できず、たったの1日で全滅して支配されかかったらしい。なにせ魔王軍に近づく遥か前に攻撃され、討ち死にしていくのだからな……。


 そこに現れたのが一人の魔導士……彼が異世界から魔王を凌ぐ大魔導士殿を召喚し、魔王に一騎打ちを挑んで倒し、魔王軍を敗走させたと先ほど古文書を漁っていたレルムから聞いたところだ。


 以降この国では武術信仰から魔法信仰に大きく変わった。武器も防具も製造を禁じ、男は皆魔法技術向上に努めることとなったのだ。魔王軍に対抗するためにな……。」


 成程……そのようないきさつがあったのか……確かにな……強力な火炎魔法とか発せられたら、如何な剣の使い手でも、周囲を火に取り囲まれたら逃げ場を失うし……手が届かないほど遠くから攻撃されたら、戦いようがないだろうな……矢を放っても途中で燃え尽きるだろうし、何より破壊力が違い過ぎるからな。


 だからと言って武芸を禁じるような……そんな極端な政策をとらなくてもよかっただろうに。だが……だったら投石器やボウガン程度なら、王様や兵士長クラスなら知っていて当然か?こんなもの……実際の戦闘には役に立たん!なあんて完全否定されたらどうしよう……あの美人事務長だって非戦闘員なのだからな……。


「おおお俺は……まっ魔法の力がいらないといっているのではありません。げげっ現在城を魔法攻撃から守っている結界……これがなければ、一瞬でこの城は落城します。だから結界は必要です。


 まっ魔法結界は物理的に飛ばしたものは通すと聞きました……だからこちらから攻撃することができます。


 魔王軍からの魔法攻撃は全て防いで、こちらからの攻撃だけ当たるのです……魔王軍を追い払えますよ。今その武器の製作に取り掛かってもらっていて、明日の昼にはその試作品が出来るそうです。

 それを一緒に見に行きませんか?」


 俺の言っていることが通じていないようなので少し詳細に説明してから、もう一度誘ってみる。こんな理屈も通じないのかと思ってはいけない……俺のつたない説明が悪いのだ。


 シーソー型の投石装置だってボウガンだって、俺はさほど詳しいわけではないから、説明したところで伝わらないだろうし、何より頭の中で考えて速攻で否定されても困るのだ。まずは実際の試作機を見ていただいて、その上で、こりゃ駄目だ……と言われたなら仕方がないさ。


 百聞は一見に如かず……というからな……一緒に見に行っていただきましょう。


「試作……品……とな?魔王軍は既に城から十数里の地点まで進軍してきていて、明日かおそくとも明後日には城の正面に到達するところなのですぞ!そんな悠長なこと……。」

 ところが甲冑姿の兵士長は、そんな余裕はないとぬかす……。


「ででででっでは何か……たっ戦う作戦がありますか?いいい一万の兵士は……城を守る結界を張り続けることで精いっぱいなのでしょう?こここっ攻撃魔法を使える兵士は、ほとんどいないのでしょう?そそそその上で……策があるのですか?」


 何の策も持っていない……何も考えていないやつに限って、人の提案を重箱の隅をつつくかのように粗探しをして否定しやがる……だったら何か提案して見せろ!……とか思ってみたが……無礼者!なんて怒鳴られて、一瞬で炎魔法で焼かれたら怖いな……大丈夫か?俺……


「おお……兵士長……何か策があるというのか?」


「いえ……現有戦力で魔王軍と相対する策は皆目……結界をある程度の期間はり続けることは可能でしょうが、それも恐らく2,3日が限界かと……。」


「だったらどうする?その間に皆が裏門から逃げ出すのか?逃げ出してどうする?何処かに籠って反撃するのか?戦力はどのくらいだ?応援の兵士はいつ来るのだ?結界を張り続けるために残された兵士たちはどうなる?我らだけがこの場を、逃げ延びればいいと言う訳ではないのだぞ!」


「いえ……ですから、そのような作戦など私には皆目……。」

 王さまからのあくなき追及に、兵士長は頭を抱えて蹲ってしまった。


「だったら人の話を否定ばかりせずに、じっくりと聞いてみることも必要ではないか?


 いいだろう……明日わしも一緒にその……武器の試作品のお披露目とやらに立ち会わせてもらおう。

 その上で……どうやって百万の魔王軍相手に戦うのか、お聞かせ願えるかな?」


 やったぞ……どうやら王様は、異世界から来たばかりの、しかも大魔導士でもないただの子供の意見でも汲み入れてくれるくらいの広い心を持っている方のようだ……無礼打ちにならずに助かった……。


「はっ……でででは明日のお昼に……そそっそれまで俺は……どこに居ればいいですかね?どっ何処か城下町に宿……いいいいや……城下町の家々はとっくに破壊……どっ何処か泊れる場所……ありませんか?」


 自殺の途中で突然召喚された身の上……着替えどころか泊まる宿すら決まっていないことに今気がついた。


 まさかメリアンちゃん家に泊まれる……なあんて夢物語はあるはずもないし……かといって大魔導士に間違われて召喚されただけだからなあ……国賓扱い……は期待できそうもないな……。


 はっ……しししまった……大魔導士様でもないのに厚かましい!だなんて……言われたらどうする?何処か納屋の隅っこにでも……ひっそりと静かにしておけばよかったのかな?


「おお……構わんよ……お前さんはわしの国の窮地に召喚されたわけだからな……いわば国の客だ。城の客室に宿泊するがいい。食事は……戦時下なのであまり期待されても困るがね……。」


「おいっ連絡係……客人を城の2階の客室へご案内しろ。」


 王が目配せすると、兵士長がメリアンちゃんに俺を客室へ案内するよう命じてくれた。なんと……どこまでも広い心を持っている王様のようだな……助かった……。


「では文美雄様……こちらへ……。」


 おお……またメリアンちゃんとご一緒出来る……なんという幸運……メリアンちゃんに先導され、城の廊下をゆっくりと歩いていく……謁見室の扉の向こうでは近衛兵なんかが立番しているようだが、正面から城の外へ出た時同様、奥の居室の方へ進んでいってもただただ長い廊下……誰とも出くわさない……。


 確かになあ……結界を発生させて居る一万の兵士は、城の地下に居て交代で唱えているって言っていたからなあ……他に兵士なんてほとんどいないのだろうな……。


 途中でトイレの場所を教えられてから、客室へ案内される……客室はシングルベッドが一つと小さなテーブルに椅子が2脚あるだけの簡素なものだった……そりゃあなあ……VIPではないからな……。


 メリアンちゃんがすぐに夕食を持ってくると言ったので、だったら一緒に食べようと誘ったら、少しはにかんだ様子を見せたが、一旦客間を出て戻ってきたときは、2人分の食事を運んできた。


 やったー……ふんっなんであんたなんかと……と断られるのも怖かったが、勇気を出していってみてよかった。彼女は結構俺に対して好意的……というか、王様に言われて俺に対して親切にしてくれているだけなんだろうけど、それでも話しやすいし……親しみやすい……。


 食事と言っても豪華フルコースなんてものではなく、乾燥肉数枚と乾パンが皿に一山と、温かい豆のスープだけの簡素なものだった。それでもメリアンちゃんに聞くと客用なのでまだましな方で、メリアンちゃん達連絡係は通常だと冷えた豆のスープに乾パン5個が一食分らしい。


 万一を考え乾燥肉2枚と乾パン数個は、紙ナプキンに包んでポケットに潜ませておく。


 それでも超絶美少女のメリアンちゃんと共にする食事は……これまで食べた豪華……とはいっても両親とともにファミレスで食べたステーキくらいではあるが……よりもはるかにおいしく楽しいものだった。


 修道女の頭巾を外すとなんと桃色の髪の毛……染めているのか聞いたところ、染めるとは何ぞや?みたいな……肩までのおかっぱ姿が何とも愛らしい。この世界では髪の毛の色は青に赤に緑に黄色と……鮮やかな色が主流で、逆に俺のような黒髪は見たことがないそうだ。


 工房での事務長さんとのやり取りを彼女も聞いていたから、事務長さんの反応を見て俺が結構なやり手ではないかと勘違い……というか、随分と贔屓目で見てくれていることだろう。そういや事務長さんの髪の毛の色は、明るい赤だったな……。


 最近はアニメの実写化などで、この手の髪の毛の人を見ても普通に感じるどころかかえって親しみすら……。


 前の世界の俺は口下手で言葉足らずで、時には人を不快にさせることがあるようで、突然訳も分からずに怒鳴られる事があった。その都度どうしていいのかわからずにただおろおろするだけで、そうなると余計に相手が怒りだす始末だ……いわゆる負のスパイラルを抜け出すような話術も解決力も持っていないださ男だった。


 だがこの世界ではなぜかとびっきりの美女や美少女が、俺なんかのつまらない話を親身になって聞いてくれるし、突拍子もない作戦に乗ってくれようとしている……俺の夢の中だから当たり前だろうが、この世界は俺に向いている……。


 超絶美少女メリアンちゃんは俺が何を話しかけても笑顔で応対してくれるし……おかげで家族構成とか、友人関係の話なども伺えた。


 はあ……美少女の笑顔は最高の調味料だ……(これを名言としてメモしておこう……)


 明日の朝食も一緒に食べようと約束して食事後メリアンちゃんとは別れ、備え付けの歯ブラシ(木の持ち手に恐らく豚毛)で歯を磨いてからベッドで就寝……洗面所に水道の蛇口があるわけでもなく水差しの水をコップに注いで口をすすぎ、洗面器に開けて顔を洗う……シャワールームが部屋についてないのは残念だが……どうせ水系魔法でシャワーするみたいなことなんだろう……明日にでも魔導士レルムに聞いてみよう。明日があれば……だが……



 ふと目覚めて辺りを見渡す……と、部屋の隅のベッド以外には、中央にテーブルと椅子が2脚置いてあるだけ……昨晩見た光景だ。ううむ……夢の中で寝ても目覚めるものなのか?いや、寝たと感じているだけかもしれないな……思わず顔面を両手で覆うようにして叩いてみる。


「いったぁー……」

 痛いぞ……感覚がある。本当に夢なのか?


 取り敢えずベッドから起き上がると、Tシャツにトランクス姿で寝ていたので、急いで椅子の背にかけていたシャツとデニム……スエットを着こむ。靴は……確かベッドわきに揃えておいた……あった……ビンテージスニーカー……発売日に姉が学校さぼって、幾つも店を探し回ってようやく手に入れたもののようだ。


 体のサイズがほぼ同じな俺は、制服と下着以外はほぼ姉のおさがりを着ていた……というか、両親に言わせると飽きっぽい性格の俺に、服など買い与えてもすぐに着なくなってしまうだろうと見限られていたようだ。


 女性としては体も大きめで行動派の姉はかわいらしい服よりもどちらかというとメンズに近いか、メンズを多用していたので俺に買い与えるべき服はまずは姉に回っていたというか、姉が常に二人分の予算で好きな服を買い与えられ、着なくなった服が俺に回ってきていた。


 2歳下という事は流行も変わり、姉が着なくなる時期なのでちょうどよかったし、大学行っても捨てる服はわざわざ実家まで持ち帰ってくれていた。勿論姉だって女だからたまにスカートは履いたしワンピだって持っていたが、俺は古着の中から着れそうな服をチョイスして、部屋に持ち帰っていたのだ。


 それでもさすがに靴のサイズは、姉が24.5で俺が25.5だったのだが、ビンテージ物でサイズがなくて仕方なく……と悔しそうにしていたのを覚えていたのだ。


 寮で先輩に見つかると取られてしまわないかとわざわざ実家に戻り、姉が大切に部屋の押し入れに保管してあったのだが、困った時に売れば宿代くらいにはなるだろうと、荷物を多くは持てないはぐれ者の旅……急場しのぎも兼ねて履き替えように黙って持ち出して来たのだ。着替えは……駅のコインロッカーに入れたままだったからな。デニムのポケットの中の鍵が恨めしい……。


 取り敢えず洗面所で顔を洗っていたらメリアンちゃんが朝食を持ってやってきてくれた。朝食は乾パン数個ずつと温かいスープだけだったので、昨日の取り置きから干し肉2枚出して1枚ずつメリアンちゃんと食べることにした。


 メリアンちゃんは昨晩は干し肉1枚だけ食べて、乾パンも大半は紙ナプキンに包んで持ち帰ったからな。


 確かスープと乾パン2個と干し肉1枚くらいしか食べていなかった……恐らく家族の分として持ち帰ったのだろう……部屋にはご両親はいなくて妹が2人いるといっていたからな……妹はまだ幼くて働けず、メリアンちゃんが面倒を見ているようだ。


 元は国境近くの村に住んでいて、ご両親は魔王軍進軍の際の犠牲になった様で、仇を討ちたいと城勤めの連絡係を志願したらしい。俺は昨日取り置きした乾パンを全部渡し、朝食はきちんととるようメリアンちゃんに告げた。


 ううむ……細かな設定……というより、これは夢なんかじゃあないのかもしれない。夢のようなことではあるが俺は目覚めていて、この魔法が存在する世界で活動しているのだ……。昔何日間か連続で同じような夢を見た記憶はある。その夢は夢の中でも時間は経過し、確か1ヶ月位は過ごしたような感じだった……。


 だけど後から気がついたのだが、その間目覚めて普通に生活していた。そのうちに、このところ毎日同じ夢を見るなあ……と感づいたその日から、ぱったりと連載の夢は見なくなった。その夢の中で眠ることはなく、日付が変わるのは昼間起きて活動して寝てから……いつの間にか数日経過した後の世界を見ていた。


 そう考えると……恐らくこれは夢ではないだろう。やっぱり俺は崖から落ちていたところを、この世界へ召喚されたのだ……信じられない事ではあるが、レルムとかいう魔導士のおかげで助かった、という事になる。


 ドジな奴だと心の中で蔑んでいたのだが、実は命の恩人……敬わなければな……いや……そんな事よりも、この国は今攻め込まれて、風前の灯火だったな……まずいぞ……折角助かった命なのに……今度は魔王軍とやらに掴まって殺されてしまいそうだ……何とかせねば……そう考えたら急に背筋に寒気が……




 朝食後、時間を余していたが居ても立ってもいられず、工房へ行き鉈を借りると裏の竹林に出向いて、竹を数十本根元から刈り取って持ち帰り、工房入り口の隅に置いておいた。やれることは何でもやっておかねば……昨日同様、俺が近づいてもいやな顔されず、話しかければ対応してくれるので、なんだか頑張れる……。


 そのうちに昼となり、王様たち3人組が城から工房へとやって来たので、一緒に事務所へ向かう。


「どうだ……試作機とやらは出来たのかな?」


「ああっ……これはこれは王様自ら……こんな汚い工房迄出向いていただくとは……恐れ多い……おいっ、すぐにお茶と……お客様用のクッションの柔らかい椅子をお持ちしろ!」


 事務机に仏頂面で座っていた事務長は、王様に声をかけられると飛び上がって驚き、そうして事務所の入り口から工房に向かって大声で指示を出した。


「待て待て……今は召喚者様が提案された、魔王軍に対抗するための武器を作っているところなのだろ?だったら作業の邪魔をするでない。わしが来たからと言ってかしこまって茶など出す必要など全くない。それよりも、試作品が出来たのならそれを見せてはくれぬか?」


 王様は焦って右往左往する事務長をなだめて落ち着かせ、試作品を見せるよう頼んだ。


「ははっ……お恐れながら……こちらになります。」

 事務長に案内されて鋳物工場を通り過ぎて溶鉱炉前の広いスペースに、小さめのシーソーが置いてあった。


「これは試作の縮小器となります。これが縮小した城壁で……投石器の片側に竹で編んだ籠を固定し、そこに岩を置きます。そうして反対側に人が飛び乗ると……。」


 背の高さほどの城壁の縮小模型の手前に、長さ4m程のシーソーが置かれ、竹かごには人の頭程度の石が乗っている。シーソーの反対側に脚立の上から勢いよく人が飛び乗ると……かごに乗った石は勢いよく飛び上がり城壁の模型を飛び越してはるか先へと落下した。


「ほお……この岩は結界を通り抜けるのか?」


「はい……魔力を使わずに物理力だけで飛ばしていますから、魔法結界は何の抵抗も感じさせずに通過してしまいます。城壁の上に見張り番を立てていますが、彼女たちに合図させて魔王軍兵士の密度の高い場所目がけて岩を飛ばしてやれば、呪文の詠唱に集中している兵士たちに大きな被害が出るでしょう。」


 発案者の俺に代わり、美人事務長が胸を張って宣言してくれた。これで俺も少しは役に立つと思っていただけることだろう。


「投石器ですが……水を沸騰させて壺なんかに詰めて飛ばせばいい……岩とは違った被害が出せるはずです。出来れば素焼きの壺かなんかで直接火にかけてから飛ばすのがいいです。」

 投石器のさらなる使い方を伝授しておく。なんかの映画の一コマで学んだ知識だ。


「おお……ある程度岩を発射して敵軍まで到達することを確認できたなら、そのような弾も発射するといいかもしれんな……投石機の性能がはっきりするまでは……岩程度であればまだいいが、熱湯が誤って城壁上の連絡兵のそばに落下でもしたなら、被害は甚大……一気に敗勢になってしまう恐れもある。


 だから……狙いが定まってからにしたほうがいいな……。


 それと……あくまでも脅しとして……岩ならよければいい……といって安心していると、さらなる恐怖が襲い掛かるといったことを思い知らせてやるのです。だから……1,2発打てれば十分でしょうな。」

 事務長が俺の案に言葉を足してくれた。


「あと……城の城門開けようと、兵士が城壁をよじ登ってくるでしょ?その時に、熱した油とかお湯とかを柄杓を使ってかけてやるんです。大火傷はしなくても、慌てて手を滑らせて落ちて行くと思いますよ。」


 昨晩から考えた、さらなる作戦をつけ足しておく。人の話に割り込むなど……以前の俺には考えられなかったことだが、今は緊急事態なのだ……命がかかっているからな!


「ふうむ……飛行術を使って城壁の上まで上がってくるのだが……その時にかけてやればいいと申すか?」

「ひっ……飛行術って……飛べるのですか?」


「ああ……鳥のように素早くとまではいかないが……浮く程度であればだな……熟練の僧兵ならば自分ともう一人分くらい連れて、城壁の上くらいまでなら飛び上がれるのが普通だ。」


 ひえー……さっすが魔法の国……何でもありだな……。


「確かに……永い魔法攻撃で結界が敗れた場合は、飛行術で上がってくるだろうな。だが飛行術で飛び上がっているにしても、急に熱湯をかけられたならバランスを崩して呪文効果が消え墜落……なんてのもあり得るな……いい考えかも知れん。油と言っていたが、それはなんだ?」

 兵士長はさほど乗り気ではない様子だが、美人事務長は興味を示してくれたようだ。


「油ってあるでしょ?食用でも何でも……肉を焼いたりするときにフライパンにひいて焦げ付かないようにする……か、行灯などの明かり用の油……あれを鉄なべでぐつぐつ加熱すればお湯よりもさらに高温になります。


 但し……余り過熱し過ぎると火が付いて急激に燃え上がりますから、加熱し過ぎには要注意。家庭の火事の原因の上位に常に入っていますからね……。」

 攻城戦での戦い方を伝授しておく。熱湯の方が使う方も楽なのかな……


「おお……なかなか面白い事を聞いた……もしかすると熱湯同様投石器にも使えるやもしれんな……少し工夫してみるか……坊主……お前の知識は本当に役立つな……。」


 事務長が腕を組み、目を閉じて思案し始めた様子だ。なんか……口は悪いけど……結構やり手なのだろうな……このお姉さんは……ただの美女ではなさそうだな……。


「成程……熱湯と熱した油か……おお……おいっ、炒め物用の油があっただろ?最近は戦時下でまともな料理など出されることはないからな……料理長は怒るだろうが……止むを得ん。


 城中の油を集めておけ!それと鉄なべと素焼きの壺……城中探して集めておけ……柄杓もな……」

 王様は俺の作戦が気に入ったらしく、即座に油と鍋を集めるよう命じてくれた。


「それでは……早速台所へ行ってとってまいります。」

「おお……頼むぞ。」


 すぐに兵士長が工房を出て行った。なんとまあ……俺のとんでもない考えで、しかもつたない説明でもきちんと作戦として認めてくれている。ううむ……やる気出るー……。


「それからこれが……ボウガン……何ともすさまじい威力だな……。」

 事務長が拍子木のような厚みのある木材に、弓型の鉄板をクロスさせて取り付けたものを持ってきた。


「使い方は……こうやるのだな?」


 事務長は屈んでボウガンの先端の金具を踏み、腰のベルトに付いたフックを弦に引っ掛け、ゆっくりと立ち上がった。すると弓なりの鉄板は更にしなり弦が伸び、銃身中央のフックにひっかりとまる。


「これでここに矢……というか、鉄板を曲げで細長いパイプを作りました。先を斜めに切っておくのだな?」


 先ほどから俺に問いかけながら王様に説明……それでも既に試し打ち済みなのだろう……やり方は口頭で説明しておいたからな……美人事務長は先端が斜めに鋭く切られた細長い金属パイプをセットした。


「引き金を引くと勢いよく矢が放たれます。」

 ズゴッと……鈍い音がして、レンガを積んで試作した城壁模型にボウガンの矢が深々と突き刺さった。


「なんと……これは……十分な殺傷力がある武器ではないか……しかも初めて使うのであろう?おなごでも簡単に打てる……しかも魔法結界は通り抜けるのだろ?これが何十万……いや……一万丁もあれば……魔王軍に勝てるやも知れんぞ!」


 ボウガンを初めて見たのであろう……王さまもかなり興奮している様子だ……実は俺だって実物は初めて見るのだが……西洋の中世物の映画でしか俺だってこんなの見たことがない。飛ばす原理だって、大体を適当に話しただけだ……。でもまさかたった1日でこんな完璧に作れるなんて……凄い技術力だな……。


 図面って言ったって寸法どころか……まともな縮尺も出来ていない、俺が昔映画かなんかで見たボウガンの絵を簡単に描いただけだというのに……それだけ必死に図を読み取ってくれたという事か……。


「試作して分かったのですがボウガンは部品点数も多く、作るのに手間と時間がかかりますから、明日にもやってくるであろう魔王軍には間に合わないでしょう。まずは投石器の制作にかかります。これが十台ほどあれば……城門の上で湯を撒くのと併用すれば、うまくすれば魔王軍を一旦は追い払えます。


 それで時を稼いで、ボウガンを作りましょう……。」


 事務長が当面の目標は投石器十台の制作だと告げた。確かにそうだな……ボウガン数丁よりも投石器の方が破壊力はありそうだし、まず初めは投石器だな……そうして時を稼げばそのうちに本物の大魔導士様が召喚されてきてくれるさ……。


この作品に関しての評価や感想、およびブックマーク設定など、今後も執筆を継続する励みになりますので、お忙しいところ恐縮ですが、よろしかったらお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ