第27話 過去との決着
リリィ君と正式に交際が始まって1節が経過した。
2人で話し合った結果、職場の人達に報告すると『今更か』と呆れられた。
今思えば彼女の行動の中には僕への好意から来ていたものもあったし、周囲からすれば確かに『今更』なのだろう。
彼女を陥れようとしたベリンダ君は結果として仕事を失い遠縁の家へと嫁がされたという。
交際が始まるきっかけをもたらしてくれたとはいえ、一歩間違えば取り返しのつかない事態になっていたかもしれない事を考えると二度と顔を見たくないものだ。
交際が正式に始まったのならばナダ人としては実質後は結婚を残すのみだ。
そんな事を考えていると彼女の方から僕の両親に挨拶をしたいと言い出し、僕達は二人で実家を訪ねた。
気難しい母上とリリィ君が上手くやれるか心配だったのだが心配は無用だった。
父上に応接間から連れ出されしばらくして彼女の泣き声が聞こえた時はかなり焦ったが何か仲良くなってるし。
わけのわからないまま困惑していると彼女が抱きついてきて……
「大好きって愛情表現だから」
天上の女神様、彼女と引き合わせてくれたことに感謝いたします。
「おい、ユリウス。この娘を裏切って泣かしたりしたら本気でぶっ殺すから覚悟しておけよ?絶対離すんじゃねぇぞ?」
母上から物騒な言葉が飛び出すがいつもの事だ。
言われなくても離したりはしない。
だがその後、彼女と別れた後に事件は起きた。
強烈な胸騒ぎを思えて家へ帰る彼女を追いかけた。
するとどうだろうか、彼女は男の腕を掴まれ引っ張って行かれようとしていた。
初めてだった。
彼女を掴むと同時に初めて人を殴った。
それも顔面を力の限り。
直感で理解していた。恐らくこの男が彼女を『壊した』張本人なのだと。
そしてやはり、思った通りであった。
更に彼女の口から出た言葉。それは、彼女にとって『初恋の人』であったという事。
「こんな男のどこがいいんだよ。いいか、俺はリリィと昔からの付き合いなんだ。お前みたいな半端者が入る込んでくるんじゃねぇよ。なぁ、そうだろリリィ。俺は誰よりもお前を愛してるからな」
彼の口から紡がれる言葉は正しく『毒』であった。
自分の中で怒りが吹きあがってきて……
「ふざけるな!何が『誰よりもお前を愛している』だ!ふざけるのも大概にしろ!!彼女を愛しているなら何故傷つけた!?彼女がどれだけ苦しんだと思っているんだ!!」
叫んでいた。
許せなかった。自分勝手なこの男の事が。
あの夜、彼女が涙を流しながら語った過去。
そして今夜そこに加わった更なる真実。
昼間母上と話をしていたのはこの事だったのか。
彼女に寄り添っていたつもりだったがまだ足りなかった。
そんな自分が情けなくて、そしてこの獣みたいな男が許せなかった。
□
ルークは多くの人間を傷つけていた。
リリィ君は勿論、彼女と共に秘密を抱え続けたケイト君、そして……アリス君の事も。
「リリィがどれだけ苦しんだかわかるか!?どれだけ泣いたと思ってるんだ!毎晩悪夢にうなされて、男の人を怖がるようになって。お前がリリィを、ボクの大事な姉さんを壊したんだ。やっと前に進みだしたのにそれをまたお前は!!!」
乱入して来たアリス君が叫びながらルークに攻撃を加えて行った。
その実力差は圧倒的であり、あっという間にルークを追い詰めていた。
そして彼女は大きく刀を振りかぶった。
まずい。
彼女はルークを殺すつもりだ。
かつて、彼女は僕にリリィ君を託した。
それは心を救って欲しいという意味。そしてもう一つ真意があった。
自分がルークへの復讐を果たした後、傍には居られなくなる。だから……
「ダメ!アリスッ!」
リリィ君が叫んでいた。
そうだ。このままでは彼女が十字架を背負うことになる。
そんな彼女を止めたのは……弟のホマレ君だった。
「もう止めてくれアリス姉さん。こんな奴殺したって何にもならない!!」
「ダメだよ。ボクはこいつを殺さないと……こいつを生かしてたら折角リリィが幸せになろうとしてるのにいつか壊されてしまう!ボクがやらなきゃ。リリィが泣いて助けをを求めたのに気づかなかったボクがやらなきゃいけないんだ。だからホマレ、どいてよ!ボクはこいつが憎いんだ!!」
リリィ君が唇をかみしめていた。
泣き叫ぶように紡がれていくアリス君の言葉の意味を理解し、愕然とした。
何て残酷な……学生時代、アリス君が姉の事で見せていたどす黒い怒り。
あれは姉を乱暴したこの男、そして自分自身に向けられていたのだ。
10年間、ずっと自分を責め続けて……まるで『呪い』の様に。
「絶対に嫌だ!リリィ姉さんにはユリウスが居るからもう大丈夫だ。あんたも前に進んでくれよ。姉さん!もう自分を赦せ!!」
弟の叫びにアリス君が刀を落とした。
「あぁぁぁぁぁっ!!!」
絶叫しながら膝をつく妹を見て、リリィ君は決意を固めた様だった。
「大丈夫。見ていて……」
彼女は襲い掛かってくるルークを格闘技で圧倒し武器を奪う。
そして最後に……
パァァァァンッ!!
力いっぱい彼の頬を叩いた。
「さようならルーク。あんたなんか大嫌いよ。もう2度と私と、私の愛する人の前に現れないで!!」
完全なる決別の言葉。
過去との決着をつけるという彼女の強い意志がこもった言葉であった。
それを受けても尚、彼女を諦めきれず汚い毒の言葉をまき散らすルークであったが、その最期はあっけなかった。
魔物に変身した女が彼を丸のみにしてしまったのだ。
それは図らずも僕達の始発点となる出来事について裏で糸を引いていたという女だった。
リリィ君を異世界へ迎えに行く際出会っていた。
彼女はいつも通り人を食ったような口調でおどけ、そして消えて行った。
□□
ルークによる騒動が終結した後、今度は家まで送ると言った僕に対し彼女は『ついて来て欲しい』と展望公園に連れて行かれた。
存在は知っていたが来るのは初めてだった。
どうやらひとりになりたい時なんかはここに来ているらしい。
彼女はルークの事を黙っていた事を謝って来た。
「やっぱり、怒ってる?」
「いや、怒ってはいないよ。僕が同じ立場でもやはり話せなかったと思うよ」
そして取り留めも無い話を少しして……
「ユリウス。手、出してくれない?」
「うん?」
彼女の手が僕の手に重ねられる。
震えは、無かった。
「リリィ君?」
「ん。ちょっと待ってね」
急に手が温かいものに包まれる感覚があった。
何かしら魔法を使ったのだろうか?
彼女がそっと手を離すとそこには……
「こ、これは……」
それは指輪だった。
そうか、これは彼女が『錬成』した……つまり。
「結婚しよう、ユリウス」
思考を巡らせ状況を整理するより早く、彼女の口からその言葉が紡がれた。
「え……えええっ!!?ま、待ってくれ!今、け、結婚って、結婚って言ったのかい?」
あまりに刺激的な言葉に思考が混乱を始める。
その間にも彼女は言葉を紡いでいく。
「今日、ルークに連れて行かれそうになって、本当に怖くて、今度こそ駄目だって思った。もうあんたの顔が見れなくなるって……そんなの嫌だった。絶対に嫌!だから……この先もずっと、私の事を見守って想い続けて。私のナイト様でいて。ね?」
思考がまとまると同時に身体の奥がじわっと熱くなるのを感じた。
僕の返事は……
「勿論だとも。僕は君のナイトだ。だ、だから」
彼女が錬成した指輪を自分の指に嵌めて言った。
「僕も君と結婚したい。よろしく頼むよ」
その後、僕達は初めての口づけを交わした。
それは彼女がまた一歩、前に進むことが出来た証であった。
「やっと……出来たよ。あんたとキス……長い間待たせてごめんね」
「リリィ君……」
「ユリウス、改めて誓わせて。あなたを一生大切にするから。私の事、離さないでね」




