最終話 死がふたりを……
この最終話は第3者視点で書かれています。
それから、ユリウスは彼女の隣に居続けた。
過去の傷は時折首をもたげ彼女を苦しめたが、その都度彼は隣で支えていった。
最初は諦めていた子どもについても前へ進んでいこうとする彼女の決心により3人授かることが出来た。
長女のヒイナはミアガラッハ家を、そして長男のジークハルトはモンティエロ家をそれぞれ継承した。
共に歩んでいく中、互いの親達を見送っていった。
そうして気づけば『あの10年』より長く濃密な時間を一緒に過ごしていった。
そしてリリィの母親であるメイシーを見送った頃から彼女は病を得て伏せることが多くなった。
日に日に弱っていく彼女を見ながらユリウスは理解していた。『別れの時』が近いと。
「リリィ……」
ベッド横の椅子に腰を下ろし横たわる彼女の手を握る。
呼吸は荒く苦しそうにしていた。
「あまり長い時間は父様自身のお身体にも障ります」
娘が父の体調を心配して声をかける。
病は無いが彼も明らかに年齢と共に衰えていた。
だからそんなに長くは居られない。
それでも愛する人の傍に出来る限り居てあげたかった。
「わかっているよ。でももう少しだけ」
これが『最後』になるかもしれない。
それに寂しがり屋の彼女を置いていけない。
「ユリ……ウス」
彼女が小さく名を呼ぶ。
「大丈夫、僕なら傍に居るよ」
その言葉に彼女は安心したのか少し微笑んだ。
ありがとうあなたが居てくれて、幸せだった。
そんな言葉が伝わってくる。
「僕もだよ。君のおかげでこんなにも幸せな人生を歩むことが出来たんだ」
「……怖い……あなたの顔が見えなくなって……もう、終わるんだなって……天に還るんだって……わかってきちゃって……」
呼吸が更に荒くなり肩で息をし始めた。
それは『終わり』がもう間近まで迫っていることを示していた。
「ごめん……ね。もっと一緒に居たかった……だけど、私は先……に………もし、生まれ変わりが……あるなら……今度も、一緒に……今ま……あり……が」
大きく息を吸い、握りしめた彼女の手から力が消えていった。
愛する人を看取ったユリウスはうつむき彼女の手に額をこすりつけ、涙した。
「僕の方こそ、ありがとう。リリィ……」
□
「父様。あの、やっぱりそろそろ……」
父の体調が気になり再度部屋を覗きに来たヒイナは穏やかな顔で横たわり血の気が無い母とそんな彼女の手を握って俯く父を見て察した。
母の命が終わったのだと。
「母様……っ!!」
涙を堪えながら傍へと寄っていき父の背中を優しく叩く。
「父様……母様は…………え?父様?」
そして、ある事に気が付いたのであった。
□□
虹色に輝く光が溢れる空間。
リリィはそこに立ち尽くしていた。
「そうか、私は……終わったのね」
不意に寂しさがこみ上げてくる。
今までずっと傍に居てくれた夫が今は居ない。
膝を抱え座り込んだ。
この後どうなるのだろうか。
美しくも寂しいこの空間にひとりで居なければならないのか。
「ユリウス……」
愛する人の名を呟く。
すると……
「やれやれ、こんな場所があるとは驚きだね」
長年聞いてきた声に驚き振り返るとそこには確かに愛する人が立っていた。
「ユリウス!?え?しかもその姿……」
彼は2人が結ばれた頃の若々しい姿であった。
「君も同じだよ。あの頃を思い出すね」
確認すると確かにリリィ自身の姿も結婚した時に戻っていた。
「あら、私も!?ていうかえっと……ちょっと待って。ここにいるって事はあなたまさか」
「うん。どうやら君を見送ってすぐ、心臓発作か何かで僕も死んでしまった様だ」
「はぁぁぁぁ!?いやいや、それってあっちでヒイナ達が無茶苦茶慌てているんじゃないの!?」
「ははは。まさか両親が同時に亡くなるなんて夢にも思ってなかったろうね」
いつもの調子で笑っている夫にリリィはがくりとうなだれる。
「あなたねぇ……笑い事じゃないでしょうが。ごめんねヒイナぁ。お母さん達最後に無茶苦茶迷惑かけちゃった……」
今頃、子ども達は大慌てしている事だろう。
「まあ、でも仕方ないさ。おかげで君に寂しい思いをさせずに済んだ。それに、僕自身君と離れるのは耐えられなかったからね」
「本当にあなたって人は……」
確かに若い頃に自分より先に死なないで欲しいと伝えていたがまさか看取った直後に追いかけて来るとは思わなかった。
遺された子ども達の事で頭を抱えるリリィの手にユリウスがそっと自身の手を重ねる。
「もうあの子達も立派な大人さ。だから心配ばかりせず託せばいい。リリィ、これからも僕は君の傍に居るよ。生まれ変わったとしてもね」
「……ん。そうだね。本当に、あなたに出会えてよかったわ。それじゃあ、これからもよろしく。私の事、離さないでよね」
ふたりは手を取りながら自然と歩き始めた。
光り輝く、その向こう側へ
-Fin-




