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3.城内見学

3.城内見学

「あつあの……おおお王様は武器はなくて……その……まままっ魔法で戦うとおっしゃいましたが、さささっ先ほどまでおとおとおと……お隣にいた甲冑を着た兵士……あっあの兵士の腰に下げているものはなななっ何でしょうか?おおおおっ俺には……剣に見えましたが……?」


 王様と話をするのは緊張するー……普通の人ともまともに話したこともないというに……敬語や謙譲語なんて全く分からないぞ。取り敢えず思いつく限り丁寧に……心掛けて……失礼のないように……。


 まずは思いついた疑問点を……今は広い部屋の隅へ魔導士レルムとともに引っ込んでしまったが、確かにあの初老の兵士は腰に剣を帯刀していたはずだ。あれが武器と言わずに何という?人のことを大魔導士と勘違いしたことからも、現有兵力は温存して、異世界からの召喚者だけに戦わせる設定なのかな?


 だとしたなら大間違いだ……悪いが俺は喧嘩すら一度もしたことがない……恐らく……というか確実に……弱いだろう。


「おお……どうやら兵士長の兵装のことを申しておるのかな?あれは……古代から伝わる戦い用の装束……いわゆる兵装だ。今では廃れてしまったが、遥か太古では岩をも切り裂く切れ味鋭い剣を帯刀し、その剣を数撃であれば耐え凌ぐという強靭な盾と鎧を装備して戦ったと言い伝えられている。


 今では刀鍛冶など刀工の技術は完全に断ち消え、甲冑製作の技術も消滅しておるのだが、戦時の兵装として形のみ伝わっておる。牛革をなめして形にした、いわゆる張りぼてに薄い銅板を張り付けただけの鎧と兜に、青銅製のただ重いだけの剣……見栄えをよくするために宝玉のかけらで装飾を施してはおるがの……。


 それもこれも……遥か太古に剣や槍で集団で戦う戦闘術が、魔王率いる軍勢の魔力に大敗を喫したのが転機なのだ。対抗するために古の時代も魔法技術の秀でた世界から大魔導士を召喚し、魔王軍を撃退したようだ。以降……この国では魔法技術の向上に全てをささげて国力をつぎ込んできた。


 だが……再び攻め込んできた魔王軍百万に対しわが方は約15万……2度の戦いで全滅し、国境を破られてしまったのだな……。」


 王さまが悔しそうに顔をゆがませながら、戦況を簡単にわかりやすく説明してくれた。なるほど……魔法に特化した魔王軍に対抗するために剣や槍などの武器は捨て、魔法技術の向上に努めてきたが、今回の魔王軍侵攻でまたもや敗れてしまい、仕方なく異世界から大魔導士を召喚しようとして、間違って俺が召喚されてしまった訳か。良く見れば滑稽だと思っていたが、ただ単に過去の名残と言う訳か……。


 いや……でも……それって……まずいんじゃないか?


 兵力も百対一だし勝ち目なんかなさそう……兵法とか戦術なんて、とても及ばぬところで勝敗は決している。俺でも役立てるかもしれないなんて……余りにも大それた考えを持ってしまったが、もう無理だ。


「ああ……そそそっそうですか……ででででっでも俺は魔法なんて使えませんよ。すっすぐに代わりの大魔導士とやらを召喚したほうが、いいいいいいと……思いますよ。」


 間違ったのだからすぐに正式な大魔導士を召喚したほうがいい……俺にかまっているよりその方が早い。俺は……大魔導士とやらが戦って勝利に導くのを、ただ見ているだけでいいさ……だって、戦えないからな。変に戦おうとして、ゲームオーバーを早めてもいかんからな。


「おお……そうだのう……召喚用の呪力が溜まる迄数日かかるらしいが、それまでこの国が持つかな……。」


 王様が寂しそうに中空を見つめながら答えた。ひえー……魔王軍に征服されてしまったなら、俺はどうなってしまうのだ?まさか捕虜になる前に、元の世界へ戻して……なんてしてくれるとも思えない……。いや……どの道、元の世界へ戻されるとなったら俺は現実に戻されて死んでしまうのか。それは嫌だ……。


「レルムよ……今聞いた通りだ……正しい世界から再度大魔導士様を召喚するために、数日かけて呪力を溜めておきなさい……兵士長はその間なんとしても、王都を守り抜くのだ……。」

 王が力なく魔導士と兵士長に命じた。


「はっ……しかし王さま……………………」

「なんと……では如何する?」

「はあ……………………」

「しかしそれでは………………」


 すると今度は兵士長と魔導士が2人連れだって玉座に……そうして何やら3人で密談を始めた。


 まずいな……間違って召喚した俺をどうするか……なんて相談をしているのだろうか?召喚するための呪力を蓄えるだけで数日かかるのであれば、戻すための呪力も同じくらいかかって溜める必要性があるだろう。


 そうなると……俺が帰れるのは早くてもこれから十日後以降……その間には恐らく雌雄は決していることだろうな……最悪のシナリオは大魔導士の召喚が間に合わずに、魔王軍にこの国が征服されてしまい、俺も一緒に捕虜となってしまうケース。


 そうなった場合、魔王とやらに素直に事情を話せば、堪忍してくれるだろうか……まあ、無理なんだろうな……なんせ相手は魔王だからな……食われる危険性はあっても優しく生かしておいてくれるはずはない。


 まずい……まずいぞ……何とかして十日間は耐えねばならない……いや……せめて2週間……それくらいの余裕は欲しい……何せ再度召喚する大魔導士が使えるやつかどうか、見極める期間も必要だろうからな。


 そもそもこの走馬灯代わりの夢がどれだけ続くか分からないが……それでも足掻けるだけ足掻きたい。

 だがしかし……どうやる?


「そそそっその……のののっ残りの兵は一万とお聞きしました……そそその一万は精鋭で、まままっ魔王軍百万とは言いませんが、じゅっ十万や二十万に匹敵する力を持っているのでしょうか?」

 まずは現有兵力の実力を知ろう。それでどのくらい時間が稼げるものか……計算してみるか……。


「まさか……精鋭部隊はとっくに出撃して散っているのですぞ……残った一万は僧侶系で、回復魔法や結界を張ることは出来るが、まともな攻撃魔法は使えません……城を防御する結界魔法を1日中交代制で詠唱しております。城の防衛の戦力なので、戦闘には不向きかと……。


 むろんここから西方及び、南方にも北方にも守備兵は配置しておりますが少数の上、彼らを投入してしまっては王都陥落時に逃げ場を失います。何より今から呼び寄せても到着までに数日かかり、間に合いません。」


 甲冑姿の兵士長が吐き捨てるかのように答えた。

 なんと……残有兵力ではまともに戦えないだとー……終わりだ……終わり……。


「勿論魔王軍は、こちら側の兵力に関してさほど詳しくはないわけで……何より太古の時代より魔王軍はこの国を支配下に置くべく侵攻を繰り返してきているのです。その都度撃退して追い返しているので、今回こちら側の防衛兵力が瞬く間に駆逐されても、一気に攻め立ててはきません。


 あくまでも慎重にゆっくりと攻め込んでくるでしょう。何せ何度も苦渋を味わっておいでですから……。


 我々人間にとっては何世代も前の話であったとしても、きわめて長命の魔族ならば、恐らく前回の侵攻時も魔王であったはずですからね。その時の様子は逐一記憶していることでしょう。」


 今度は魔導士が続けて答えた。なるほど……これまでの戦歴では最終的にはこの国が勝って追い返しているのか……だから調子に乗って攻めてはこないだろうと……だが、それでいつまで持つ?


「あ……あの……その……まままっ魔法も使えないおおおっ俺が力になれることはないかもしれませんが、とっとっ取り敢えず城の防御態勢とか、ままま魔法戦のやり方など……みっ見たことがないもので……じじじっ実際に説明いただけますか?そっその……見学だけでも……。」


 ここでただじっとしているわけにはいかない……なんとしてでも足掻いて見せるさ……駄目そうだったら説明のスキを突いて城を逃げ出せばいい……何処か森の中にでも逃げ込めば、魔王軍にも見つからずに生きていけるかもしれない。まずはこの部屋から出ることが、先決だ……。


「おお……魔法なんて存在しない世界から来たのだったな……いいだろう……異世界の城の姿を見てみるのも思い出になるであろう……もしかしたら実は魔法の才能があって、実際に魔法の呪文を唱えているところを見学すると、自分でも使える……なんてことが起こるかもしれんしな……。」


 先ほどまで3人でひそひそ話をしていた王が、半ばやけくそ気味に了解してくれた。


「この国では幼少時代から魔法教育が盛んで、古代語の発音練習や精神集中のための禅などの鍛錬が行われます。そうした修行を十年続け、ようやく高卒程度から基礎魔法が詠唱可能となるのです。


 ですから……いくら隠れた才能がおありになったとしても、付け焼刃では戦力になり得ません。ですけどまあ……この場に居ていただいても、彼に何かお頼みするといったこともあり得ませんから……ご案内差し上げればよろしいでしょう……異世界に興味がおありであれば……ですが……。」


 俺が役に立てる可能性などほとんどないとばかりに魔導士のレルムは、王の考えを百パーセント否定したが、それでも城を案内してくれることに賛成した。やったよかった……取り敢えず話は繋がった……。


「おい連絡兵……彼は多田羅文雄殿と言って、この度異世界から召還された大魔導士であるはずの人だ。この城の中の案内と、実際に魔法を使っているところを見せてやってくれ。」


「はっ……かしこまりました。」


 すると続いて甲冑姿の兵士長が先ほど飛び込んできた美少女に向かって、俺を案内するよう命令してくれた。なんという幸運……身長150よりもっと低いくらいだろうか……華奢な体つきで顔立ちからすると恐らく同学年位のかわいい系美少女だが、修道女姿が悩ましくも色っぽい……。


「どうぞこちらへ……。」


 美少女に先導されて王の謁見室とやらを出て、広い廊下をまっすぐ進んで階段を降り、映画に出てくるような曲がりくねったアーチ状階段を下りてエントランスの広間を通って正面玄関から外に出る。


 彼女とも親しくなって、色々と詳細を聞き出す必要性があるな……だがどうやって?偉い王様とも話しにくかったけど……更に苦手の若い女の子だぞ!下手な質問をして、馬鹿じゃないの?こいつ……なんて蔑まれた目つきで見られたらショックだな……


 見上げると緑色の空……うん?緑色?そうだ……空の色が青いのは、自然の摂理のはずだよなあ……だがこの世界は魔法が常識の世界……物理法則だって違うのかもしれないぞ。会話するきっかけはなんでもよくて、何も思いつかなければまずは天気の話……とかなんかの本に書いてあったような気が……ようし……。


「あっ……あの……」

「はっ、何でしょうか?」


 何とか自然の会話を……と考え声をかけてしまったが、後が続かない。なのに振り向いた美少女は、満面の笑みをたたえて、俺の言葉を待っているように見える。頑張れ……俺……彼女は俺の夢の中の彼女だから大丈夫だ。心臓がバクバクと脈打って……口から飛び出そうだが……頑張れ!


「えっえーと……その……」

 ふうっ……やっぱり緊張するな……やめておこうかな?


「何なりとお申し付けください。大魔導士様がお望みの所へご案内するよう申し使っております。それに……この世界へ初めて召喚されたのですよね?お気づきの疑問点など何でもおっしゃっていただければ、お答えいたしますよ。」


 振り向いた美少女は満面の笑みを浮かべながら、俺の言葉を待ち受けている様子だ。いやーっ……だから……緊張して話しかけられないのだから……こっち見ないでくれよ!


「こここ……こっこの世界では……そそそっ空の色は……みみみ緑……なのかい?」

 とはいえこのままでは埒が明かないので、俯いたまま何とか声を振り絞ってみる。


「いえ、青色ですよ。」


 恐らく蚊の鳴くような小さなささやきであっただろうが、彼女は聞き取って答えてくれた。修道女姿の美少女は俺の質問に対し笑顔のままで答えると、前に向き直ってそのまま歩きだした。ひえーっ……取り敢えず答えてはくれたけど……一言だけって……いや……一言話しかけただけで、あれこれ聞かれないだけ気楽なのか……いい風に考えよう……ようし……


「えっ?でででっでも……今は緑色だけど?」

 取り敢えず現況確認だ……この状況をごらんよ……といいたい……。


「ああ……このお城は今、魔法結界に包まれているので、周り中全てが緑色に見えているだけです。普段は空の色は青色ですよ。大魔導士様の世界では、魔法結界は緑色ではないのでしょうかね……。」


 恐らく俺の顔は真っ赤に硬直して息も荒く……ちょっと怪しい感が丸出しのはずだが美少女は少しも動じず、空を見上げるでもなくそのまますたすたと前庭中央へと歩いて行こうとする。


「けけけっ結界?って言うと……あああっアニメとかで僧侶系が使う……ひっ光の……かかか……壁みたいなもので、何物をも通さない……ばっバリアー見たいなものなのかい?」


 ともかく話しかけるのだ……この異常な状況を理解するにはそれしかない。RPGの基本だ……恥ずかしがらずに、ともかく話しかける……だがやはり……魔法世界というのはすごいな……結界……


「あああっアニメ……ばっばり……何でしょうか?魔法結界は魔法結界ですけど?」


 またまた美少女は立ち止まり、少々不安そうに首をかしげながら振り返った。ううむ……会話が成り立っていない……何とか話そうとはするのだが……俺の会話術ではこれが限界か……???


「だっ……だから……魔王軍からの炎魔法とか……まま魔法攻撃を城に届かなくするための膜なのだろ?」


「ま……く……うーん……そうですねぇ……。」

 美少女は肯定も否定もせずに少し微笑んで踵を返すと、再び歩き始めた。


 美少女は俺の質問に反応してくれるのだが、会話が成り立っているのかどうか……不思議な感覚だ。やはり翻訳魔法とやらがうまく機能していないのかな?先ほどまでよりは、美少女の言葉が聞き取りやすくなったように感じるのだが、それは逆に俺の言葉が伝わりにくかったりするのかな?


 広い前庭の中央はロータリーのようになっていて、砂利道が中央の噴水のある池の周りをぐるりと囲み、ここから前後左右に道が伸びている。


 城は西洋風というか……少なくとも日本のお城のような形ではない……というか、日本のお城の石垣部分がお城になっているといったほうがいいだろうか。俺がこれまでに見た写真などから選択すると、万里の長城を厚くして中に人が住めるようにした……そんな感じかな?


 四角く切りだされた石造りで、外観は裾が広く山形に傾斜するように積み上げられていて、所々小窓が開いているが、それ以外はこれと言って飾り気のない無機質な造りで、屋根は平らで恐らく屋上があるだろう。


 高さは15から20mくらいかな……3から4階建てと言った感じ。



 城からの道はロータリーをぐるりと回ってさらに先へと進むと、そこは高い城壁に設けられた、分厚い木の扉に阻まれていた。城壁は城より少し小さめに切り出された石で組まれているようだ。


 城からここ迄、恐らく5百m程度はあるだろう……砂利道以外はきれいに刈りこまれた芝生が張られていて、所々にきれいな花が咲く花壇も設けられていた。


「ここが城門……中央門です。兵舎もあって、通常時は通行する人々の認証を行っておりますが、今は戦時中ですので門は閉ざされ、緊急事態として一般市民の城への出入りは禁じられております。


 城から出ることは出来ませんが、門の隣の梯子を上って城壁の上から外の様子を見ることは出来ます。ご覧になりますか?」


「ああ、はっはい……ぜひ……。」


 とりあえず無理に会話しようとはせずに、まずは色々と案内していただこう。聞きたいことがあれば聞けばそのことには答えていただけるのだからな……


 城壁は1m角程度の切り出したのであろう石を、互い違いに積んで造られているようだ。日本の城の石垣にも似ているが、こちらの方はより加工されていて、人手によって組み合わされて積まれている。


 近くに大きな石切場でもあるのだろうな……そうでなければ……恐らく一辺1キロはありそうな延々と続く長く高い塀を、容易に作り上げることは出来まい。それとも……魔法の力で遠くから石を飛ばして来て、積み上げたのであろうか……。


 城門の隣の兵舎の中を覗くと中央部に大きな机があり、修道女姿の女性兵士が複数人座っていた。


 人の背の倍以上は高さがありそうな分厚く重厚そうな木製の門扉……この部分だけ城壁の石がアーチ状に積まれていて、人や馬車の通行が可能となっている。


 その門扉の枠部分に鉄製の梯子が設けられていて、修道女姿の美少女が先だって上って行くのを、遅れずについて行く。ふう……高さは十m近くあるのではないのだろうか……落ちたら痛いではすまされないくらい高さの城壁の上は幅が2mくらいあって、人が余裕で往来できるくらいの案外居心地のいい場所だった。


 広い城壁の上をこれまた修道女姿の女性兵士が、百m程の間隔で立っていた。恐らく魔王軍とやらが攻めてくるのを見張っているのであろう。そうして俺を案内してくれている美少女のように、定期的に王さまの所へ状況報告に行っているのだろうな……。


「城壁の外側は城下町となっておりましたが、魔王軍の侵攻に備えて住民は全て地方の都市へと避難し、拠点にされるのを恐れてあらかじめ住居の大半は撤去済みとなっております。」


 緑色の透明な壁を通してみる眼下の城下町は、条里制の整然とした道路の格子がうかがえるが、家々の大半は屋根を剥がされ壁を打ち抜かれ、荒れ果てたゴーストタウンと化していた。なんと……魔王軍の攻撃を受けたのではなく、受ける前からすでに壊していたというのか?


 拠点……そうか……魔王軍が城下町の家々を利用して、そこから攻撃を仕掛けてくることがないよう、あらかじめ破壊したという事か……


 城の城壁から遥か地平線まで延々と続く、ゴーストタウンと化した城下町……ここが王都なのか……こんなんで仮に魔王軍を追い返したとして……戦後の復興など可能なのか?いや……今はそんな先の心配よりも、目先の魔王軍の進行を食い止めることが重要か……


「ここここの……結界というのは厚みはあるのかい?」


「結界の厚み……ですか?恐らくこの城壁の厚さくらいはあると思いますけど?」

 美少女が首をかしげながら答える。質問の意図が全く通じていない様子だな……


 今では彼女はいちいち俺の方へ振り向かずに答えてくれるから、緊張せずに話しかけられて楽だ。もしかすると緊張して話せないことに気付いて、なるべく近づかないよう気を使ってくれているのかな?


「えええっ?じゃじゃじゃあ……俺たちは今、けけ結界の中にいるのかい?でででっでも……息もできるし、何の抵抗もなく動くこともできるけど?」


 見上げても緑……城下町を見下ろしても薄い緑で、振り向いて城を見ても薄く緑がかって見える……そう……恐らく城壁を取り囲むようにして張られているであろう結界の中に俺は今いる……なのに何の抵抗も触った感触もないぞ!実際役に立つのか?


「魔法結界はあくまでも魔法効果を阻むためのものですから、人は素通りできますし物だって……ですが例えば魔法で飛ばした石つぶてなどは通しません。魔法で発生させた炎の玉とか雷撃なども通しません。


 あっでも……魔王軍の兵士は攻撃魔法を唱えたり魔法結界に保護されていたりするので、魔王軍の兵士は結界が破れない限り、通ることは出来ないと思いますけど……。攻撃魔法の詠照を継続していなくても、ある一定時間は発した個体も魔法の影響を受けるので、結界は通れないはずですね。」


 成程……魔法効果だけ通さないのか……それと、魔王軍兵士……へえ……大したものだ。


「けけっ結界って……城壁のような壁がなくても魔法効果だけは通さないように……でっできるのだろ?だだだったら別に……この城だけではなく、城下町含めた全体に結界を張ればよかったんじゃあないのかい?


 そそそっそうすれば人々を避難させることも、いい家々を破壊することもなかったんじゃあないかと思うのだけど……結界内でも普通に生活できるのだろ?」


 かろうじてだけど、長く話せるようになってきたな……彼女は俺なんかの言葉でも無視せずに、何とか応じようとしてくれるからな……かわいいだけじゃない……すごく優しい温かみがある子だな。


「結界はその強度と効果範囲によって魔法を唱える兵士の数が変わります。全員で延々と詠唱を続ける必要性はありませんが、時とともに薄れて行くので効果を持続させるための詠唱と、魔法攻撃によって疲弊した部分を補修するための詠唱が必要となります。なのでどこまでも範囲を広げるわけにはいかないのです。」


 美少女は眉をひそめて厳しい表情で答える。成程……闇雲に結界を広範囲に張ることは出来ない訳か……残存する一万の兵士では、城全体を覆う結界が限界という事か……というか、守るだけではなく戦わねばならないから、一万の兵士を防衛に回して残り十万の兵士で突撃したという事か……。


「へへっ兵士って……剣で斬り合うのではなく魔法で戦うという事は、男女の区別なく君のような女性の兵士もたくさんいたのかい?」


「いえ……私は国軍の兵士の数が足りないそうで、急遽参加を許されたただの連絡係にすぎません。この国では女性は兵士になって戦うことは出来ません。兵士になって国を守ることができるのは男性だけです。」


「ええっ……でででも……この城壁の上に立って見張りを続けているのも皆女性……女性兵士なのだろ?」

 兵士というよりみんな修道女っぽい服装だが、それでも城壁の上から敵の進行具合を見張っている兵士のはずだが……。


「いえ……私を含めてここに居る女性は全て、ただの連絡係で兵士ではありません。兵士の皆さんは全員城の中か地下に詰めていて、そこはいくつもの部屋に分かれていて、部屋ごとに順に休んだり食事をしたり結界を補修したりするための活動をしています。」


 美少女が不服そうにほほを膨らませ気味に答える。なるほどなあ……自分の住んでいる国が侵略されているのだからな……女性だって戦えるものなら戦いたいよなあ……なんせ敵の捕虜とかになったら、扱いは男性も女性も変わらないだろうからなあ……。


「じょじょ女性は魔法を使えるのかい?だったら戦えると思うのだけど……。」


「いえ……女性は学校の授業で魔法教育を受けることは出来ません。なので魔法の呪文も知りませんし、口にしたところで付け焼刃では、魔法効果を得ることは出来ないでしょう。なので戦えないのです。」


 美少女が視線を前に向けたまま、肩を落とし残念そうに俯き気味に答える。成程なあ……魔法は幼い時から古代語を学んだりしなければ使えないと、さっき魔導士が言っていたからな……。


「ここっこの世界で戦う手段は魔法って聞いたけど、けっ剣はお飾りとして……弓矢とかは使わないのかい?」


「ゆみ……や……?ですか……?一体それはどのような魔法効果でしょうか?」

 突然美少女が振り向いて俺の方へと視線を移す。だから……あまり見ないでくれよ……思わず両手が前方に出て、彼女を遮ろうとしてしまう。


「いいいいやっ……ゆゆゆ弓っていうのはこの……はっ半月形をしていてげげげ弦が張ってあって、やや矢をつがえてこうやって引き絞って放つと……矢が飛んで行って的に突き刺さる……みたいな武器だけど?」


 俺は上げた両手で中空に弓の形を描いて、矢をつがえて放つ仕草をして見せる。俺の仕草をじっと見つめるその視線……凄まじく可愛いくて……ドキッとさせられる……見た目少しだけど俺より年下だよな……ちょっと緊張がほぐれてきたような感じがするが……まだまだだ。


「はあ……土系魔法の石つぶて……とは違うのですよね?ゆみや……ですか……聞いたことがありません。矢が突き刺さると……どうなるのですか?」


「そそそりゃあ……敵に突き刺されば血が噴き出すし……下手したら死んじゃうなんてこともあったりするはずさ。弓の種類にもよるけど、結構射程距離があって遠くの敵を倒せるはずだけどね……。」


 と弓矢の説明をしては見たが、俺は別にアーチェリーも弓道も経験したことはない。ただ単に一般的な弓矢に対するイメージを説明したに過ぎないのだが……ぼろが出ないうちにやめておこう。それにしても弓矢を知らないとは……だがまあ……兵士ではない非戦闘員のようだからな……仕方がないか。


「それよりも……この城には工作室はないのかい?」

 武器は存在しない世界としても、何か役立つアイテムでも入手できないか、工作室の場所を聞いてみることにした。なければ作ればいいとも思えるからな……。


「こうさくしつ……ですか?ふうむ……壊した城下町の家を修復するための資材置き場と、建築用の金物類を作っている所ならございます。ご案内しましょうか?」


「ああ……たっ頼むよ……。」


 彼女に案内されて、来た道をまた戻って行くことになった。


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