間話3 花粉とマスク
「ぶへぁくしょんっ!!」
「やだ。まさか風邪!?脱ぎ慣れてる人だからあまり風邪は退かないイメージだったんだけど……」
僕の盛大なくしゃみにリリィが口をへの字に曲げる。
「いや、恐らく花粉だね。ていうか君、さり気なく僕が常に脱いでいる風に言ってないかい?」
「割と脱いでるじゃない。特に春先は」
だからあれはモンティエロ家に伝わる男性の正装だと何度説明しても彼女はそれを認めてくれない。
かつては神様にこれで色々と懇願して認められたくらい格式高い正装なのだがね。
「君は随分と平気そうだけど花粉は大丈夫なのかい?」
「ん。状態異常耐性は高いから」
そうか、『花粉症』は状態異常の一種だった。
一度麻痺耐性で酷い目に遭った事があるらしく彼女は状態異常に対する耐性強化を学生時代にかなり頑張ったらしい。
「とりあえず病院へ行ってお薬貰わないとね。それじゃあ、行きましょうか?」
「いや、一人で行けるよ?何もわざわざついてこなくても……ぶへぁくしょんっ!!」
「途中で倒れられても困るわ。それにあなた、医者嫌いでしょ?」
「うっ!!」
どうやら気づかれていた様だ。
付き合いが長いのもあり新婚ながら熟練の夫婦並の理解度だ。
「そうだ。『マスク』とやらをつけておかないといけないわね」
「マスク?」
「ええ、父様の故郷では衛生面からくしゃみをよくする人には『マスク』というものを装着することが推奨されているらしいわ」
そして僕はリリィが取り出した『マスク』を装着したのだが……
「ねぇ、君。多分これは何かが違う気がするよ?」
彼女が渡してきたものは白い虎の顔をかたどった『覆面』であった。
「そう?似合っていると思うけど?それじゃあ行きましょうか」
「え?これで外歩いて病院に行けとか凄まじい羞恥プレイなんだけど…………」
「何言ってるのよ。ほぼ全裸の男とダンジョンに挑まなければいけなかったあの日の私がどれだけ恥ずかしかったと思っているの?」
正装の僕とダンジョンに挑んだ想い出?
随分とエキサイティングな状況だね。
「それは学生時代の『ダンジョン課題』の事かい?」
まあ、彼女と潜ったダンジョンなどそのひとつしかない。
どうも彼女の実家は冒険者であるがダンジョンに潜るのを良しとしない傾向がある。
ダンジョンを本格的に攻略するとなると長期間となる。
基本的に家族との時間を大切にしたい一族なのでダンジョンに潜ることなど殆ど無いのだ。
「しかも正装のせいで微妙に役に立たなかったし……」
「あれは……反省してます」
確かにあまり役には立っていない。むしろ足を引っ張った場面もあった。
「それにしても『ダンジョン課題』か。懐かしいね」
「まあね……確かあの時は最終的に二人して先生に怒られたわよね」
「君がダンジョンをめちゃくちゃにしてしまったからね」
「…………あんなちゃちなダンジョンを出して来るのが悪いのよ」
こぼれ話
ユリウスは医者嫌いです。
よくリリィに引っ張って行かれますが、そこでリリィは毎回台車に縛り付けられて運ばれている自分の父親を目撃します。
意外と父親と似ているところのあるユリウスなのでファザコン気味なリリィにとってはある意味理想の相手です。




