第14話 彼女は人生を諦めている
リリィ君達と初めて昼食を共にすることが出来た。
今まではずっと遠目に見ているだけだったがこうやって共に過ごすことが出来たのは大きな進歩だろう。
血統重視派の友人たちが何か言いたげな様子であったが相手にしない事にした。
貴族血統の繋がり。それは人の上に立つものとして当然のものだとかつては思っていた。
だが、果たしてそうだろうか?
徒党を組み、自分より弱い立場の者を蔑んでいるだけで美しくもなんともない。
それならばリリィ君ら家族の絆の方が何十倍も美しく尊く感じた。
心が満たされた感じを覚えながら帰路に付こうと廊下を歩いていると植え込みの陰から声をかけられた。
「ユリウス」
「おや、何かな、アリス君。そんな所でかくれんぼかい?」
「ついて来て。お前に話がある」
「…………」
即座に理解した。
今の彼女はいつものアリス君とは『違う』。
いつものちょっとのんびりとした妹の顔ではない。
かつて異世界で見た敵と対峙した時に見せた真剣な眼差し。
危険かもしれない。
もし彼女に襲われたら間違いなくあっという間に命を落とすだろう。
だが……
「……わかった」
僕はアリス君について行くことにした。
この眼差しの時、彼女は真剣に姉の事を思っているのだから。
□
アリス君に連れられて訪れたのは人気のない練武場の裏。
少し身構えつつ、質問を口にした。
「それで、話とは何かな?まさかリリィ君に近づくなとか……」
「お前、リリィ姉の事本気なんだよね?」
意外な質問だった。
てっきり昼間の事を咎められるのかと思っていた。
それほどに彼女は昼食の間、僕を睨んでいたからだ。
「ああ」
「ボクの目を見てはっきりと言える?『リリィ』の事、本気?」
気づく。
姉の呼び方が『リリィ姉』から『リリィ』に変わっている。
あの時も、異世界で敵を一喝した時にも同じような現象が起きていた。
空気もピリピリと張りつめている。
「……勿論だとも。彼女は狭量だった僕の考え方を変えてくれた恩人だ。僕は人生をかけて彼女の傍に居ると決めたよ」
だから、こちらも真剣に彼女の目を見て答えた。
「…………そっか」
アリス君は目を瞑り深呼吸。
張りつめた空気が消えた。
「……わかった。お前を信じる。その代わりこれから話す事は絶対内緒だよ。まず……リリィを頼むよ」
「アリス君……それは」
「うん。ボクはお前を認める」
意外な言葉に少し戸惑う。
「リリィはさ、少し明るくなったけどやっぱりどこかで『人生を諦めて』いるんだ」
人生を諦めている?
彼女が?
「異世界でリリィが一緒に居た男の人、ボクが思うにリリィはあいつの事好きだったと思う」
「それは……」
胸が痛む。
「そうだね……僕もそう思った」
自分よりも年上の大人だ。
二人の間にどのようなやり取りがあったかはわからない。
だが……彼女は『相棒』と呼んでいた。
「ボクはリリィがあのままあっちに残るって思ってた。それはボク達にとって寂しい事だけど自分の人生について前向きになってくれるならありだと思ってたよ」
確かに、彼女があのままあちらに残る可能性はあった。
その場合、自分はどうしただろうか?
こちらの世界の家族を捨ててでも彼女と一緒に異世界に残れたか?
否、彼女が残るという事はあの男性を『選んだ』ということだ。
もはや勝ち目などない。
それが彼女の選択なら僕はそれを尊重するしかなかっただろう。
「でも……リリィはあの人と別れてこっちに戻って来た。嬉しかったよ。大事な家族だからね。それにお祖母ちゃんも一緒に来てくれて、ウチはもっと賑やかになった。だけど……」
アリス君は唇を噛み顔を歪めた
「リリィの根本にある『絶望』は何も変わっていない。今でもリリィは人生を諦めている。諦めているから好きな人が出来てもその気持ちに気づかず道を違えたんだ。リリィは、現在進行形で『壊れたまま』なんだ」
その言葉に頭を殴られたような衝撃を覚えた。
彼女が『壊れたまま』?
「ケイトは薄々気づいているけど多分踏み込めない。もしそれでリリィが完全に壊れてしまったらって恐れているから」
彼女はそれ程に不安定だったのか。
だが何がそうさせた?
トイレに閉じ込められたあの出来事?
それほどまでに彼女が人生に絶望する様な出来事なのか?
わからない。だが恐らく僕に見えていない『何か』が彼女を絶望させている。
「お前にはリリィを何とかしてくれるかもって可能性を感じる。だから、ボクはお前にリリィを託す。時間がかかってもいい。ボクの大事な姉を助けて欲しい」
母上は恐らくその『何か』に気づいている。
そしてそれは下手に触れることで彼女を完全に壊してしまう程のものなのだ。
「覚えておいて。リリィを泣かせたり裏切ったりしたらその時は斬るから」
そう告げるとアリス君はその場を後にした。
僕は甘かった。リリィ君との距離が縮まっていき仲良くなれていると思っていた。
彼女の婿になるというミッションもほとんど成功に近づいている状態だと。
「ここからが本番、というわけか」
彼女は『僕を選んでくれた』わけではない。
そう、『何も選ばなかった』。現状維持のままだったのだ。
人生を懸けるとアリス君に誓った。
その言葉の意味と重みを改めて感じたのだった。
こぼれ話
というわけでこの時点でのリリィは『人生を諦めている』精神状態です。
「異世界ハーフの家出少女」の地球残留エンドでは前向きになり恋愛をしていますが結局根っこにあるトラウマに蓋をして生きる道を選んでいるのでやはり『諦め』がどこかにあります。
なので結果として彼女の心を本当に救えたのはユリウスだったという事になります。




