第8話 踏みつけてください
今話あたりからユリウスが変態にクラスチェンジを始めます。
更に1週間が経過した。
彼女は見つからない。
その事実が僕自身の心に重くのしかかっていた。
彼女と結婚だの家を放逐される恐怖などどうでもよかった。
ただ無事でいて欲しい。
そう願いながらレム家の様子を伺いに行った時、僕はある光景を目にした。
レム屋敷の庭で今まで見たことのない女性とケイト君が言い合いをしている。
アリス君ともうひとり活発そうな少女が殴りかかろうとするケイト君を抑えている。
もしかしたらリリィ君の行方と何か関係があるのかもしれない。
追い返されるだろうが気になって仕方が無い。
僕は屋敷の敷地に足を踏み入れた。
「やあ、選ばれし貴族の坊や。いらっしゃい」
女性はいたずらっぽい笑みを浮かべ僕を見た。
「ユリウス、あんた今重要な話をしてるんだからあっち行っててよ!こいつにリリィの行き先を吐かせるんだから!!」
この女が彼女の行き先を知っている?
「あなたは何を知っているんだ!教えてくれ、彼女は何処にいる!?無事なのか!?」
突然差し込んだ希望の光に僕は思わず女性に詰め寄って叫んでいた。
その様子に女性を含めその場にいた全員、鳩が豆鉄砲を食ったような表情になる。
「あー、君がそういう反応するのは想定外だったねぇ……あー、うんうん。これはもしかして……よし、いいよ。教えてあげよう。その代わりみんな殴るとか止めてね」
そして彼女、イシダ・シラベは語り出した。
一連の騒動はこいつが仕組んだことだった。
全ては理解できなかったがリリィ君にある危機が迫っており一時的に家族から引き離す為、僕の友人を操り僕を焚きつけあの騒動の引き金を引かせたというわけだ。
リリィ君の家族は憤っていたが僕はリリィ君が無事に生きているという事実に胸が熱くなっていた。
そして、どうやら彼女は『地球』という異世界にいるらしい。
イシダは更に続けた。最初の危機は去ったがその異世界で新たな危機が迫っている、と。
ある勢力がリリィ君を狙って攻撃を仕掛けようとしていらしい。
地球へ連れて行く手段はある。ただ、帰って来られる保証はない、と彼女は言った。
「わかった。僕が行こう」
誰よりも早く、言葉が出た。
場にいる全員がこちらに視線を注いでくる。
「ユリウス、あんた今の話を聞いていたの?片道になるかもしれないのよ?」
「聞いていたよ。それでも構わないと思っている。僕は彼女を助けに行く」
「……ありがたいけどこれはあたし達家族の問題。だから無関係な……」
「僕はリリィ君に恋をしている」
同行を拒否しようとしたケイト君の言葉を遮り彼女への想いを口にした。
罪悪感もあった。母上から脅されてもいた。
だがそんなものとは関係がなく……彼女に夢中になっていた。
お姉さんの為に怒り僕に向かって来た彼女の雄姿。そして見事な技の数々。
そんな彼女の事がどうしようも無く好きになってしまったのだ。
「ユ、ユリウス……あ、あんた今何て……」
ケイト君が口をパクパクさせている。
「あのドラゴンスープレックスで僕は目覚めた」
そう、あの一撃が狭量だった自分を変えてくれたのだ。
「め、目覚めた!?目覚めたって……」
「僕は誓おう。彼女に相応しい男になる。全てを受け止めることが出来る男になる!ならなくてはいけないんだ!!」
「す、全てを受け止める……え、あんたそういう趣味が……うわぁ……」
「ケイト君!」
「ひっ!は、はいっ!!」
「君に対しどれだけ失礼な真似をしているかは十分理解している。いくら謝っても許されない事だろう。本当に済まない。だからせめて……」
地面に座り額を土にこすりつけあらん限りの誠意を叫ぶ。
「気の済むまで僕を、思いっきり踏みつけてくれたまえ!!」
「えぇぇぇぇぇっ!?」
幼い頃、夜中にトイレに起きた時の事だ。
父上が母上に踏みつけられて『すいません』としきりに謝っている場面を目撃した。
思うに父上が何か悪い事をして母上を怒らせたのだろう。
翌朝には何事もない様子だった。母上は怒りだすと大変な人なのでその怒りを静めるほどの効果がこの謝罪方法にはあると僕は睨んでいる。
ただ腑に落ちないのは父上が妙に嬉しそうな感じで謝っていたという事だ。
あれはどういう事だったのだろう?
「アリス姉ちゃん。あの人もしかして、へん……」
「うえぇぇ……ダメだよメール。あれは危ない人だから見ちゃダメ!!」
先日は怒り狂っていたアリス君も華麗な謝罪に矛を収めてくれている様子だ。
凄いなこの謝罪。やはりここぞという場面で使うもので合っていたのだ。
「頼む。どうか僕に罰を与えてくれ!そしてリリィ君を助けに行かせて欲しい!!」
「あ……あ……お願い、お願いだから顔を上げて。立ち上がって……これ見られたらご近所さんからあらぬ誤解を受けるからぁ……」
涙目になりながら訴えるケイト君だがここで引き下がってしまうようでは誠意は伝わらないだろう。
「そう言わず頼む!僕は本気なんだ!!さあ、思う存分踏みつけてくれ!!」
「ひぃぃぃぃ!?」
「さぁ!!」
この後、すったもんだの末往復ビンタ10発で交渉が成立した。
礼を言うとケイト君は手を消毒しながら「こんな奴だったなんて……」としきりに呟いていた。
こぼれ話
DOGEZA文化はやたらと異世界ニルヴァーナに転生して来る日本人が伝えたものです。
地球世界とニルヴァーナ間は時空がねじれているので転生の際にどの時代に飛ばされるかはランダムです。
但し、神が時代などをきちんと指定してゲートを作った場合はその限りではありません。
つまり、大抵の転生は神が適当に転生させている感じですね。




