第47話 襲撃者達の引き渡し
「……そういえばあの人達はこれからどうなるの?」
「あいつらか? まずは尋問されて、闇ギルドやこれまでの罪についていろいろと取調べを受けることになるだろうな。そのあとは罪状によってだが、死罪か良くても炭鉱送りだろうな」
「………………」
フェリスが教えてくれるが、それも当然か……日本みたいな大規模な刑務所なんかもないだろうし、囚人達の食費や寝る場所の確保もそう簡単にはできないだろうからな。それにこれからこの人達が受けるこの世界の尋問は、元の世界とは比べるまでもなく厳しいものだろう。
「……コンソメはまだまだたくさんあるから、スープだけあの人達にあげていいかな?」
「……ソーマらしいな。ああ、私も手伝おう」
「お人好しにも程がある。……でもソーマらしい」
「最後の晩餐みたいなやつだな。それくらいはいいんじゃねえか」
「ふっ、さすがソーマ様、慈悲深いのですね」
「いえ、これは慈悲でもなんでもないです。ただの自己満足ですよ」
ティアさんは慈悲というが、こんなのは慈悲でもなんでもない。ただの俺の偽善と自己満足だということは分かっている。この人達が何をしてきたか俺は知らないし、もしかしたら人だって殺しているかもしれない。
少なくとも俺を殺そうとしてきたこの人達を逃したり減刑を望んだりする気はない。だからこれは単なる俺の自己満足だ。これから死罪や炭鉱送りになり、まともな食事も取ることができなくなるであろうこの人達に、せめてスープの一口をあげたところでバチは当たらないだろう。
……本音を言うと少しの同情もある。どんな理由で闇ギルドに所属することになったのかは知らないが、最終的には依頼をした者と闇ギルドに騙されて見捨てられたようなものだからな。
さすがに戦闘能力のない俺がスープを渡すのを止められたため、代わりにエルミーとフェリス達が少しずつのスープを拘束した女性達に飲ませていく。中には涙を流す者さえもいた。これからのことを考えると、決して大袈裟なことではないんだろうな。
「よし、街に着いたぞ」
食事を終えて少し進んだところに街があった。この前まで俺がいたアニックの街よりもだいぶ小さな街であったが、ちゃんとした防壁もあるくらいの街だった。
門番の人に事情を話して襲撃者達を引き渡す。エルミー達やティアさんがAランク冒険者であり信用があったため、すぐに確認が取れて襲撃者達を引き渡すこととなった。
「……スープうまかった、感謝する」
この街の憲兵達に襲撃者達を引き渡す際に、一際大柄な女性が呟いた感謝の一言が心に残った。
「あの、貴方様がアニックの街で有名な治療士様である黒髪の男神様でしょうか?」
「……黒髪の男神かは分からないですが、アニックの街で治療士をやっておりますソーマと申します」
襲撃者達を憲兵達に引き渡し、詳しい説明をしているところに、ひとりの30〜40代くらいの女性が入ってきた。エルミー達やティアさん達が前に出てくれるが、武器なども持っていないし、敵意があるわけではなさそうだ。
「おお、噂通りとても綺麗な男性ですね。申し遅れました、この街の代表者のルキノと申します」
どうやらこの女性はこの街の代表者の人らしい。それにしても、隣の街にまでその噂は広まってしまっているのか……
「王都へ向かわれる途中で襲撃があったと聞いております。ソーマ様がご無事で何よりでした。本日はこの街にお泊まりになられて、明日出発されると聞いております」
「はい、今日はこの街の宿でお世話になる予定です」
襲撃者達を引き渡して、今の時間から出発してもすぐに日が暮れてしまう。それにみんなも昨日はちゃんと眠れていないので、今日はこの街でゆっくり休んでから、明日の朝早くに出発する予定となっている。
「なるほど。ソーマ様、お願いがあります。旅の途中……しかも襲撃者達に襲われてとてもお疲れのことと存じますが、どうかこの街にいる重傷患者を治療してはいただけないでしょうか?
この街は小さい街で治療士様がおりません。まだ動ける者は数日かけてアニックの街へ向かい、ソーマ様の治療を受けることができるのですが、数名の者はあまりに酷い怪我で動かすことができないのです。どうか、その者達を治療していただけないでしょうか。もちろん治療費はお支払い致します。何卒よろしくお願いします!」
「わかりました。それでは患者さんのところまで案内してください」
「………………へっ? そ、そんなに簡単に引き受けていただいてよろしいのでしょうか?」
「はい。実は襲撃者を倒してくれたのはここにいるみんななので、俺はそれほど疲れていないんです。それに明日にはもう出発してしまうので、治療するなら早いほうがいいでしょう」
「おお……あの治療士とは違って、噂通り本当に優しいおかたなのですね! ありがとうございます、ソーマ様の御慈悲に甘えさせていただきます!」
この街でも例の治療士の評判は悪いらしい。そのおかげで俺の評判が勝手に良くなってしまうのだが……
ルキノさんに案内された治療所にいた見るからに重傷な2人を回復魔法で治療し、そのあと家から動くことができない人を治療した。ルキノさんや家族の人達にとても感謝され、そのお礼と言われてこの街で最も良い宿にみんな泊めてもらった。
馬車の事故や魔物に襲われたらしく、確かにかなりの大怪我であったが、普通の回復魔法で治すことができたのは聖男というジョブの力なのだろう。宿のことは除いても、この街にいる重傷患者を治せたことだし、この街に寄れてある意味良かったのかもしれないな。
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