間話4 幸福な時間
1240年。
何という事だろう。
「やばい。天使が……天使がここにいるよ」
ベビーベッドに横たわる我が子の寝顔を見ながらつい頰が緩むのを感じる。
「本当に大袈裟なんだから……」
「はっ!こっちには女神!?」
「……何がすごいって本気でそれ言っててしかもこのやり取りが本日4回目って事よね……」
そんな事を言われても僕にとって娘は天使だし妻は女神みたいなものなのだ。
彼女に出会って10年近くになるがここまで本当に長い道のりだった。
あれ程までに嫌われていた状態からよくぞここまで。
「うん。実に感慨深いな。今でも目を閉じれば思い出すよ」
「な、何をよ?」
「僕の顔面に拳を叩き込んで関節技を掛け、ドラゴンスープレックスで投げた君の雄姿」
「ちょ、あ、あれは……」
「わかっているとも。あれは僕が悪かった。だがあれで目覚めたからこそこうやってこの子がここにいるんだなって思うと美しい想い出さ」
「目覚めたって…………変態要素に?」
「失礼な。僕のどこに変態要素があるというのさ?」
「すぐに脱ぎたがるじゃない。職場でヒイナをお披露目する時も脱ごうとして私に投げられたの忘れた?」
確かにあの時投げられた。
リリィの妊娠がわかってからはドラゴンスープレックスは封印されていたので久々に投げられて喜びを感じた。
「あの時、ヒイナったらはしゃいでいたわね」
「流石は君の娘だよ」
「あなたの娘でもあるでしょ?」
「うむ。そうだね」
何か今、ちょっとラブラブな感じを醸し出したよね。
「だけど本当に、ここに来るまで色々あったよね」
「そうね。今思えば私も結構早い段階で好意を抱いてたみたいだし、さっさとそれに気づいてあなたと付き合っておくんだったと思ったわね」
彼女は苦笑した。
「それはあれかい?あの『お化粧』の事とかかい?」
「そうね。ちなみに『看病』の時にはあなたの事が好きって自覚してたから」
あったなぁ、そんな事。
「あの時の君は本当に女神様に見えたよ。急に家を追い出されて一人で暮らし始めた矢先に風邪をひいちゃってね」
「ちなみにあれって母様達とマムの策略だから。後でわかったんだけどあんたを実家から追い出すことで私があんたの世話を焼くように仕向けた策らしいわ」
「ええっ!?母上達が!?」
「結構昔から繋がってたのよね、あの人達」
そう言えば僕とリリィ君がもめた時以来の茶飲み友達って言っていたな。
そうか、僕達は母上達の掌だったわけか。
「まあ、でも……おかげでこうやって君と、そして娘と一緒に居ることが出来るんだ。そう考えると母上達には感謝しないとね」
「ん。そうよね。本当に感謝しかないわ………」
不意に彼女が目を瞑り黙り込む。
「リリィ?どうかした?」
「…………ユリウス。その……私より先に、死なないでね?」
「え?」
「私がこうやってもう一度人生を取り戻して幸せでいられるのはあなたのおかげだから。だからもし、あなたが居なくなったらって……」
人はいずれ死ぬ。
そのタイミングは正直わからない。
それでも……
「わかってるよ。僕は先に死なない。君の傍に居続けるよ。だからそんな不安な顔をしないでくれ」
「ん。ありがとう……」
それでも、彼女とこの子の為にも生き続けよう。




